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“故安倍晋三のおひざ元”下関市立大で外国人研究者が市長の一存で突然学長に… 不可解人事と下村博文の影

 多額の税金が投入される国公立大学。そんな大学を市長とその取り巻きが「私物化」してしまったのが下関市立大学だ。教員の反対を押し切り採用した韓国人研究者はいまや学長の座につき、市職員の同大への天下りも目立つという。訴訟や教員の退職も相次ぐ同大で起こっている「トップによる大学支配」に至るまでの過程を、ジャーナリストの田中圭太郎氏が明らかにする――。全3回中の2回目。

※本稿は田中圭太郎氏『ルポ 大学崩壊』(筑摩書房)から抜粋・編集したものです。 

第1回:親族に仕事発注…労基が是正勧告した山梨学院大理事長「質の高い教育だけで給料上がらない」研究者教員は”いらない”

目次

市長の“鶴の一声”で学長選出 

「IN-Child という一つのテーマが出てきまして、沖縄県の琉球大学のハン先生という方がそれに取り組んでいる第一人者です。そういう人との出会いがあって、……市立大学でそういった要素を何か入れることができないかという考えに少しずつ行き着いていきました」 

 2019年5月30日、下関市長応接室に呼び出された下関市立大学の管理職教員は、市長の前田晋太郎氏の発言に耳を疑った。 

 IN-Child とは、障害のある子どもと障害のない子どもがともに学ぶ、インクルーシブ教育を研究する団体が進めるプロジェクトのことだ。前田氏は、インクルーシブ教育を下関市立大学に導入し、その主宰者であるハン・チャンワン氏を大学に招きたいと表明した。 

 しかし、下関市立大学は経済学部だけの単科大学である。突拍子もない提案に、教員らは戸惑うしかなかった。 

 大学で新たな学部や大学院、専攻科などを設置する場合は、通常であれば学内での審議を経て決める。教員の採用についても同様だ。仮にハン氏を採用するとすれば、最低でも五カ月はかかるだろう。 

 ところが、この日を境にすべての教員にとって思ってもみなかったことが次々と起こる。わずか5日後の6月4日、前田氏は当時の理事長の山村重彰氏宛に、文書で特別支援教育の専攻科の設置を要請する。山村氏は、下関市の元副市長だ。 

 すると、2日後の6月6日には学内説明会が開かれ、山村氏が専攻科を2021年4月に新設し、ハン氏を教授で採用することなど、合わせて3人の教員を採用する人事を発表した。 

 必要な手続きとルールを完全に無視した方針に、教職員は大反発する。6月20日に開かれた教授会は紛糾した。その席で山村氏は「市長の意を介して実行している」と説明したが、教員は「市長が素晴らしい人物だと言ったら資格審査なしに内定を出すなんて、大学としてあり得ない」と反発した。 

 川波洋一学長は専攻科設置と採用を決めようと教育研究審議会を招集するが、必要な審議を経ていないとして大半の教員が欠席し、3回にわたって流会した。すると、もう一つの決定機関であり、学外の委員中心で構成される経営審議会が、6月28日に専攻科設置と採用を決定。市長の前田氏の発言からわずか1カ月たらずの出来事だった。 

 この決定に学内の専任教員の九割が反対を表明する。学内の定款や規程に違反していることと、採用に際して学長が教授会に意見を聞くことを定めた学校教育法にも違反しているとして、白紙撤回を求める署名を提出した。 

 この状況に文科省も苦言を呈する。採用の手続きが学内の規程に則っていないおそれがあることと、適切かどうかに疑義があると指摘し、大学に対し「規程に沿った適切な手続きを採ることが必要」とする「助言」を8月7日に行った。「助言」は行政上の措置で、指導に等しいものだ。 

時の政権と関連?憶測を呼ぶ人事 

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この記事の著者
田中圭太郎

1973年生まれ。大分県出身。早稲田大学第一文学部卒。地方局で19年間勤務後、2016年からフリーランス。雑誌・Webで大学、教育、社会問題、ビジネス、大相撲など幅広いジャンルで執筆。著書『ルポ 大学崩壊』(筑摩書房 2月9日発売)『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)

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