「袋かぶせたらヤレる」「胸を触られた」「点検と称しそのまま」…自衛隊がジェンダー問題をひたすら放置し続ける理由

 近頃、元女性自衛官の “セクハラ告発” が注目を集めた。自衛隊はその組織の構造上、ジェンダーにまつわる問題を多数はらんでいる。エリート自衛官たる「防大女子」たちも、圧倒的な男性社会の中で幾たびも苦悩を抱えて、時には退職に追い込まれた。知られざる「防大女子」の真実を描いた全4回の3回目。

※本稿は、松田小牧『防大女子 究極の男性組織に飛び込んだ女性たち』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集・加筆したものです

第1回『虐待から逃げ出したい…半数が金銭理由で進学する「防大女子」の3割が辞めるワケ

第2回『度を越えたセクハラに「この組織はおかしい」…防衛大女子のリストカット事情と毎年のように出る自殺者

第4回『鈴木宗男が「男子学生の嫁候補」として期待した防大女子から今、初の将官が生まれようとしている

「自分は劣った存在」と女子に思い込ませるまで

 防大が男女の別なく厳しい環境であることは間違いないが、やはり女子特有の悩みが存在する。最初に、体力の問題だ。防大では、男女で訓練内容に違いはない。実任務に男女の区別はないため、そのこと自体を問題視する者はまずいないが、必然的に男女の体力差が顕著に露呈する。

 体力差はいかんともしがたいが、体力のなさに引け目を持つ女子もいる。そんなときに男子から浴びせられる「これだから女は」「体力ないんだから、もっとほかに自分ができることを探して積極的にした方がいい」といった “何気ない” 一言は、彼女たちをさらに傷付ける。

 さらに体力差、またこのような発言を許す風潮は、女子学生の意識を変化させる。「同期に助けてもらってばかりの自分が情けなく、そんな人間が指揮官になって何ができるのかと卑屈になった」「訓練はついていくのがやっと。かといって勉強面で優れているわけでもなく、自分は価値のない人間だと思い込んだ」など。

 男子学生についていけないことで、自分が「劣った存在」であると捉えてしまう女子学生が多いことが見て取れる。「十分頑張っている、そこまで思い悩む必要はないのに」という女子であってもだ。

 防大には、一定数「女子だから」という理由だけで存在を一段下に見る男子学生が存在する。自分に自信を持てない状況下では、自分に否定的な者の存在がより大きくクローズアップされてしまう。

 もちろん、引け目を感じる女子ばかりではなく、優秀で堂々と生活する女子もそれなりに存在する。しかし、そういった女子からは「目立ったら目立ったで悪評が立つ」との声が聞かれた。役職に就いた女子に対しては、「女子のくせに」「父親のコネ」といった、僻みに近い言葉がささやかれることもあるのだ。

 そのような環境では、「努力して目立てば悪口を言われるのかと思い、前に出るのをやめた」と考える女子まで生まれてしまう。

 ただし、部隊に出てからは、「防大で感じていたような女子特有の悩みは減った」と話す声は多い。「部隊では男女の差の前に、階級の差がある。それゆえに邪険にされたり、下に見られたりするようなことはあまりなく、女性も一人の幹部として概ね男性と同じように扱われる」という。

「セクハラに慣れるのも自衛隊」

 防大時代から、セクハラに当たる言動は多い。「『お前は難しい話よりエッチな話の方が好きだろ』と言われた」「胸が大きいことをネタにされる」など、エピソードは枚挙にいとまがない。

 こういったハラスメントはなぜ起こるのか。一つは、防大・自衛隊には「そういった振る舞いが男性らしい」という空気があるからだろう。己の欲望、感情を素直にさらけ出すことが、一般社会よりも寛容な風土がある。

 セクハラに関してはほかに、「みんなが言ってるから自分も言っても大丈夫」という感覚が育ち、そういった話題で盛り上がることにより、男同士の連帯を強める。そしてそれは、話題に乗ってこない女を仲間から弾く作用を生み出す。

 取材の中でも「下ネタを話してたら、男子の中で『あいつは話せる奴』っていう認定を受けた」と振り返る者もいた。逆に、下ネタに興じない女子に対しては「ノリが悪い」という声が浴びせられることになる。また男子のみならず女子の中にも、「これくらいのことでギャーギャー言うようじゃ自衛隊ではやっていけないよ」とのたまう者が少なからずいる。

 ただ、私自身を振り返ってみても、いま思えば完全にセクハラめいた言動も、当時は「それはセクハラだ」とはあまり思っていなかったのではないか、と思う。「自衛隊だから、まぁこれくらいは」という意識があったことは否定できない。

「袋をかぶせたらやれる」で盛り上がり

 部隊に出てからも、セクハラに悩まされる女性は多い。毎年度、防衛省が行なっている「定期防衛監察」の2020年度版では、省内のセクハラ事案が6機関であったと報告されているが、これは間違いなく氷山の一角だ。たまたま露見したものがこの件数だった、という方が正しいだろう。

 耐えがたいセクハラに遭い、自衛隊を去った海自の女性もいる。

「船の中ではセクハラ、パワハラがかなりあった。部下からは『やらせてって言ったら、やらせてくれそうですよね』とかよく言われた。言われるたびに怒っていたけど、『言われるのは私の態度にも原因があるのかな』と思うようにもなってしまった」

「幹部から『君の職種ってブス枠でしょ』とか言われたこともあるし、部屋に酔っぱらった海曹が来て胸を触られたこともあった。すごく怖かった……。自分は容姿や女性らしさを武器にするために船に乗っているわけじゃない。上には『そういう素養を求めているのなら、いつでもやめます』と言っていた」

「他人が言われているのを見るのも嫌だった。出世した女性幹部の同期の男性が同じ艦に乗っていて、『あいつは袋かぶせたらやれる、とかみんなで話してたんだぜ』とか笑って言っていた。自分もいつかこう言われるのかなと思うと本当につらくなった。一般社会の感覚とかけ離れすぎている。自衛隊のセクハラ・パワハラの感覚は間違っている」

「そんなことをされるくらいなら死ぬ」幹部を襲う卑劣なセクハラ

 陸自に進み、もがきながらも前を向いていたが、環境に絶望してやめてしまった女性もいる。

「防大っていい意味でも悪い意味でも、男女関係ないところがあった。部隊でもそういうノリでいっちゃって……それがダメだったんだと思う。『幹部はとことん部下に付き合え』と教えられたから、飲みに誘われたら三次会四次会でも、走ろうって言われたらとことん付き合った結果、勘違いされることも多かった」

「飲み会の後に『反省会するから残れ』と言われて残ったら『かわいいね』とか言われて、『やめてください』って言ったら気まずくなってた。次の日から『あいつは何なんだ』とか言いふらされて……。うまく立ち回るのが、私はかなり下手だった」

「あるときは急に『今からお前の家を点検するぞ』って言われて、女子だからって断っちゃいけないって思って家に呼んだら、そのまま襲われそうになった。『そんなことされたら死にます』とか言ったらなんとか帰ってくれたけど……。周りには言えなくて、今そんなことをした人が部隊で幅をきかせてると思うと苦しい」

「ほかにも自分は職務として小隊員に声かけしなきゃいけないけど、その中の一人にアタックされて断ると、長文メールが来るようになった。『また男捕まえてたぶらかしてる』とか『この偽善者』とか。教育でも『女を使ってる』とか何度も言われて。そんな気は全くないのに、そんな風に見られてしまうのかと。結局その人はストーカーっぽくなってしまった」

「やめる決め手になったのは、上司から不倫を求められたこと。断ったらすごく嫌われて、ずっと無視されてた。気にしないようにしてたけど、急に異動になって隣の席に移されて……。仕事頑張ろうって思ってたけど、そういう個人の思いで人事を動かされちゃうのかと愕然とした」

「部隊を出て自分の居場所を見つけようとしたけど、その異動のせいで職種の経験が少なくなって、上に言ったら『経験が少ないし、そもそも今人が少ないんだからこの部隊から出られるわけないだろ、はは』とか言われて。自分が頑張ってももうどうすることもできないって思うともう限界だった」

 彼女のケースまでとはいかなくても、「結婚してる上司から誘われた」「部下に好意を持たれ、断ったら無視された」という声や、「大事な後輩がセクハラの被害に遭ってやめていった。慌てて手を回したが手遅れだった」といった意見はほかにもあった。

 このような問題が起きると「だから女はいない方がいいんだよ」と言い出す者が必ずいるが、それはあまりに短絡的な結論だと怒りすら覚える。「男と女を完全に別々にする」と楽ではあるが、仲間意識を育てる観点から言えば十分ではない。そろそろ自衛隊も、組織としてジェンダーの問題に本気で向き合う必要があるだろう。

松田小牧『防大女子 究極の男性組織に飛び込んだ女性たち』(ワニブックスPLUS新書)

この記事の著者
松田小牧

1987年大阪府生まれ。2007年防衛大学校に入校。人間文化学科で心理学を専攻。陸上自衛隊幹部候補生学校を中途退校し、2012年、株式会社時事通信社に入社。社会部、神戸総局を経て政治部に配属され、2018年第一子出産を機に退職。その後はITベンチャーの人事を経て、現在はフリーランスとして執筆活動などを行う。

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