自ら死を選ぶ人は女性の2倍!なぜ日本は「男性すら生きづらい」世の中か…フェミニストは「孤独死抑止で、男は友達作れ」と語るが

 弱者男性とは誰なのか。日本にとっての大きな問題であるのに、あまり注目されないその存在について、『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)を上梓した、「エッセイストのトイアンナ氏が解説するーー。

第1回:「キモい金なしおっさん」男性差別の実態…日本男性の25%、1500万人が弱者男性!「自業自得」「努力不足」と切り捨てられる

第2回:男性2割弱「配偶者からDV被害」の実態に婚活のプロ「全く少数ではない」…弱者性がわかりにくい男と、理想的弱者の女・子ども

第3回:結局「チー牛」って誰なのか…馬鹿にされ、自業自得と言われ「現代の差別のど真ん中にいる人たち」男の25%を占める「弱者男性」の悲惨さ

第5回:「男たるもの働け」親に首を締められ、職場でも殴られ…弱者男性の生き地獄「DV被害、いじめ、パワハラの悲劇の話」

第6回:「弱者男性」「チー牛」と差別される男性たちの実態…男性ならではの「自分を弱者だと認めるしんどさ」

目次

女性差別はある。それは、間違いのない事実だ。

 女性差別はある。

 それは、間違いのない事実だ。

 2022年時点で、フルタイムで働く男性の賃金の中央値を100としたとき、女性はOECD諸国の平均88.4に対して77.5しかない。

 男女の賃金格差はどの国でも見られるが、先に挙げた女性の賃金の中央値ではOECD諸国のなかでも日本は最下層に位置する。 2021年7月時点では、プライム市場に上場する企業の約3分の1において、女性役員が0人というのが実態である。さらに、30~60代女性の4割がセクハラを経験したことがあるという事実も明らかにされている。

 繰り返すが、女性差別はある。それは、明らかだ。

 だが、「男性に対する差別」もある。

 そして、男性差別については、驚くほど語られることが少ない。

男性は女性を養って当たり前、の価値観

 政府がまとめた「令和4(2022)年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果(概要)」では、 性別役割に対する考え方についてアンケートを実施、男女それぞれ約5400人の回答が得られた。その中で「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」と答えた男性は48.7%にのぼった。

 同調査で「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」と答えた男性は約34%、「男性は結婚して家庭を持って一人前だ」と答えた男性も30%を超えた。つまり、男性自身が、男性を縛っているのだ。

 さらに、同調査では男性の4人に1人が「男は強くて当然である」と捉えていることも判明している。むろん、女性もこういった意識を男性へ抱いており、デートで男性から奢られないだけで「私はバカにされている」と嘆いたり、怒りを抱いたりする話はよく見られる。

 こうして見ると、「女性は守られる存在である」「男性は強い生き物であらねばならない」という意識が男女ともに根づいていることが分かる。

 アンコンシャス・バイアスではこれまで「女性はこうあるべき」という、女性に対する偏見について語られることが多かった。だが、男性の弱さについて語るとき、「男性は強くあるべき」など男性に対する偏見についても私たちが無意識に捉えていたといえないだろうか。

男性の自殺者は女性の2倍「男性は女性より死にやすい」

「でも、男性は強いでしょ?」

 と、言いたくなる気持ちはわかる。だが、男性は強くない。

 たとえば、男性は女性よりも死にやすい。

 厚生労働省がまとめた「令和4(2022)年簡易生命表」によると、日本における平均寿命は、女性は87.09歳に対して男性は81.05歳。一般的な平均から見て約6歳もの差がある。

 さらに、厚生労働省と警察庁がまとめた「令和4(2022)年中における自殺の状況」を見ると、年間で2万1881人いる自殺者のうち、男性は1万4746人に対して女性は7135人。男性は女性より約2倍も自殺者が多いのだが、それが顧みられることはほぼない。

 男性は孤独死を迎える割合でも女性より多く、全体の8割を占める。また、配偶者がいない場合は、さらに早く死ぬ。2018年人口動態調査をもとに、配偶者有無による死亡年齢を見ていくと、未婚男性の死亡年齢中央値は66歳、また離別は71歳となっている。

 有配偶男性の平均寿命である81歳からすると、未婚男性は15年も早く死んでしまうのが実情だ。いっぽう、女性は有配偶者の死亡年齢中央値が78歳。意外にも、たくましいのである。

 死亡年齢における男女差の原因には、男性のセルフネグレクト傾向が語られている。男性は自分を大事にしていい、人に頼っていいと言われて育っていないがゆえに、コミュニティや医療に頼れず、死へまっすぐ向かってしまうのだ。

 これは、単に本人の意識の問題ではない。なぜなら、男性が弱音を吐いたとき、周りは同情ではなくバカにした態度を取るからだ。職場では出世しづらくなり、恋愛ではモテなくなる。鬱病の履歴があったことを告白しても女性は結婚できるが、男性は結婚できなくなるだろう。同性からは茶化され、異性からは避けられる。男性にとって、弱音を吐くことにメリットはないのだ。

 そもそも、男性は寿命が短いのだから、本来ならば孤独死は女性のほうが多くて自然となるべきだろう。だが、実態は男性がより孤独になりやすく、孤独に弱い生き物なのだ。

孤独な男性を受け入れるコミュニティの不在

 なぜ、男性は女性よりも早く死ぬのに、孤独死では割合が高いのか。その背景には、コミュニケーション能力の差が影響しているとも言われる。だが、これも政府が発表した「無意識の思い込み」である。実態は少し異なる。まず、孤独な男性を受け入れるコミュニティが、異様に少ないのだ。

 たとえば、男性へインタビューすると、こんな話を聞かされる。

「中年以上の男性がひとりで公園にいたら、不審者と思われて通報される」

「趣味のサークルでも受け入れてもらえるのは若い男性だけ。40代を超えたら趣味のサークルにわざわざ顔を出すなんて……と怪しまれる」

「若かったころ、コミュニティで中年男性を見ると警戒していた。男性の自分が警戒するのだから、女性が警戒するのは当たり前だと思ってしまう」

 フェミニストはよく「孤独死しないために、男性は友達を作れ」と語る。だが、実際に趣味のサークルへ参加しようとしても、男性は差別される。

 たとえば、書籍『弱者男性1500万人時代』では、ひきこもりの自助グループですら、中年男性がのけものにされる実態が明らかになった。身なりにあまり清潔感がなく、どんな仕事をしているか分からない。そういう中年男性がコミュニティにあらわれたとき、同じくみずぼらしい身なりの女性と比べて、どちらが大事にされるかは一目瞭然である。

 そして、そんな男性に対して「怖いから仕方ない」「だって、キモいんだもん」という言葉を放つことが正当化されているのが、現代の日本だろう。

男性の生きづらさを埋めるには

 男性の生きづらさを変えるには、男性に対する無意識の思い込みを、少しずつ変えていくしかない。

 かつて、女性に押し付けられてきた性役割のことを、エッセイストたちは「呪い」といった。

「女の子なんだから、勉強はほどほどでいいんだよ」

「家事育児は女性の仕事でしょ」

「女性だからお茶くみをして当たり前」

「女性だからこうあるべき」「男性だからこうあるべき」といった偏見を排する、男女雇用機会均等法が施行されて約40年。一昔前より少なくなったとはいえ、いまだに私たちは無意識のうち、偏見にとらわれている。

 とはいえ、進歩もあった。女性の生き方は自由になりつつある。無理やり結婚させられない自由を、われわれ女性は徐々に手に入れてきた。LGBTQに関する情報も豊富になり、性別にとらわれない生き方を模索する人も増えはじめた。

 こうした中で、これまで強くあり続けた男性が、弱さを見せる機会はいまだに訪れていない。今こそ、男性に対する差別に目を向けてもいいのではないだろうか。「男性は家族を養うもの」「男性だけが戦場に出るもの」「男性が女性を守るもの」……といった「呪い」を男性も解いていく時代が、ようやくきたのだ。

 2024年4月24日発売、トイアンナ氏による書籍『弱者男性1500万人時代』。貧困、コミュ障、毒親、発達障害、宗教二世、介護…。さまざまな事情を抱えた弱者男性について、国内統計データなども用いながらその実態に迫る。

トイアンナ『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)

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この記事の著者
トイアンナ

PAX株式会社代表/ライター。外資系企業のマーケティング職として約6年間勤務し、フリーライターとして独立。恋愛とキャリアを中心に執筆しており、書籍に『モテたいわけではないのだが(イースト・プレス)』『確実内定(‎KADOKAWA)』『やっぱり結婚しなきゃ!と思ったら読む本(河出書房新社)』など。

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