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花言葉は「希望」、そして「前へ」・・・「羽生結弦 notte stellata 2026」私たちの春が、来る。(3)

(c) AdobeStock

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

平和って、なんだろう

〈羽生結弦っていう存在として、今まで生きてきて、僕はスケートをやることによって世界を救えるとは思えないですし、スケートで何か世界が変わるって、そんな大それたことはないと思います。ただ、僕はこうやってこの12年間を生きて、一番つらかったであろうこの場所にリンクを張って、こうやって皆さんに希望を届けることができて幸せと同時に、こんな小っちゃな体ですけど色んなことを背負って、毎日毎日スケートのためだけに日々を過ごしたいと思っています。この愛おしい、愛おしい12年間をまた、今日からまた、1秒ずつ、1日ずつ続けて下さい。僕もそうやって生きて行きます〉

(notte stellata 2023会場にて筆者抄記・当時)

 平和って、なんだろう。

 羽生結弦は氷上に祈る。氷上から希望を届ける。

 平和でありますように

 Pray for peace ※1

 平和とは顕れるものでなく、創るものであるように思う。ロシアの指導者にとっての平和、中国共産党にとっての平和、北朝鮮の総書記にとっての平和、核で人類が滅ぶかもしれないのにお互い核を持てば「核の傘」という平和になる。イスラエルにとっての平和はガザの市民にとっての地獄であり、ロシアの平和はウクライナ人の生活を脅かす、平和は私たちも含めたムスリムでない異教徒にとって理解しがたいものだ。

 世界にはそれぞれの考える平和があり、それぞれの人の考える平和がある。平和とは砂上の楼閣と書いたが、平和とはそれそのものだけでは極めて不平等で、不自由で、ともすれば不義不徳の平和となりかねない。

 〈平和をつくる者は幸いです〉 ※2

 クリスチャンやそうした学校に通った人のなかにはよく知る言葉だろう。イエス・キリストの「山上の説教」にある言葉だ。イエスも平和は「つくる」としている。平和は自然発生的に起こるものではないことをイエスもまた説いている。

平和への渇望、その発露

 かと思えばこの有名な一節に対して、アイルランドのロックバンド「U2」のボーカリスト、ボノは「Peace On Earth」(地上の平和)にこう書いた。※3

〈何度も地上に平和が来ると聞かされるのはうんざりだ〉

〈イエスさん、時間があるなら溺れそうな人を救けてくれないか〉

 拙訳で抜き出したがボノの平和への渇望、その発露である。

 ボノは絶望した。それでも「地上の平和」と繰り返す。人それぞれに役目があるとするならーーボノにとっては絶望しても、絶望しても「地上の平和」という詞を歌にして訴え続けることだった。

 9.11でもボノは歌った。この曲が収録された『All That You Can’t Leave Behind』(2000年)というアルバムはミャンマーなど一部の独裁国家では発禁処分となっている。

 それでも、ボノは歌う。

 羽生結弦の平和に対する姿勢も、まさにそれと思う。

 彼は「スケートをやることによって世界を救える」「スケートで何か世界が変わる」なんて思っていないしそんな空虚な絵空事は言わない。彼は身を削って利他のために事を為し、ただフィギュアスケートで希望を届ける。「ただ」とあえてつけたが、それはとてつもなく大変なことだ。そもそも羽生結弦がする必要はないし、しないならしないで済む。

 ボノだって甘い恋の歌でも歌ったほうが多くの耳障りはいいだろうし危険な目にも遭わない、誹謗中傷だってずっと減るに違いない。それでもボノは社会に問いを投げかけ続ける、平和を願う、そして、平和をつくる努力を惜しまない。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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