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羽生結弦を正当に評価する「世界」とその評価に困惑する「日本」…100年の中の偉人となりうると知っていた私たち

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

今回の快挙にピンときていない多くのメディア関係者

 羽生結弦が今世紀最優秀男性アスリートに選ばれたことは快挙であり、歴史的なことのはずだ。各編集部というか世の各人それぞれで価値観が違うのは当然だが、メディアとしては扱うべき快挙ではないか。

 これに対しては別のネットメディア編集部の編集長が答えてくれた。

「国際スポーツプレス協会(AIPS)がどれほど偉大なのか、わかってないのでは」

 つまりこの国ではAIPSの偉大さをわかっていないメディアが多い、だから選ばれたことを「快挙」と思っていないということか。この国のフィギュアスケートに全般に対する国外に比しての評価の低さもそうだが、ガラパゴス化した日本とそのメディアの問題にも至る、ということなのか。A

あくまで個人の意見、しかし実際に、この快挙がメディアの大半で報じられなかったことは事実である。外務省が直々に祝福のポストをX上に寄せたが、それでも報じられなかった。

 あえてゴシップメディアとされる編集部のスタッフにも聞いた。「うちは羽生結弦さん、叩いてませんよ」と語る前提の通り、その雑誌はヌード企画も多い男性向けゴシップ誌なので女性週刊誌とは違い羽生結弦というかスポーツは野球関連以外ではサッカー日本代表と格闘技系がほとんどを占める。本当にメディアと一口に言ってもさまざまで、守るべき者があるからこそ、こうした知識が必要に思う。

「なにはなくとも野球です。うちがおじさん向けの雑誌なのもありますが、(日本の)プロ野球やメジャーリーグ、高校野球まで、言うまでもなくこの国はメディアからすれば野球の国です。世界でもっとも親しまれているとされるサッカーすら日本代表以外、海外リーグやJリーグはそれほどの報道はないでしょう。それをガラパゴスと思うかは人それぞれですが、羽生結弦さんの凄さも含めて、今回の快挙にピンときていないメディア関係者は多いと思いますよ」

マイケル・フェルプスと羽生結弦がいかに凄いか

 この国でフィギュアスケートそのものが海外――本場のヨーロッパはもちろん羽生結弦のファンが多い中国などの東アジア圏に比べれば正当に評価されていないことは確かなように思う。私は前述した通り、むしろ羽生結弦という存在がそれを変えようとしている、いや変え続けていると思うのだが、この国の多くのメディアはまだ正当な評価をできていない。

 もっとも、日本以外ではアメリカなどもそうで、フィギュアスケート人気が下手をすると日本より「マイナー」、その中でも男子フィギュアスケートはさらにマイナー(詳しくは措く)という現実がある。フィギュアスケートに限らず四大スポーツ(NFL、NBA、MLB、NHL)にヘビー級ボクシング、陸上短距離、ゴルフ、テニスがメジャーでそれ以外はサッカーすらマイナーというアメリカ社会もまた「ビッグ・ガラパゴス」と言うべきか。

 ところで、あえて聞くがオリンピック期間中はいわゆる「ゴシップ記事」も減るのか。

「ネットニュースに限れば減りますね。独自スクープならともかく、配信枠を埋めるためのこじつけたようなゴシップってネタがないから書く面もあるわけで、他にネタがあるならいちいち書かないです。そういう記事はオリンピックに埋もれてPVも望めませんし」

 以前から私は書いているが、こじつけのような女性週刊誌を中心とした記事はネタに詰まって無理やり書く場合もある。迷惑極まりない話だが、それで注目を集めればよし、というスタンスである。弱みは結局のところ部数とPV、これが稼げなければ存在価値はない。

 また、全国紙記者にも話を聞いた。「うちも今回の件を扱わず、ファンの方々には申し訳ないとしか言えないのですが」という断りとともにこう話す。

「100年間の優れた男性アスリート10人に選ばれた羽生結弦さんは本当に凄いと思いますよ。アリ、ボルト、ジョーダン、フェデラーってまさにアメリカのメジャースポーツ選手でしょう。ヨーロッパはサッカーの聖地ですからペレ、マラドーナ、ベッケンバウアー、ジダンですよね。これで8人。とすればマイケル・フェルプスと羽生結弦がいかに凄いか、そして羽生結弦がいかに凄いかということです」

羽生結弦を正当に評価する「世界」とその評価に困惑する「日本」

 先に記したとおり、この10人はスポーツの記録や結果はもちろんその存在が社会を、歴史を変えた男性アスリートである。羽生結弦もそうだ。

 では、なぜ記事にしなかったのか。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、昭和史における人物評伝およびフィギュアスケートなどの舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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