タワマンに”勝ち組エリート”が住まない理由…住民たちが「考えたくない」悲惨すぎる未来

 タワマンの価格上昇と熱い争奪戦が止まらない。コロナ禍の経済停滞を物ともせず、人々がタワマンに心を揺さぶられる理由の一つは「相続対策」だ。タワマン節税を狙って借り入れをしてまで購入する富裕層がいるほど、高額帯の部屋ほどよく売れている。実はこのタワマン節税のリスクが非常に大きいと不動産評論家の牧野知弘さんは警鐘を鳴らす。(第1回/全4回)

※本記事は、牧野知弘著『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)より抜粋・再編集したものです。

第2回:今、中国が狙っているのは西日本! 福岡、那覇…不動産の勝機はここにあり!
第3回:「ワンルーム投資」に目がくらんだサラリーマンの末路…売れない、貸せない、危険すぎた遊びの代償
第4回:晴海フラッグを絶対に買ってはいけない理由…不動産関係者がネットの悪評火消しに奔走?

約11万戸建設予定。未だ儲かるタワマン絶好調の裏に潜む、奈落の落とし穴

 タワマンと呼ばれる超高層マンション、業界としての特段の定義は存在しないが、マンションデータを取り扱う不動産経済研究所では、20階建て以上のマンションを超高層マンション(タワマン)として各種の統計をとっているので、本書ではこの定義を採用する。

 首都圏には現在どのくらいの数のタワマンが存在するのだろうか。不動産経済研究所の調べによれば、首都圏(1都3県)において1976年から2020年までで計925棟26万7508戸が建設され、存在するという。20階建て以上のマンションがなんと925棟も首都圏に存在することは驚き以外のなにものでもない。

 また2021年以降に日本全国で建設が計画されているタワマンは、現在わかっているだけで280棟10万9908戸あり、そのうち首都圏で173棟8万1825戸にものぼるという。一般的なイメージとして首都圏にあるタワマンは、港区や中央区、江東区の湾岸エリアに多いが、計画を紐解くと今後は板橋区や豊島区、葛飾区などに多く建てられる予定であることがわかる。これらの多くが市街地再開発事業と呼ばれる、鉄道駅の駅前の商店街などをまとめて開発する際に建物を高層化してこれをマンションとして分譲するものである。

 こんなに多く存在し、これからも数多くの供給が予定されているタワマンだが、実際に販売するとよく売れるのだという。タワマンは都心居住の進展とともに人気を博した都心型住居の典型だが、分譲価格は近年うなぎ登りになり、湾岸部にある中央区月島や勝どき、江東区の豊洲などのタワマンは条件のよい新築物件だと坪500万円台にもなっている。

 新築に引きずられるように中古価格も高騰しており、たしかに2000年代前半から2014年くらいまでにこのエリアのタワマンを買った人は相当の含み益を実現するチャンスが到来していることになっているし、実際に売却して多額の利益を手にした人もいる。

勝ち組エリートはもはやタワマンにいない。一体誰が住み、節税をしているのか

 テレビドラマでも演出されているように、タワマンは比較的若いエリートサラリーマンやパワーカップル、富裕層が住むマンションとして描かれることが多いが、購入者の実態はやや異なる。国内外の投資家に加えて多いのが高齢富裕層なのである。

 理由は簡単だ。タワマン購入は相続対策として有効だからだ。これまでも何度か触れてきたように、相続の際に所有している不動産は、土地部分については路線価評価、建物については固定資産税評価によって課税評価総額が決まる。現金で持っていれば金額通りの査定になってしまうが、不動産だと時価よりもだいぶ安く評価されるのが、不動産が相続対策として有効であると言われる理由だ。 その中でもタワマンの節税効果が高いのは、タワマンの時価と相続税評価額との乖離が大きい、つまり資産評価額の圧縮効果が高いことによるものだ。東京湾岸部のタワマンを例に考えてみよう。

【事例】東京湾岸部(イメージ)

  • 土地面積:4000坪、建物延床面積:3万2000坪、住戸戸数:1000戸
  • 戸当たり持ち分:土地4坪、建物32坪(共用部を除く専有部で25坪)
  • 販売価格:1億円(土地8000万円、建物2000万円)
  • 専有部坪単価:400万円
  • 土地路線価:400万円/坪

 このマンションの建つ土地の路線価は坪当たり400万円であるのに対し、購入価格に占める土地代は坪当たりで2000万円(8000万円÷4坪)である。つまり相続税評価上は、坪当たり1600万円分を圧縮できることになる。建物については固定資産税評価額であるので経年とともに評価額は減額される。

 したがって相続のタイミングにもよるが、相続時評価額が土地建物あわせても3000万円程度(土地1600万円、建物1400万円程度)となる。1億円を現金で持っていれば、額面通りの評価となるが、全体として7000万円程度評価額の圧縮ができるというわけだ。さらにこれを借入金で買えば、借入金額分を評価額から控除できるので、実質相続税を払わなくて済むというのが理屈だ。

 なぜタワマンが節税で効果が高いかといえば、土地の容積率が高く、戸当たりの持ち分が少ないため、路線価評価額との乖離が大きくなりやすいこと、また高層部ほど高い価格設定で売れるので、同じ住戸面積でも高層部ほど土地代の割合が高く設定でき、圧縮効果が高まることによるものだ。

 これが、タワマンが売れている、しかも高額帯の部屋ほどよく売れる最大の理由となっているのである。 この対策については、一部の不動産関係者が書籍まで出して大宣伝をしてしまったがゆえに、税務当局の関心をひくところとなり、タワマンの土地建物を一律で相続税評価をせずに建物の階層によって段差をつけるという「節税対策の対策」を施されてしまい、以前ほどの節税効果は封じられてしまったが、効果は薄まったもののいまだに十分な節税効果をもっているのである。

超高齢化社会の日本。長生きが”タワマン利回り”を低くする死角

 では、このタワマン節税の未来はどうなるのであろう。あたりまえだがタワマン節税の効果を享受するためには、購入者である高齢者が死ななければならない。購入者が亡くなってはじめて、大きな税負担をすることなく相続人に全財産が相続される。そしてお役御免になったタワマンはマーケットで売却してしまえば、人気のタワマン、大きな含み益まで実現して、すべてがうまくいくというのがこの節税のサクセスストーリーだ。

 だが、この対策には死角がある。節税対策ではあっても不動産投資である。投資は最後に出口があってはじめて完結する。まず、所有者の高齢者がちゃんと死んでくれるかという、何やら情けない話がある。最近は長生きをする高齢者が多い。80歳代で購入しても10年以上長生きする高齢者は少なくない。その間、人に貸して運用益をとれるかもしれないが、購入した簿価に比べて利回りは低い。マンション価格がどんどん上昇すれば、ただひたすら死ぬのを待っていればよいが、さてどうであろう。

 かたや、アパート投資と同様、近隣には続々とタワマンが建ちあがってくる。なにせこれまで900棟以上あったタワマンがさらにこの先わかっているだけで280棟も出来上がるのだ。当然競合は激しくなる。よほど良い立地にあれば別だが、湾岸エリアのマンションは海からの塩害などの影響で建物の経年劣化が激しいと言われる。

 築年が経過するごとにマンションは古ぼけて、築15年を超えると最初の大規模修繕が発生する。またマンションマーケットが今後も高騰を続ける保証はどこにもないのだ。インバウンド需要というが、世界情勢の変化によってこんな需要が簡単に吹き飛ぶことは、コロナ禍でも実証済みだ。

 いざ相続が発生して節税効果が享受できたとしても、その後売却のタイミングを失うと、節税のために買った高額なタワマンについて回るのが、節税効果を高めるために仕組んだ借入金だ。時価が簿価を下回るようになれば、借入金の返済は思うようにいかなくなる。こうなってしまうと借入金元本は常にまとわりつき、節税効果どころの話ではなくなってしまうのだ。

 こうしたタワマンの考えたくない未来が、今後現実のものとなる可能性は意外にありそうだ。アパート投資での失敗を笑っている場合ではなく、実はタワマン節税も構造的には全く同じ問題をはらんでいる。所詮は今までが安定した、あるいは「いけいけどんどん」のマーケットであったという事実だけが論拠の節税手法なのだ。

 不動産の未来が変わるのは、節税王のタワマンにおいても例外ではないのだ。

牧野知弘著『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)

この記事の著者
牧野知弘

不動産評論家。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て三井不動産勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て、2015年にオラガ総研株式会社の代表取締役に就任。ホテルなどの不動産プロデュースを展開。2018年に全国渡り鳥生活倶楽部株式会社設立、代表取締役を兼務。著者に『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(祥伝社新書)など多数。

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