「日経ダブルインバース」だけは絶対に買ってはいけない理由…超インフレ時代の「お金の稼ぎ方」

インフレ抑制法とパウエル発言…アメリカ経済は復調するのか

 日経平均株価が小幅な上下は見せつつも、相変わらず堅調です。

 要因の一つとして考えられるのが、アメリカのインフレがわずかに鈍化しそうだという点。消費者物価指数の上昇率が、ピークの9.1%から8.5%まで下がってきています。8月16日に成立した「インフレ抑制法案」も少なからず、物価上昇の抑え込みに寄与する可能性があります。

 もっともこの「インフレ抑制法案」、名前のわりには、果たしてどこまで実際にインフレ抑制に効果があるのか、ちょっと心もとないところもあります。

 この法案では、気候変動対策などに対する財政支出が約4370億ドル、また大企業への法人税の最低税率導入による「節税」の制限などで歳入増加が約7370億ドルを見込んでいます。これらは再生可能エネルギーへの移行加速と財政赤字の削減が目的なのですが、産業界からの反発も少なくありません。消費者が電気自動車や燃料電池車を購入する際に、最終組み立てが北米で行われていることを始め、細かい要件が厳しすぎるとの声も上がっているからです。

 しかし、法人税を上げること、大規模な気候変動対策を掲げたこと、国民の健康保険補助や医療費削減にメスを入れたことなどは評価でき、アメリカの国民感情としても、現在のインフレ状況にはプラスに作用していくはずです。

 インフレが鈍化すれば、アメリカの利上げもペースダウンするはずでした。ただ、その後のジャクソンホール会議で、パウエルFRB議長の講演がマーケットの想定以上に「タカ派」だったことで、ガラリと相場の雰囲気が変わりました。

 米国の長期金利は再び上昇し、日米の金利差拡大から1ドル=140円台に乗せてきています。NYダウは、年初の3万6,799ドルからパウエル発言の直後には2万9888ドルまで約23%下落しましたが、背景には長期金利が1.5%から3.4%まで短期間で急上昇したことも理由の1つです。

 ここから利上げをしっかりと実施したとしても、4%を超えてどんどんと長期金利が上昇することまでは、今の段階では考えにくい。その観点からすれば、米国株は調整が一巡するタイミングを見計らいたいです。

 マーケットの次の視点は9月13日に発表予定の消費者物価指数です。この数字を受けて、9月の利上げ動向が決まるからです。

2022年度後半は製造業の復活に期待

 2022年4-6月期の国内企業決算が、ほぼ出そろいました。全体的に増収増益という喜ばしい結果に。グロース市場も好調で、ファーストリテイリングも為替益が伸びました。

 これまで私はこの連載の中で、トヨタ自動車の2022年4―6月期決算は良い数字が出てくるだろうと予想してきました。ただし、こちらは残念ながら、営業利益は前年同期比の42.0%減の5786億円という結果に。確かに売上げは円安効果から、過去最高をたたき出しましたが、その数字を上回る形で、原材料の価格高騰や、半導体不足による減産が響いてしまったようです。

 ただ、私も含めマーケットは悲観していません。製造業も22年後半に向けて期待できるという予想も、相変わらず持続しています。その理由は、主に3つあります。

  • ① 中国経済が回復基調にあること。
  • ② 今期はかばかしくなかった製造業で、「挽回生産」が今後起きるであろうこと。
  • ③ 為替レート変動は通常、「Jカーブ効果」を描くため、円安効果は今後現れること。

 トヨタ自動車の例を見ても分かるように、製造業の場合、増産したくても半導体不足で思うように増産に切り替えられなかったところも多くありました。今後、新型コロナが落ち着いてきた影響で、中国を始め、半導体製造が勢いを取り戻していくことで、日本の製造現場も大いに「挽回生産」が期待できます。

 また、為替レート変動の「Jカーブ効果」については、ここしばらく円安状態が続いていますが、短期的には、予想される方向とは逆向きに、貿易収支が動く現象が指摘されています。円安による貿易収支は、少し時期をずらした今後に、黒字方向に反転するだろうということです。

「日経平均が下落したら、2倍儲かる?」…ダブルインバースの罠

 ちなみに私は、現在の日経平均株価の上昇基調は、今後も当分堅調に続くとみていますが、一部には下落を見越して対策を取ろうとする動きもあります。その代表格が、「ダブルインバース」型の上場投資信託(ETF)、日経ダブルインバースです。

 日経ダブルインバース自体は、日経平均株価の下落に備えたリスクヘッジ的なもの。いわゆるレバレッジETFの一種で、日経平均株価が下がることで、反対に価格が上がっていく仕組みです。しかもそれに2倍のレバレッジが効くのだから、確かにインパクトは大きいといえるでしょう。

 例えば日経平均株価が-5%となったとすれば、日経ダブルインバースは、+10%に上昇します。(もちろん、その逆もしかり。日経平均が+5%なら、日経ダブルインバースは-10%になります)

 となれば、日経平均株価上昇の今こそ、日経ダブルインバースの仕込み時期。遅かれ早かれ日経平均株価は急落するはずだから、その時期を狙って最大効果を狙おう……と考える人も出てきます。というか私の予想外に、そういう個人投資家は多いようです。

 日経ダブルインバースの発行済投資口数が今、過去最多の7億口に達しています。つまり、「ここから日経平均は下落していくはず」と思っている個人投資家さんが、非常に多いということです。

 でも、待ってください。もちろん日経ダブルインバース自体は、れっきとした金融商品で、それ自体が危険と言うつもりはありませんが、ただ、極めて特徴的な商品ですので、素人が安易に手を出すのはお勧めしません。

 ハイリターンということはハイリスクでもある証拠。性質を熟知したうえで、かつ短期間保有すべき投資商品であるということは、皆さんにお伝えしておきたいと思います。単純に、「日経平均が下がれば2倍儲かる!」というイメージだけで投資するのはお勧めできないということです。

GDPは伸びているが、GDI(国内総所得)は減少

 繰り返しますが、日経平均株価は今後も順調で、いずれ3万円を超すだろうと私は予測しています。実際、2023年3月期の今期純利益予想は、平均で3.3%増の見通しとなっています。

 ただし、実際に日常生活を送っていると、そんな良い感じの景気観は肌感覚では伝わってきません。「日本経済、回復している」。「アフターコロナの未来も明るい」。そんな論調で私も語ってきていますが……、プライベートでコンビニに買い物に行ったりすると、普通に驚いていますから。「え、これくらいしか買っていないのに、もう3000円超えちゃったの?」と。

 そう、企業も国も儲けているはずなのに、いまいち庶民が景気回復感を感じられない。10円、20円単位でジワジワと値上げされていたり、ステルス価格になっていたり……。ちりも積もればで、何となく出費が増えているが、給料は相変わらず据え置かれたまま……、というのが多くの人の実感ではないでしょうか。

 ではここで、「GDP(国内総生産)」を見てみましょう。2022年4-6月期の日本のGDPは、年率2.2%増。要するに、「日本のGDPは成長している」ということです。

 ただし、もう一つの指標を見ると、この強気メッセージは一気にしぼむことになります。

 それが「GDI(国内総所得)」です。要するに、日本人がいくら稼いでいるかを示す指標で、実はこの「GDI」が、年率換算で、1.2%減になっています……。

 これ、最悪のパターンですよね。要するに物価は徐々に上がり始めているのに、所得はジリジリと下がっていっている。あまり報道されていない恐ろしい事実です。

 国内で生み出された実質的な付加価値は成長しているのに、円安による輸入物価の上昇で、その対価であるべき所得が海外に流出していってしまっている。日銀が目指す消費者物価指数も、ようやく2%ギリギリですが、そこにはエネルギーや食品価格の高騰も反映されているので、それ以外のモノの価格が正常に上がり、給料に反映する好循環が生まれつつあるとは、とても言い難い状態です。

ネトフリもアマゾンも高嶺の花? 「稼ぐ力」を手に入れよう

 一方、コロナ以降、富裕層は海外で確実に増えていっています。しかも、「富裕」の概念、スケールが、いまや日本と海外とでは比べようもないくらい開いてしまっています。

 F1などで、ピット裏のスペースから観覧できるパドック席は、選手たちと同じ空間を共有できる社交の場として富裕層に人気ですが、鈴鹿サーキットなら60万円くらいの席が、マイアミでは300万円とかで売り出されています。さらにプレミアもつけば、1席1500万円という信じられない値段に。しかし、それでも海外の富裕層は買えてしまう。

 「海外」対「日本」での貧富の格差は、何も富裕層ばかりの話ではありません。身近なところではディズニーランドやネットフリックス、Amazonプライムの価格など、これまでは「所得の少ない日本人」に合わせて、世界標準よりだいぶ低めに設定してくれていた価格が、軒並み「世界標準」に合わせて上昇しつつあります。

 日本人はエンターテインメントも、いまや海外サービスに依存状態。そこがグローバル基準で容赦なく上がっていくとなると……、もはやiPhoneは夢のまた夢、ネットフリックスなどのサブスクエンタメも節約のために我慢……という世界が待っているかもしれません。

 国としての「稼ぐ力」はもちろんですが、日本国民一人一人の「稼ぐ力」も、今後鍛えていかなくてはならない分野と言えそうです。

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