仕事は常に”相手の言い値で動く”が正解な理由…自分を過大評価せずに「適正価格」を見つける方法・元ロッテ里崎
野球関連のYouTubeチャンネルや野球教室など、引退後も幅広く野球にかかわっている元ロッテの里崎智也氏。一方で里崎氏は「野球は好きじゃない」とも公言する。引退後の里崎氏がたどり着いた、“ビジネスとしての野球”との向き合い方とは――。全3回中の3回目。
※本稿は里崎智也著『YouTube『里崎チャンネル』はなぜ当たったのか 再び1億円プレイヤーになるまでにしたこと全部』(徳間書店)から抜粋、編集したものです。
第1回:プロ野球引退後「1億円稼ぐ人」と「メンタルになる人」の決定的な違い…元ロッテ・里崎が現役時代にやらなかったこと
第2回:なぜゲストに頼るYouTuberはつまらないのか…「引退後も1億円」元ロッテ・里崎の野球解説ハック
自分の適正価値を知れ
自分の評価はどのくらいなのか。「自分の適正価値」というものをわかっていない人って、案外多いものです。自分を売り込もうと思って、あえて高く見せすぎると、それこそ失敗したときに悲惨な結末が待っているものです。
こんなことがありました。引退2、3年目のころ、僕に講演をお願いしたいとある会社からオファーを受けたとき、「1回1〜2時間のセミナーを5回にわたってお願いしたいのですが、ご検討いただけるでしょうか」と言われて、正直戸惑いました。
確かに講演はこれまで何度も行っていますが、それは1回きりでよかったからでした。僕の話を実際のビジネスの場で応用できることがあったとしても、5回連続で講演を行うような話ではないと考えていたのです。
しかも、その内容が、起業家のためのセミナーで、マーケティングの話とか、顧客管理や組織運営の話なども盛り込むような話だったんです。ついこの間までプロ野球選手だった立場で、なぜ企業の起こし方とか運営の仕方を人に教えられるのか。
そこで僕は率直にこんな提案をしてみました。「この話は僕である必要性ってないんじゃないですか? 僕の能力じゃ無理です。どなたか違う人を立てられたほうがいいと思いますよ」
担当の人はうなずきつつも、「じゃあ、それならこれは……」と別の方法を急遽提案してきたんです。僕はますます「無理」だと感じました。というか、なんかこの話、おかしいんじゃないかと。しかも、ギャラがやけに高かった。それもまたおかしいなと。
結局、この話はお断りしたんですけど、こう言うと、恐らく「せっかくのギャラのいい仕事を自分から断るなんてもったいない!」と言い出す人もいるでしょう。
でもここで僕は、こう思ったんです。「自分の適正に合わない仕事をギャラの高さだけで受けたりすると、良い仕事はできない」。
できそうなチャレンジであればやってみるべきですけど、どう考えても無理な仕事で、明らかに自分のキャパを超えているのであれば、勇気を持って断るべきです。
宜しくない結果になれば、かえって自分の価値を落としてしまうかもしれない。だからこそ、こういうことなんだと思うんです。
新規で会う人は、僕のキャラクターはなんとなくつかんでいても、どういった仕事ならできるのか、細かいことまではよく知らない。
だからこそ、「自分は何ができて、何ができないのか」「それを踏まえて、自分が求めるべきギャラはどのくらいが適正なのか」、そしてやはり「それが面白いのか、面白くないのか」。少なくともこの点を自己評価することができなければ、自分という商品を適正価値で売ることは難しくなります。
「相手の言い値で仕事をする」のはメリットしかない
相手の言い値で仕事をする――。こう聞くと、先方にイニシアティブを奪われた感じに受け止めて、「なんか一方的に損させられるんじゃないか?」と疑わしく思う人は多いと思います。これ、まったくの逆です。むしろメリットしかないと僕は思うんです。
引退後に日刊スポーツで解説者をやらせてほしいと自ら売り込んだことはありましたが、これの狙いも解説者の仕事で儲けようということではなく、「僕の名前を広く知ってもらえること」「仕事のノウハウをつかむこと」が最大の目論見でした。
先方からも「あまりお金は出せません」と言われていましたし。「引退後も『里崎智也』の名前を多くの人に知ってもらいたい」、これが最大の目的ですからね。
ロッテファンはもちろん、プロ野球ファンなら僕のことを知っていてくれるでしょうけど、それ以外の人は、引退直後の僕のことなんてほとんど知らなかったんじゃないですかね。現役選手として表に出なくなるわけですから、これからは僕のことを知らない人に名前を売っていかなければなりません。
特に、テレビやラジオの野球番組以外、雑誌などについても専門誌以外に登場するとき、見てくれる相手の大半は「里崎って誰?」という人たち。そういうアウェイな場所に出続けること、さらにそこでインパクトを残すことが、引退後の僕のポジションを決めるわけですから、そういう場を確保するには言い値で仕事を受けることは当然だと考えていました。
講演会の仕事も同じ。今でこそ一定の講演の条件で金額を決めていますけど、当時の僕は大勢の人の前で気の利いたことを話せるほどのトーク力があるのかどうか、正直、自分でもわかりません。
もし、高額なギャラを要求して登壇したものの、全然ウケなかったとか、むしろ不評だったりしたら、二度と講演依頼なんか来なくなりますよ。そんなリスクを背負うくらいなら、相手の言い値で講演を行って、まずは僕自身のトークスキルを磨くことを優先させたほうがいい。
その後、1時間で話すとき、90分で話すとき、2時間で話すときなど、さまざまな時間や内容に対応できるように力をつけていったのです。
さらに言えば、相手の言い値なのでギャラは安いです。それが、喋らせてみたら案外面白いとなれば、「里崎、意外とトーク力があるんちゃうか?」と思っていただけるようになる。その結果、1本、また1本と、少しずつではあっても講演会の本数が増えていくわけです。
「これくらいは儲けたい」というその場の欲はあえて捨てて、「これからの自分に必要なものは何か」を突き詰めて考える。自分の名前を広めたい、でも自分の能力がまだどの程度なのかわからないときには、言い値で仕事を受けましょう。僕のような仕事に限らず、営業仕事などにも言えることじゃないでしょうか。
「実は野球が好きじゃない」と話すワケ
YouTubeでプロ野球について熱く語る僕の姿を見た人は、「里崎って野球が本当に好きなんだなあ」と思うかもしれませんが、実は真逆なんです。
僕、野球が好きじゃないんですよ。
確かに僕はロッテで現役を16年間続けましたし、その後も野球評論家として活動しているので、「野球のことが詳しい」のは間違いありません。けれども、「野球が詳しい」のと、「野球が好き」なのはまったく別。
それに野球は、「選手としてプレーしている」ときは大好きでした。自分がいい成績を残すにはどんなことをすればいいのか、あるいはチームが優勝するにはどんなプレーをして貢献度を上げていくべきなのか。それだけを考えて必死で野球に打ち込んできました。見るのは好きじゃないってことなんです。
例えば、僕は他の野球解説者の人がどんな解説をしているのか、引退してから一度もテレビやラジオで見たり聞いたりしたことがありません(解説者2人体制で解説しているときを除く)。
野球がただただ好きな人なら、他の人の解説を聞いて参考になる部分を勉強することもあるんでしょうけど、僕は他の解説者がどんな話をしているのかには関心がなく、自分が話したいことを話せていれば、満足なんです。
もう一つ、発見したことがありました。それがこれ。ただただ野球が好きというわけじゃないから、どこかに忖度することなく、客観的に野球を見ることができるということ。僕がどこかのチームに肩入れしたり、誰か贔屓の選手を応援するような調子で解説することが一切ないのは、第三者の目で距離を置いて野球を見ている証拠なんだと思います。
つまり、僕の野球評論は「ビジネス野球」と言っても過言じゃないかもしれませんね。でも、それでいいと思っています。目の前で起きたプレーに対して、あらゆる角度から客観視して、忖度なく評論できるのが僕の強みであり、最大の売りですから。
「野球が好きじゃない」とは言いつつも、野球は今の僕を支えてくれている根幹ですからね。末永く良い関係を続けていきたいものです。