「ワンルーム投資」に目がくらんだサラリーマンの末路…売れない、貸せない、危険すぎた遊びの代償

 「不動産投資は出口があって初めて結果が出る」と不動産評論家の牧野知弘さんは言う。かつてのように、若い世代が増え続け、アパート需要が伸びる時代ではないにもかかわらず、ワンルーム投資が流行ったのはなぜなのか。「節税欲望」にかられて、サラリーマン投資家や素人投資家がなけなしの銭を握りしめ、ワンルーム投資をした暗すぎる現実と未来とはーー。(第3回/全4回)

※本記事は、牧野知弘著『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)より抜粋・再編集したものです。

第1回:タワマンに”勝ち組エリート”が住まない理由…住民たちが「考えたくない」悲惨すぎる未来
第2回:今、中国が狙っているのは西日本! 福岡、那覇…不動産の勝機はここにあり!
第4回:晴海フラッグを絶対に買ってはいけない理由…不動産関係者がネットの悪評火消しに奔走?

サラリーマンの隠れ副業「ワンルーム投資」の危険度

 節税目的の不動産投資のもう一つの動機が、所得税の節税ニーズである。日本は所得税率の累進性が高いため、一定以上の所得になると稼ぐ割には実入りが少ないという不満が出る。これを不動産投資することで見かけ上の赤字所得をこしらえて、所得を下げ、結果的に節税しようというものである。

 この目的に適った投資がワンルームマンション投資である。節税効果という意味ではワンルームでなく、1LDKでも2LDKでも構わないのだが、効率が最も良いのがワンルームなのである。

 まず、ワンルームは1戸が面積で6坪から8坪程度、投資総額も1000万円台から2000万円台が多く、サラリーマンでも高給取りであれば手が出る範囲である。また、ワンルームは1LDKや2LDKに比べて投資効率が高い。東京都心であればワンルームは坪当たり1万2000円から1万5000円程度とれる。これがファミリー向けになると賃料単価は下がってしまう。面積の拡大に家賃が比例してくれないからだ。つまりワンルームマンションは収益性もファミリータイプに比べて高いといえるのだ。

 またワンルームマンションは同じように節税したいサラリーマンがいれば転々流通するのではないかという思惑もあり、手頃な節税手法として定着したのだった。

 不動産投資して赤字を作るとはどういうことかと言えば、ワンルームをほとんど借入金で買って、金利を経費計上する、建物の減価償却を経費計上する、テナント確保等でかかる経費、修繕費などを経費計上するなどして赤字所得を作り、所得税を節税するのがその手法だ。

 所得が高いほど節税効果が高いため、平成バブル期などにはサラリーマンの課長、部長クラスの間でワンルーム投資はブームになった。当時のサラリーマンは大抵の会社が副業禁止だったが、なぜかワンルームなどに投資して運用しているのは副業とはみなされないために大勢が手を出したのだ。

 しかし、何度も言うように不動産投資にあたっては多くのチェックポイントがある。ワンルームの場合は需給バランスと投資家の懐具合だ。郊外の田園地帯で、テナントなんてあまり見込めないような場所で相続税対策だけに目が眩んで投資したアパートオーナーが、その後、同じようなアパートが周辺に林立してテナントを奪われ、空室に苦しんだことがワンルーム投資でも起こっているのだ。

節税狙いのはずが完全失敗。「入居者がいない」空室リスクで大赤字に

 都内では池袋や大塚などで、こうした節税ニーズをとらえたワンルームマンションが平成バブル期などに大量供給されている。当時のワンルームは、5坪から6坪程度と狭く、水回りであるバス、トイレ、洗面が1室に詰まった3点ユニットバス。ところが、やがてこうした狭小ワンルームは行政から認められなくなり、その後に建設されるワンルームマンションは住戸も広くなり、トイレとバスが分離するタイプがあたりまえになる。棟数が増えるにしたがってテナントの審美眼も磨かれ、古いタイプのワンルームは賃貸マーケットでの競合で負けるようになる。

 テナントが入らなければ、赤字は膨らんで節税効果は良くなる一方、いつまでも空室では、実入りが乏しくなって借入金の返済がおぼつかなくなる。賃料を下げる、フリーレントを長くするなど、節税効果はともかく、不動産投資としては完全な失敗となる。マーケットの変化に追随できない、収益は下がる、小さなワンルームは時代のニーズに合わないということで排除され始めると、マーケットでのリセールバリューは当然のことだが下落する。

 運用損に加えて売却損まで負わされるのでは、節税効果どころの騒ぎではない。今、そうしたワンルームマンションが池袋や大塚に限らず全国に多数滞留している。滞留、という意味は「売却もままならず放置プレー状態にある」ということだ。

ワンルームに6人住む外国人。サラリーマン大家はこれで儲かるのか?

 不動産投資においては売却という出口が塞がれてしまうと、抱え込むしかなくなってしまう。十分な賃料が享受できるのであればまだしも、続々と建設されるワンルームマンションとの競合では、その商品力で分が悪いので家賃は下がる。外国人がワンルームに5人も6人も、などと報道されるのはこうしたサラリーマンたちが買い求めたワンルームマンションである場合が多いのだ。

 さらにやっかいなのは、彼らの節税対策には期限があるということだ。サラリーマンであるからには、いつまでも高給が保証されているわけではない。役職定年などを迎えると給料は従来の6、7割、会社によっては半分以下に自動的に下げられてしまう。そうなると、せっかく不動産所得の赤字が作れても、控除する給与所得が少なくなってしまえば節税効果など雲散霧消してしまう。これでは何のために節税対策をしたのかわからなくなってしまう。

 現在こうした出口を失ったワンルームマンションが大量に滞留している。それにもかかわらず相変わらず大量のワンルームマンションが供給されている。中にはローンが返済できなくなる、管理費、修繕維持積立金の滞納、未納の事例が頻発しているマンションも多くなっている。

 実は都心部におけるマンションのスラム化について、私は意外と遠くない未来、この取り残されたワンルームマンションから始まる気がしている。所有者の間で相続が頻発する未来は、相続登記をしない、管理組合には届け出ない、管理費は払わない、大規模修繕など応じない、いつのまにか外国人に売られていた等々、様々な事象が勃発することだろう。

 節税だけが目的の不動産投資、未来は暗いのだ。

牧野知弘著『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)

この記事の著者
牧野知弘

不動産評論家。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て三井不動産勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て、2015年にオラガ総研株式会社の代表取締役に就任。ホテルなどの不動産プロデュースを展開。2018年に全国渡り鳥生活倶楽部株式会社設立、代表取締役を兼務。著者に『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(祥伝社新書)など多数。

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