「銃撃された安倍晋三は偽物だった」「真犯人は別にいる」…なぜ、トンチキ陰謀論に人はまんまとはまるのか

政党関係者や言論人までもが「真犯人」探し
世界中に衝撃が走った安倍晋三元総理の銃殺事件から2カ月が過ぎた。27日には、賛否が分かれた国葬も執り行われた。故人への追悼よりも政治と宗教の関係を始めとする様々な問題が根深く残ってしまいそうだ。そんな中、今後ずっと消えずに語られそうなものの一つが、銃撃をめぐる「陰謀論」である。
近年のSNS上には、確定的事実とは異なる「隠された真実」を断片的な情報から求め、一般的に知られていない、想像にすぎないことを断定する局地的ブームが起こっている。コロナ禍の鬱屈(うっくつ)もあってか、不確かな情報がより飛び交うようになり、今回の安倍氏銃撃事件でも数多くのまことしやかな “真実” がささやかれた。
筆者はTwitter上で情報収集用アカウントを持ち、陰謀論などを日常的に発信するアカウントを2000以上フォローしている。安倍氏銃撃に関するトンデモ説はこれまで飽きるほど目にしてきた。
その中でも、まずは比較的軽めの説から一つ紹介したい。「犯人が別にいるのでは」という主張だ。事件の映像では、山上徹也容疑者の発砲と安倍氏が倒れた様子がはっきり映し出されていたが、この動画を独自にコマ送りにして銃声と速度を分析し、「山上の銃では無理」と結論付けたり、「病院や警察発表と銃弾の入射角度に矛盾が」などと推論したりする大型アカウントが複数あった。
この説が、ネット民の間だけではなく、国政政党関係者や保守系言論人の間でも取り上げられ、真剣に語られてしまったのだ。「根拠が薄い」「陰謀論」との指摘を受けると、そうした知識人は「仮説や検証することさえダメなのか」と開き直ったり余計に意固地になったりするから、割と始末が悪かった。