羽生結弦「その一瞬は『私たち』にしかできないことに変わると信じて」…みんなで創る、私たちが、私たちであるために『Echoes of Life』
目次
私にしかできないなんてことは、この世には存在しない
羽生結弦はひたすら進化し続けている。
私たちもまた羽生結弦という超越者によって超越を遂げるだろう。
そうして新しい時代が創られる、いや、みんなで創る。
〈創り上げていくチームと、公演を観てくださる皆さんと一緒なら〉
時代を、歴史を刻んだ栄光と苦悩の日々もまた、そうだったのだろう。これまでもずっと「皆さんと一緒」だった。
しかしその「創る」が脅かされる現代でも、ある。
〈きっと、私にしかできないなんてことは、この世には存在しないと思います。AIやテクノロジーが発展している今、人間にしかできないこともどんどんとなくなり始めています〉
私は言葉そのものを掴むのに少し時間を要した。まったく、羽生結弦の見つめる先は、とてつもなく大きい。
〈「命」とは何か。「わたし」とは何か〉
生命倫理が〈「命」とは何か〉ならAIが〈「わたし」とは何か〉ということか。
それが本当に「わたし」の作品かどうかは関係ない
もちろんこれは私の解釈でしかない。それぞれに解釈がある。
しかしAI=〈人間にしかできないこともどんどんとなくなり始めています〉はやはり、近年のいわゆる「AI問題」というクリエイティブの部分もあるように思う。実際、創作者の仕事が奪われると世界中で報じられ、当事者らも声を上げている。
とくにSNSを中心にAIに関する批判、論争は絶えない。「AIイラスト」問題など最たる例で、いまや特定文字列の入力に一部加筆、修正を加えるだけで人気イラストレーターといった「誰かの」イラストのような「何か」が完成してしまう。それも許可なく、権利もわからないまま勝手にできてしまう。
2023年までは腕や手の位置がおかしかったり、指の数が違っていたりなどの不具合があったが、2024年に入って進化を遂げ、精度は日に日に上がっている。その進化のスピードたるや、本当に早い。こうした「AIイラスト」(すべてではないが)を売っている業者や「AI絵師」と称される個人が跋扈している。
もうひとつ挙げるとするなら「AI音声」だろう。これに至ってはさらに進化が早い。すでにNHKなど放送局の簡単なアナウンスはAI音声を試験的に実施している。こちらも2024年に入って多くの声優の方々が「声が勝手に売られていた」と声を上げた。ネット広告やアプリなどの音声をAIによって人気声優といった「誰かの」の声のような「AI声優」を使って売るような業者がこちらも跋扈している。
法整備も追いつかないままにテクノロジーは進化する。誰かの創作物と創作物を勝手に合わせて、いや古今のあらゆる創作物からチェリーピッキングして「わたし」の作品が生まれる。それが本当に「わたし」の作品かどうかは関係ない、金になればそれこそ「わたし」などどうでもいい「何か」が世間にばらまかれる。
「AI羽生結弦」を完成させることも、いずれは可能になる
アニメやゲーム、コミック界隈はまさに「金になる」界隈なので、それこそここに挙げたイラストや声優といった業界が格好の餌食になっている。