みんかぶFP相談室

第1回 マイホーム購入と大学進学と

豆原 里芽
公開)
第8回 家族がいるメリットって何ですか?

※ FP=ファイナンシャルプランナー。 ※「みんかぶFP相談室」は実在しません。本記事の個人名、固有名詞などは全てフィクションです。

ライフプランはドラえもんのひみつ道具のように何でも叶えてはくれませんが、誰にでも使えて、それでいて魔法のような効果があります

ワクワクするような未来を思い描きながら資産形成を始めることで、将来への不安や疑問が解消し、私たちの夢が実現可能となるからです。

毎日を精一杯生きているあなたにぜひこのお話を読んでいただいて、ほんの少し自分の未来に光をあてる時間を持っていただけたら幸いです。

【登場人物】

  • 深瀬さん …………みんかぶFP相談室の室長、アラフィフの女性
  • 青木くん ………… みんかぶFP相談室の助手、23歳男性
  • Aさん  ………… 本日の相談者、33歳男性

Aさんのライフプラン】

  • マイホーム購入     35歳
  • 子2人、大学まで進学   50~55歳
  • 老後に向けた資産形成  ~65歳

「はぁ」

思わずため息をついた。今日は朝から不安な気持ちがまとわりついている。

僕は見知らぬ部屋の前に立っている。

「あ、ご相談の方ですか?」

部屋のドアが開き、20代そこそこの若い男が声をかけてきた。

「僕は、この相談室の助手みたいなもので青木っていいます。どうぞ入ってください!」

なんとなく軽い印象だ。大丈夫だろうか。ますます不安が大きくなったような気がしないでもないが、相談室に足を踏み入れた。

ライフプランってなんだろう?

「こんにちは。FPの深瀬と申します。今日はご足労ありがとうございます」

部屋に入ると、女性が出迎えてくれた。50代くらいの普通のおばちゃんだ。

「Aさんとお呼びしますね。さっそくですけど、このシートに記入してもらえますか」

いきなり、Aさんと匿名で呼ばれた。しかも唐突に、世間話もなく本題に入ったことに面食らったが不思議と嫌な気持ちはしなかった。

「ご家庭全体の経済状況を教えてくださいね」と、深瀬さんが言った。

僕は部屋に入ってから立ったままである。話についていけない。

「じゃあAさんはこちらへおかけください! 荷物はそこらへんに置いて。あ、あとペンはこちらを使ってください」

慌てて寄ってきた助手の青木くんが、慣れない所作で深瀬さんの向かいの席に案内してくれた。

「なんだか、一生懸命だな」と心の中でくすっと笑いながら、机の上に置いてある紙に目を移した。

そこには家計状況チェックシートと書いてあった。

【家計状況チェックシート】
家族構成 年齢 職業 その他
本人 33歳 メーカー営業職  
31歳 休職中 現在、第2子妊娠中
長女 2歳    
次女 3か月後誕生予定    
収入 給与 本人 250,000円 (月平均)
配偶者 0円  
ボーナス 本人 1,000,000円 (年間)
     
支出 日常生活費   230,000円  
  内、住宅費 80,000円 賃貸マンション
  230,000円  
収支計 収入−支出
(ボーナス別)
  20,000円 普通預金
資産 負債
現預金 3,000,000円 ローン なし
有価証券 500,000円(国債)    
不動産 なし    
3,500,000円 0円
資産−負債 3,500,000円    

僕は、先月分の給与明細書を持参していたが、家計は妻に任せっきりのため正確な数字を書くことができなかった。自分の資産状況も把握できていないことを恥ずかしく思った。

【理想のライフプラン】と書いてある欄で記入する手が止まった。

「これは何を書けばいいんですか?」

「Aさんがこれから先、やりたいことや家族に必要なものを書いてみてくださいね。なんでもいいんですよ」

ライフプランは「生涯にわたって充実した生活を送るための人生設計」で自分の夢や家族の希望を叶えるための資金の準備や、将来の不安を解消できるように作るものだという。人生観や価値観が反映されるため、ひとりひとり違ったものになるらしい。

深瀬さんは、さらに説明してくれた。

「将来を見据えながら目標を立てることで、未来への不安が解消され、定期的に見直し、実行することで、家族との思い描いていた生活が実現しますよ」

日頃、家族のことについてぼんやりと考えていたことを初めて紙に書いた。

理想のライフプラン 本人の年齢 金額
マイホームを購入する 35歳
子2人、大学まで進学 50〜55歳
老後資金を貯める 〜65歳
     
     

金額については全然イメージがなかった。案外、平凡で面白味がない。でも、この3つが正直ずっと気になっていたことだった。

僕は思い切って訊いた。

「僕に、この3つが実現できるでしょうか」

「このままでは無理でしょうねぇ」

「………」

深瀬さんは間髪いれずに即答してきた。僕は書いたことを後悔した。やっぱり無理なのか…。

「深瀬さん、はっきり言い過ぎっす。Aさんビックリして今にも倒れそうすよ!」

「あら、ごめんなさい。今のままでは、全部を叶えることは難しいということですよ。これから一緒にどうしたら3つとも実現させることができるか考えてみましょう

微笑みながら深瀬さんは言った。それにしても、どん底に落とされた気持ちだった。無理だなんて。

年収400万円で戸建てマイホームは買えるのか

「Aさん、奥さんに働いてもらうことはできるのかしら」

と、深瀬さんは前置きをせずに訊いてきた。

妻は、子供が幼稚園に上がる年齢になったら働きたいと考えていた。

「大きな出費の予定があるときは、Aさん1人の収入で考えるのではなく、奥さんの収入と合わせて世帯収入として考える必要があるわ」

深瀬さんは、こんなふうに教えてくれた。

世帯収入の25%程度を住宅費とすると、無理のないローンが組めるそうだ。僕の手取り年収は、約400万円だから

(400万円×25%)×35年ローン=3500万円

月々約8万3000円程度のローン負担になる。住宅ローンの利息が含まれているため、だいたい住宅購入予算は2500万~3000万円くらいだ。

今の家賃と同じくらいの予算なのか。なら、家を建ててもやっていけるかな」

さらに、妻が育児をしつつ月々5万~8万円ほどパートで収入を得ることで、住宅ローンの予算を多くしたり、教育資金を積み立てたりする余裕が生まれるという。

今まで自分の収入だけで養うことを考えていた。現代では共働き世帯が当たり前だが、僕は妻の収入に頼るのは気が引けていた。

それに、お金の管理を妻に任せっきりにしていて話題にしたこともなかった。帰ったら話してみよう。

教育費ってどうやって貯めるの?

僕は「この際、訊きたいことを全部訊いて帰ろう」という気分になっていた。

「長女と、これから生まれてくる次女を大学まで進学させたいと思っているんですが、僕の年収で可能ですかね?」

普通預金でなんとなく貯めていた預金300万円を思い浮かべながら訊く。

深瀬さんは、僕をチラッと見ながらこう言った。

「大学まで進学させるってね、すっごく大変よ。うちにも2人子供がいてね。もう自立したんだけど、高校から大学まで進学させるときが一番家計が苦しかったわよ!

それから、教育資金を準備するための商品を3つ教えてくれた。

一般財形貯蓄 毎月の給与から一定額を天引きして貯蓄。いつでも引き出せる。
学資保険 教育資金を積み立てると同時に、親が亡くなった場合に備える保険。
定期預金 元本保証があるので安全性が高く確実に貯められる。現在、利率が低い。

「大学は、公立か、私立か、または進学する学部によって費用が大きく異なるの。それに、人生にはいつトラブルがあるかわからないから、全ての学費をこれから貯めることだけを考えるのではなくて、ローンや奨学金を借りることも想定しておきたいわね」

僕は、住宅購入以外にローンを組むことを考えたことがなかった。子供たちに学費を全額準備してあげたい思いはあるものの、ほかに選択肢があることに僕は安心した。

1. 教育ローン
  • 国の教育ローン 一般貸し付け限度額350万円
  • 民間のローン  金融機関により金利や金額が異なる
2. 奨学金
  • 代表的なものは独立行政法人日本学生支援機構
  • 無利子と有利子がある

両親が僕を大学まで入れてくれたことに改めて感謝するとともに、尊敬の念が湧いてきた。自分は、60歳まで子供たちを教育していくことができるだろうか。

僕の老後は大丈夫?

僕は最後の質問を、深瀬さんにぶつけた。

「ライフプラン、なんとなく実現できそうな気がしてきましたが、老後資金が貯められるか不安です

「いまAさんはサラリーマンで、65歳定年なのね。これからはね、65歳定年で寿命まで余生を過ごす、ということはできない時代になるわ」

政府は2016年9月に「人生100年時代構想会議」を設置し、未来の政策について考えている、と深瀬さんは教えてくれた。

なんと2007年に生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計される研究があるという。人生は80年から100年へ、単純に僕たちの世代は20年くらい労働期間を増やす必要があるだろう。

「ネガティブに聞こえるかもしれないけど、生涯働き続けたい人にとっては、こんなに自由な時代は今までなかったわ。老後、という言葉の考え方も大きく変わってくるわね」

深瀬さんは「老後の資金は子供が自立したら本格的に貯めたらよいこと」と「今から老後の準備を考えるなら、毎月無理のない範囲で余裕資金を積み立てること」を提案してくれた。

毎月の生活の余剰金2万円のうち、1万円を老後の資金として積み立てていいかもしれない。

財形年金貯蓄 給与から天引きで一定額積み立て
60歳まで受け取れない。
つみたてNISA 投資信託などの金融商品を一定額積み立てる。
価格変動リスクがある。
iDeCo 定期預金や投資信託など運用商品を自分でえらび積み立てる。
60歳まで引き出しできない。

税金面の優遇はメリットだけど、商品によって60歳まで引き出せないなどの注意点もあるから、くれぐれも無理のない範囲から始めるといいわ」

話を聞いているうちに、心が軽くなるのを感じていた。専門家に話すっていいな。頭の中の不安が整理されて、課題が明確になった。

「今日はありがとうございました。まずは、妻とお互い未来についてどう思っているのか、話し合うことから始めます」

と言って部屋を出た。FP相談室を訪れる前の自分と比べて、足取りは別人のように軽い。

家庭全体の経済状況から考えて、これからの生活の準備をすることにワクワクしている。

今日は帰りに花でも買って帰ろうかな。そんなことしたことないけど。

エピローグ

「それにしても深瀬さん、余計な話一切しないんですね?Aさん、なんて匿名で呼ぶのも失礼じゃないすか?」

Aさんが帰ったあと、後片付けをしながら青木は訊いた。

「青木くん、FPってね、耳が痛いことも言わないといけないのよ。未来について考えるって楽しいことも多いけど、今の状況を直視したり、新しいことに挑戦したりする必要があるかもしれない。オブラートに包んでいたら伝わらないこともあるわ。だから私はあえて個人的な距離を保って、必要があれば厳しいことをいう準備をしているのよ」

青木は、次の相談者が厳しいことを言われないといいな、と少し気の毒に思った。

「匿名で言われたらそんなに傷ついたりしないでしょ。それに、私は相談が終わったらさっさと忘れてお家に帰りたいもの」

それには同意できる、と思いながら青木はそそくさと帰り支度を始めた。

(次回に続く)

【本日の金言】
自分のライフプランは、外側には見つからない。あなただけが知っていること。
あなたの中にある理想の未来について想像すれば、きっと人生が動き出すはずです。
この記事の著者
豆原 里芽

フリーライター。投資、FX 、ライフプランなど経済・金融分野を中心に執筆。 銀行・生保・税務と金融業界における横断的キャリアを生かして、分かりやすいお金の話を目指す。 投資歴15年以上。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。日本商工会議所簿記検定2級。

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