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吉田豪が沢尻エリカからくらったカマシ…二毛作仕事術「1つの取材」を無駄にしないフリーランスの生存戦略

(c) AdobeStock

 プロインタビュアー・吉田豪氏のキャリアは、いわゆる“出世”のイメージとは少し違う。役職や地位を目指すのではなく、自分にとって面白いこと、突き詰めたいことをひたすら掘り続けてきた。そうして築かれた立ち位置は、肩書き以上に説得力がある。1本の原稿を何度も“転がす”ように、インタビュー、コラム、ラジオ、イベントへと展開していく。その積み重ねが、他にないスタイルとして定着した。自分の強みを見つけ、それをどう生かしていくか――。氏の仕事術には、フリーランスとしてのリアルな知恵と工夫が詰まっている。みんかぶプレミアム特集「ズルい出世術」第5回。

目次

出世を選んだ同期と、外に出た自分

 出世術というのはあまりにもボクの人生と無関係すぎるフレーズなんですけど、それで思い出す話があります。20代前半の編集プロダクション勤務時代、ボクと同い年で一期下の後輩がいたんですよ。文章がすごくうまくて音楽とかの知識も豊富で、才能あるなと思ったから『紙のプロレス』とか会社外の仕事にも誘ったりして、ボクが会社を辞めたときそいつも一緒に行こうと声を掛けたんですけど、そいつは会社に残って出世する道を選んだんですよね。その後、そいつは役職についたりしていたものの、編プロでの出世なんてたかがしれてるじゃないですか。あのとき外に出なかったのは本当にもったいなかったなって思ってますね。結局、ボクが何とかなったのは運とかタイミングが大きかったので。

 ボクはというと出世には全然興味なくて、そもそも会社に残ったところで社長にも好かれてなかったから出世するわけもないし、気づいたら外に出て、ずっとフリーランスでやる道を選んでました。思えば、部活経験がなくて上下関係もまともに学んでないまま社会に出たので、とにかく「どう敬語を使わずに済ませるか」ばっかり考えて生きてきたんですよね。さらには満員電車に乗りたくないし、スーツも着たくないから編プロに入って、当時は長髪でもあったし、とにかく社会人には向いてなかった。そういう意味で、組織で上に気に入られる能力みたいなのは明らかに欠如していたし、逆に言えばその能力がないって分かった時点で、外に出たほうがいいとも思えたんですよね。それで『紙プロ』に引き抜きされて、1年ぐらいでフリーになったわけです。

「まあ、食ってはいける」ノープランのフリー転身

 とはいえ、フリーになった時点では大きな仕事があったわけじゃないんですよ。『紙のプロレス』の仕事は続けていたけど編集部を事務所代わりに使うことでギャラは相殺になってたし、あとは書評やコラムで1本数千円~1万円ぐらいの連載を何本か抱えていたくらい。今考えると、あの仕事量でよく独立しようと思ったなと我ながら思います(笑)。

 ただ当時は実家暮らしだったし、「まあ、食ってはいけるだろう」っていう楽観的な見方があったんですよ。なんかあったら最悪バイトしながら生き延びればいい。無職時代の経験があったから、どうなってもあの頃よりはマシなはずだと思えたんだと思います。そしたら、まだ出版バブルといっていいぐらい雑誌も多い時代だったこともあって、すぐになんとかなっちゃったんですよね。

 それでもそれなりに考えていたことはあって、最初は「プロ書評家」になりたいと思ってたんです。だけど書評ってそもそもページ数が少ないから、いくら数をこなしてもたいした稼ぎにならない。そこで、「インタビューならページ数でギャラが出るし、ちゃんとやればそれなりになるかも」ってことで「プロインタビュアー」を名乗るようになりました。ちょうどその頃は出版界にもまだ少しお金があった時代で、大手出版社からそれなりのギャラの長尺インタビューのオファーが来るようになって、順調にプロインタビュアーとして活動できるようになりました。

取材で得た情報は余すことなく使う。“オフレコ”すらコンテンツに

 そうやってインタビューを仕事にしていく中で思いついたのが、1回の取材を「二毛作」にするという方法。そもそも書評を仕事にしつつ、面白いタレント本があったらその人を取材するというやり方をしていたんですけど、そのインタビュー中に出たけど誌面に載せられなかった話とか、取材前後のこぼれ話とか原稿チェックがどんな感じだったのかとかをコラムに書いたりラジオでしゃべったりして、すべてコンテンツにしていました。まあ、本来はルール違反なんですけどね(笑)。

 それをアリにするには工夫が必要で、ただなんでも出してるわけでもないし、変な暴露にするわけでもない。最終的にはその相手が好きになれるようなエピソードにすれば、なんとかなるって考え方だったんですよ。たとえば「本人は何でも話してくれるし人柄も最高だったんですが、ちょっと事務所のチェックが厳しくて…」とか、あくまでもその人のことが好きだけどという前提で伝えたりする。岡本夏生さんとか石原真理子さんみたいに取材して大変な目に遭ったこともあるんですけど、そういうときも相手を糾弾するような感じには絶対しなくて、あくまでもドキュメンタリーとして「すごい体験をしました!」的に語ってました。そこは何があっても怒ったり根に持ったりしない自分の性格がプラスになってた気がしますね。

 以前、とある後輩ライターが、とある芸能人のウォッチャー的な感じで面白いコラムを書いていたんですけど、表現としてはちょっと小馬鹿にするような感じだったんです。だから「あれは面白いんだけど、これから本人と絡む可能性とかも考えた上で、もうちょっと褒め殺し的な方向にした方がいい」みたいなことを言ったら、原稿の方向性が変わった後で、その芸能人のオフィシャルの仕事をするようになってたんですよね。これは経験者としての的確なアドバイスだったと思います。書いてることはほぼ同じことでも、どうせなら本人が読んで喜ぶようなものにしたほうがいい。

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この記事の著者
吉田豪

1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。

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