度を越えたセクハラに「この組織はおかしい」…防衛大女子のリストカット事情と毎年のように出る自殺者

幹部自衛官を育てる防衛大学校では、日常的に厳しい指導や訓練が行われている。そのような環境下では、「追い詰められた」と感じる女性も少なくない。一体どのようなことが、彼女たちの心を傷つけるのか――。知られざる「防大女子」の真実を描いた全4回の2回目。
※本稿は、松田小牧『防大女子 究極の男性組織に飛び込んだ女性たち』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集・加筆したものです
第1回『虐待から逃げ出したい…半数が金銭理由で進学する「防大女子」の3割が辞めるワケ』
第3回『「袋かぶせたらヤレる」「胸を触られた」「点検と称しそのまま」…自衛隊がジェンダー問題をひたすら放置し続ける理由』
第4回『鈴木宗男が「男子学生の嫁候補」として期待した防大女子から今、初の将官が生まれようとしている』
「お前みたいなクズはいらない」
防大では、毎日のように上級生からの厳しい “指導” を受ける。納得させられるものからどう考えても理不尽なものまで程度に差はあるが、どんな指導でも受けたくはないものだ。
中でも、心や身体が弱っているときに受ける指導は、より心に突き刺さる。ある者はこんな経験をした。
「1年のとき、怪我して松葉杖をつくことになった。できないことも増えて同期に迷惑をかける代わりに、できることは同期の分まで引き受けた」
「でも、ある日上級生に呼び出しを受け、『お前、階段では松葉杖使ってないって聞いてるぞ! 本当は使わなくても移動できるんだろ! お前みたいなクズはいらねぇんだよ! お前の存在が同期の邪魔だ! お前みたいな奴は早くやめちまえ!いらねぇよいらねぇ!』と言われた。自分ではこれ以上ないくらいに必死に生きていたつもりだったから、かなり応えた」
「部屋に帰って泣いていると過呼吸になった。息ができなくて手足が痺れて、なんで頑張ってるのにこんな思いをしなくちゃいけないんだろう、私は防大にいない方がいいんじゃないかと思った」
上級生としては、「自衛隊に馴染めそうになければ早くやめさせるのがその子のため」「続けるのであれば覚悟を持たせる」という思いがあるので、1学年だからこそこういう指導になったのではないかと推察する。だが、1学年にとっては、ただただつらいだけだ。
ほかのある者はこう振り返る。「防大の教育自体が、その人の性格や感じ方、考え方を一度壊して作り替える印象がある。私は本当に世間知らずで甘えていた部分があるから、たくさんのことを学べたり身に付けられたりしたと思う一方で、ペシャンコにされたときのことが忘れられず、今も自己評価が低いまま」。彼女は自己肯定感の低下に苛まれ、しばらく鬱病を患ってしまった、と話す。
また、苛烈な指導を向けられるのが自分ではなくても、つらさを感じるときがある。最もつらかったこととして、「他人が指導されてるのを見たとき」と答えてくれた人も複数いた。
「同期がゲーム機を隠し持っていたのがばれて、反省ミーティング。みんな腕立て伏せをして、何が悪かったか一つずつ言っていく。その後は空気椅子。改善点を一つずつ言うまで終わらない。そんなに数があるわけもないのに……。同期は10キロくらいの重しが入った金庫を載せられてもうボロボロ。それを見るのはキツかった」
「同期の女子が恋愛沙汰で問題を起こしてやめた。いろいろ言われて、最終的には『女子でこういうことをやっちゃったからもういられない』って。でも男子はおとがめなしだった。それを見て、なんなんだこれはと思った」
毎年のように自殺者
防大では、本当に残念なことだが命を自ら断つ者もいる。数字的には1年に1人出るか出ないかといったところだが、仲間の死は、残された者にも大きな影響を及ぼす。毎日顔を合わせ、共に乗り越えていこうとする仲間が死を選ぶわけだから、影響を及ぼすのは当然のことだろう。