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「いま」「ここ」という喪失なきアウラへ…羽生結弦『RE_PRAY』横浜公演アンコール上映(1)

(c) AdobeStock

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

空間と時間のアウラの中に生きている

 羽生結弦という、Aura(アウラ・光輝)は喪失しない。

 いつだって「いま」「ここ」にある。

 それは私たちの「いま」「ここ」だったり、時代の「いま」「ここ」だったり、遠い遠い未来の「いま」「ここ」だったりする。

 ちっとも難しくなんかない。いま、ここの羽生結弦を感じ、共にあることだ。

 2025年11月11日、MOVIX昭島へ向かうそんなことを考えながら、私は青梅線に揺られていた。

 アウラとは思想家ヴァルター・ベンヤミンの言葉だ。彼はこの世の存在、空間と時間の一回性を「いま」「ここ」のアウラとした。

 私たちは羽生結弦という存在、空間と時間のアウラの中に生きている。羽生結弦の表現や創作という「いま」「ここ」にある。

 たとえば『RE_PRAY』という「いま」「ここ」もそうだろう。それを目撃すること、感動する瞬間は時の外に他ならない。現地で観ることも、劇場で観ることもそうだ。

 アウラは作品だけでなく羽生結弦の「いま」「ここ」にも存在する。観る側の私たちにも存在する。

 でも「DVDとかの映像は1回きりでなく何度でも観れるじゃないか」という疑問はもっともだ。ベンヤミンはそうした複製技術でアウラは喪失するとした。しかし、そこには新たなアウラが創出されるともした。

 語りだすときりが無いためこの程度とするが、なんであれ羽生結弦というアウラは喪失しない。私たちと羽生結弦のアウラは喪失しない。そしてアウラとはこの世の存在、空間と時間の一回性という価値を持つ「本物」にしか存在しない。

 そう、いつだって本物は「いま」「ここ」にあって、決して消えやしない。

日本の女性もまた戦った

 そうだな、創作の喪失なきアウラとするなら1000年前の『源氏物語』とか『竹取物語』を知らない人は現代でもまあ、いないだろう。500年前の『ロミオとジュリエット』もそうか。

 『シンデレラ』に至っては2500年以上前からその原型(『ロドピスの靴』)がある。それを歴史家ヘロドトスが残し、ヨーロッパ全土に「Cendrillon」(灰かぶり)として広まった。それをグリム兄弟が蒐集し、シャルル・ペローがカボチャの馬車やガラスの靴を加えて、現在の私たちの知る物語にした。

 1950年、戦禍もあって倒産寸前だったディズニーは『シンデレラ』と名づけたこの作品の大ヒットに救われた。時代とともに人々の倫理や価値観が変わったとしても、シンデレラはいつだって世の女性を勇気づけた。

 いまとなっては「荒唐無稽」「男性優位」「男性に救われるのを待つだけの女性」などと、この物語がどんな時代に創られ、どんな時代を経て私たちに伝えられて来たかを理解しない、理解するつもりのないうるさ方に批判されることもあるが、ほんの少し前まで人類史において女性の人権なんて存在しなかった。先進的な英米でも女性の選挙権は20世紀に入ってからの話である。もちろん日本だって戦前は女性に選挙権なんかなかった。

 選挙権がないということはどうなってもいい存在、ということだ。それくらい選挙権とは大切なものだ。かりそめの平和の中にある私たちにとっては選挙に行かなかったとしても、おおよそ、その一票などたいした影響のないことは確かだが、それでも選挙権のあるなしは命の選別であった。

 だから世界中で選挙権を手に入れるために多くが命をかけて戦った。日本の女性もまた戦った。イギリスのエミリー・デイヴィソンのように命を落とした女性もいた。

 結局、日本は敗戦で米英から女性参政権をいただくわけだが、100年遡らずともそういう時代であった。

 『シンデレラ』という物語はそうした多くの女性たち、数百年数千年のあいだずっとずっと自由を(本当の意味での自由)得られなかった女性たちに、そうした女性を支持する男性にも愛されてきた。大切にされてきた。「いま」「ここ」として。

 羽生結弦という人は、そうした『シンデレラ』のようなものだと思う。彼の存在によって人生が豊かになり、希望を見出すことができる。彼の表現や創作もまたそうだろう。

 人、物に限らず「いま」「ここ」というアウラは喪失することなく私たちの心を繰り返し、何度でも豊かに導く。先に触れた作品やその創り手は多くの人の記憶にあるから残った。記憶にあるということは多くの支持を集め続けたということだ。どんな時代の空間と時間の一回性を経ても喪失することはなかった。羽生結弦という存在も、これから先ずっとそうした「いま」「ここ」というアウラ=光輝であり続けるだろう。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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