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なぜ羽生結弦の一礼する姿は美しいのか…「礼儀も他者を魅了する」礼もまた、芸術。『羽生結弦をめぐるプロポ』「礼」(2)

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

7.礼(2)――仁愛と謙遜と

 私は羽生結弦の一礼が好きだ。

 競技会時代からずっと、好きだ。

「真実と誠実となくしては、礼儀は茶番であり芝居である」

 新渡戸稲造

 羽生結弦のそれは決して茶番でも芝居でもない。

 真実と誠実、それが自然に体現される礼だ。

 どこに対してであれ、誰に対してであれ、羽生結弦はフィギュアスケートという自身の礼を欠かさない。

 多くのアスリート――フィギュアスケーターも礼儀は学ぶ。しかしそれが「道」として体現されている人は多くない。それが悪いということではない。そこまでに至ると羽生結弦になる、それだけのことだ。言い方が難しいが、上っ面だけ、カメラの前だけ、プロになった途端に諂う。残念ながら、そんなスケーターもいる。

「礼儀は仁愛と謙遜の動機より発し、他人の感じに対するやさしき感情によって動くものであるから、常に同情の優美なる表現である。礼の吾人に要求するところは、泣く者と共に泣き、喜ぶ者と共に喜ぶことである」※1

 新渡戸稲造『武士道』の言葉、そっくり羽生結弦の礼儀正しさのままを表現してしまっているが、まさに羽生結弦という存在が礼の人であることの証左だろうと思う。思えば武士道――武人とはこうした優れた礼の人のことを言ったのかもしれない。

羽生結弦の礼という所作もまた芸術

 礼もまた芸術である。

 新渡戸も礼儀作法について「最も簡単なる事でも一の芸術」と説いている。

 これも2年前だったか、東京スポーツの元旦記事『羽生結弦が超一流である理由 ベテラン整氷作業員が証言「必ず僕らにも頭を下げる」』で整氷の方が羽生結弦の礼儀正しさを語っていたが、人は人だからこそ人のことがよくわかる。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、昭和史における人物評伝およびフィギュアスケートなどの舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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