ネットは僕を無敵にした…10代グラドルの誹謗中傷を続けた40代フリーターの言い分

「挫折」したライター志望者がネットの深みにはまったわけ
「和解して、とくに生活に変わりはなかったです。もう昔の話です」
新宿西口の喫茶店、ようやく口を開いたBさん(40代)が視線を落とす。「ようやく口を開いた」とはインターネットにおける誹謗中傷を追う中で、実際に訴えられた彼にその事実と、和解に至った経緯の告白をずっとお願いしていたからだ。そして、ネットの誹謗中傷で命を絶った女子プロレスラー、木村花さんの事件からしばらく経った2021年に、「話します」とメールがあった。
「自分が名無しの一般人でラッキーだった、というのが本音ですね。変に名前の知られている人だったら大変でしょう」
Bさんは1990年代末期、中小出版社で編集アルバイトをしていた。退職後の一時期、ライター的なこともしたが、あまりうまくいかなかったと話す。
「編集部ではバイトで、その後ライターもしましたが無記名の紹介記事だけ。自分の名前なんてどこにも載らない立場で終わりました。つまり名無しの一般人です。有名人だったら騒ぎになるし、ずっと言われるじゃないですか。でも自分みたいなその辺の一般人なら、和解したら終わり、です」
短い業界体験、Bさんいわく「挫折」した。ネットの深み、匿名の発信にハマったのはそれ以降だ。
「私のころはネット掲示板です。匿名掲示板は匿名だからこそ平等です。誰が言ったか、ではなく何を言ったか、がすべてです。ハマりました」
誰もが言論を手にして、現実の上下関係と関係なしに自分の意見を主張できる、かつてのネット民と同様、Bさんは2000年代のインターネット、とくに匿名掲示板に期待した。
「実際、ネットの世界では、業界人っぽい話をすることで受け入れられました」
リアルで満たされなかった承認欲求をネットで満たす
匿名だからこその、同調と誇張上等の文化、そんな空気にハマったBさん。日本最大級の掲示板「2ちゃんねる」はもちろん、当時乱立した他の掲示板やネットサービスにも出入りしたと話す。とっくに業界とは関係ない立場だったが、業界人を気取って適当な裏話で成功者を叩き続けた。
「掲示板の投稿者の多くは業界人の裏話に賛同してくれましたから、高揚感が凄かった」
Bさんは大学を出たあと新卒で出版社を受けたがすべて落ちたという。