年間1000万円を超える「すごい会議」が一体なぜ選ばれるのか?「社員みんなに責任100%」と言う理由

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 経営課題の可視化と組織変革を支援する「すごい会議」は、その導入が1000万円を超えるケースも多い。そんな高額な会議を、一体なぜ企業は導入するのだろうか。ライターの小松成美氏が、そんな疑問を追求する。全3回中の3回目。

※本稿は小松成美著『THE COACHES すごい会議ストーリー』(講談社)から抜粋、再構成したものです。

第1回:売り上げ1億円越えのコーチが17人……企業を変える「すごい会議」は何がすごいのか

第2回:「事実」と「解釈」を混同するな……「すごい会議」がもたらすブレイクスルーとは

目次

10分で契約を決断する社長

 すごい会議は、安価ではない。このメソッドを導入するのは、どういう企業なのか。クライアントの傾向を「すごい会議」創業者の大橋禅太郎に聞いてみた。

「まず、成長意欲が高くないと、このメソッドには興味を示さないです。『今ここにいるのは俺の仮の会社の姿で、もっとできるはずだ』『あのビルが俺の会社じゃないのがおかしい。たぶん3年後には、あのビル三つともうちの会社になっている』といった、がむしゃらな事業意欲がスタートのきっかけになる。

 そして好奇心も必要。自分の知らない世界への敬意があると意思決定が速い。意思決定が速いってどういうことかというと、確定的な情報がない状態で決められるということだと思っていて、そういう方々がお客様になることが多いです」

 ある会社では、こんなこともあった。初対面の社長に90分ですごい会議をプレゼンする機会があった。だが、社長が遅れ、実際に来たのは、残り15分しかないタイミングだった。

「それまで取締役が二人、社長を待つ僕をなだめていました。遅刻して来た社長は『15分しかないから、巻きでやってくれ』と言うんで、僕は10分で話しました。社長は『よくわからないな』と言って取締役に意見を求めると、取締役も『よくわかりませんね……』と首を振っている。

 僕は10分でわかったら苦労しないだろー、と思って黙っていると、その取締役が『やりますか……』と。でその場で契約に至りました。すごい判断でしたね。その会社は、以後目を見張るほど業績を伸ばし、長い付き合いが続きました」

問題が大きいほど機能する会議

 問題が大きければ大きいほど、すごい会議は機能する。

「問題とは、今ここにある状態と、自分の本来いるべきだと思っているところのギャップです。ここが当然だと思っていると、すごい会議のコーチは、やることがない。でも、多くの経営者は、そうは考えていません。ですから、ギャップを認知している起業家は、すごい会議を受けてみようと言います」  

 すごい会議のファーストステップは、「ひどい真実」がテーブルの上にあり、あらわになっている、ということだ。

「そこが問題解決の中ですごく重要です。クライアントも、すごい会議を導入して3年目になると、問題となっているひどい真実をどんどん上げてくるのですが、導入初年度の会社は、なかなか口を開かない。抵抗する。ある時など、『ひどい真実を、聞き出そうとするのはやめてくれ』と言った会社がありました。そうなると僕らは仕事ができない。問題の発生源が見えないと問題は解決しません」

 友人であるフランス人、ジャン・デビッドはすごい会議のクライアントでもあったが、ジャンから告げられた言葉を、大橋は忘れることができない。

「禅太郎の『すごい会議』が簡単に社内で広がらないのは、このセッションが会社や経営者にとってファシリテイト(何かを容易にする、促進する、手助けする)ではなくディファシリテイト(難しくする)だからだよ、とジャンが言ったんです。問題を確かめ、問題解決し、目標達成するには、確かにディファシリテイトな状況に遭遇しますからね」

子育ての責任は父、母ともに100%

 大橋は、日本の中で曖昧に語られる「責任」という言葉について解説を始めた。

「責任の認知こそ、難しい問題を解決するためには必要なんです」

 ビジネスの中で同じ責任という意味を持つ「アカウンタビリティー」と「レスポンシビリティー」。大橋はこの二つを明確に使い分けている。

「『アカウンタビリティー』は日本語で説明責任と訳されることが多いですね。でも僕の理解は『合意された役割』つまり、合意に基づき遂行される責任なんですよ。できないってわかったら早めに報告するってことが約束されている。一方、『レスポンシビリティー』っていうのは、そこに起こる問題に対しての『自己の責任』のことです」

 大橋は、レスポンシビリティーの意味を伝えるために、子育てを例に挙げた。

「クライアントに、子育てをしている人がいます。何歳でもいい。仮に12歳のユウコちゃんとしましょう。その人にはユウコちゃんを育てる責任があって、そのためにいろいろ役割があったと思うんです。

 だから『ユウコちゃんが生後6ヵ月だった時のことをちょっと思い出してください。生後6ヵ月のユウコちゃんに対して、ご両親はどんな役割がありましたか?』と聞く。おむつを替える、お風呂に入れる、ご飯を食べさせる、言葉を教える、などですね。

 次に、『では、その役割を誰が担当していますか。二人のうち、どっちかがメインだとすると、どっちですか?』と聞くと、『ごはんは妻。お風呂は僕です』と、それぞれ担当があるじゃないですか。

 それで、『ここの部分はあなた、ここは奥さんの担当ですね。じゃあ、あなたと奥さんは何%の責任を持っているんですか』と聞きます。すると、ほとんどの人が『50%ずつですね』と答えます。お父さんとお母さんで半々ずつ、と。

 それで、『なるほどね。じゃあ例えばある日、奥さんから“あなた、私、今日、風邪引いて熱が出ちゃったから、すぐに起きられないの。ユウコのご飯を食べさせて、それから仕事に行ってくれる?”と言われたらどうしますか?ご飯は奥さんの担当だから、やらないよ、と言って、会社行くんですよね?』と聞くと、『いや、そんなことないです。ご飯を食べさせます』と答える。

『いや、あなたの役割は50%なんですから、やらなくていいじゃないですか。奥さんの担当だと言って会社へ行けば』と僕が言うと、『いや、いや、奥さん病気なんだからやりますよ』と。僕はそういう人に『でも、それは50%の責任じゃないですよね?』と続けます。まるっきり誘導質問なんですが、再度『そうすると、何%です?』と問います。

 皆さん、今度は『100%です』と言います。『じゃあ、奥さんは何%なんです?』と聞くと『妻も100%です』と。つまり、レスポンシビリティーっていうのは、やれるか、やれないかじゃなくて、100%の責任を持ってやる、ってことなんです。

 日本には『責任を取る』という言葉があって、『責任を持つ』と混同している人も多い。100%責任を持つとはどういうことか。僕は最初のセッションで、この話をしています」

社員すべてに100%の責任がある

 企業にはさまざまな部署があり、組織は細分化されている。「自分は営業なんで、経理のことは知らないです」ということは、どこの会社でも当然のこととして語られる。営業、製造、法務など、みんなが自分の業務だけやっていればと思うだろう。では、社員は、自社に何%の責任を持っているのだろうか。

「例えば会社で総務の人に、『営業の人がうまくいかなかったら、営業目標には到達できないですよね?誰に何%の責任がありますか?』と聞くとします。多くの人は、『営業の人に100%の責任があります』と言います。僕が『でも、営業の人もあなたもこの会社の社員ですよね? 

 そして、この営業の目標は社員全員のものですよね?』と付け加えると、今度は『はい、責任は社員みんなに100%あります』と答えるんです。僕は『いや、私が聞いているのは、あなたに何%ありますか、ということです』と続けます。

 そうすると、黙っている人もいますが、『社員である私には100%の責任があります』と言える人もいるんです。その人に『では、来年の営業目標が達成できなかったら、何%誰の責任になります?』と聞くと、『100%私にあります』と答える。部署や業務が違うから責任を分けたり回避したりする他人事の意識が、会社の前進を阻んでいる。

 つまり、どんな部署のどんな仕事に就いている人も、会社が決めた目標に関しては『自分に100%の責任がある』と認知することで、限界の壁を越えることが可能になる。そうした意識を覚醒するのが、すごい会議なんです」

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この記事の著者
小松成美

1962年横浜市生まれ。ノンフィクション作家。広告代理店勤務などを経て1989年より執筆を開始。第一線で活躍する人物のルポルタージュを得意分野と し、インタビュアーとしても異彩を放つ。テーマに肉迫するスポーツノンフィクションで新境地を開いた。また、歌舞伎を始めとした古典芸能や西洋美術、歴史 分野などでの執筆も多い

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