見えた!日本V字回復…経済のプロが解説「不動産とファンドはやめろ」インフレ局面の資産形成ルール

上念司

 経済評論家の上念司氏は、2012年にほぼ全財産を投じて購入した株式を2018年にすべて売却。8000円台で購入した株は2018年当時2万円を超えており、その後のコロナ禍により株価は大きく下落した。このような行動について、上念氏は「すべて経済学の知見に従っただけ」と話す。そんな上念氏がインフレ時代だからこそ勧める資産防衛術とは――。全4回中の4回目。 

※本稿は上念司著『何をしなくとも勝手に復活する日本経済』(ビジネス社)から抜粋、編集したものです。 

第1回:日本経済が「これから勝手に復活する」ワケ…馬鹿マスコミの謎悲観論を完全論破! コロナで日本人が貯めた50兆円に使い道
第2回:見えた日本経済、V字回復!ありがとう安倍晋三 …「ノーパンしゃぶしゃぶ」から始まったデフレについに打ち勝った
第3回:米国の異様な韓国不審…地政学的に日本がアジアの生産工場にならざるを得ない理由「中国デカップリングと新興国リスク」

いまある資産を守る物価連動債 

 インフレが進む中で、我々はどのように資産防衛すべきなのか。最も大事なことは、インフレとは毎年現金の実質的価値が目減りする時代だということだ。 

 よく野党やマスコミが「実質賃金が下がる」といった議論をしたがるが、実質賃金の前に実質的な資産の価値を考え、いまある資産を守ることのほうが大事ではないだろうか。 

 物価が上昇していく時代にあって、現在持っている資産を目減りさせないためには、価格変動のリスクを取ることだ。最も簡単で確実な方法は、現金をすべて物価連動債に変えてしまうことだ。 

 通常の国債は、名目の元本の金額は変わらない。これに対し、物価連動債の場合、債券の名目金利は固定であるものの、物価上昇に連動して元本が増加するため、利払い額や償還額が増減する。 

 つまり、物価連動債は、インフレがおきても実質的な価値が低下しない債券といえる。もちろん、物価連動債にも弱点はある。デフレ時には、たとえばインフレ率がマイナス1%になれば、元本も1%減る。とはいえ、この場合もこの債券の実質的価値が不変であることは変わりない。1%のインフレなら1%増え、1%のデフレなら1%減る。そういうシステムだ。 

 今後しばらくはインフレ局面になることを前提に、価格変動リスクを取るべきだと私は考えている。そうすることで、5年後、10年後には元本の実質的目減りを回避することができる。 

高いパフォーマンスを発揮し続けるプロは少ない

 物価連動債は2015年から個人向けにも解禁されたが、物価連動債そのものを買うのは売買単位や手続きが煩雑なのでお勧めしない。証券会社でも物価連動債を組み込んだファンドを販売しているので、こちらを購入したほうが便利だ。(例:三菱UFJ国際投信│eMAXIS国内物価連動国債インデックス) 

 これまで毎月一定額を貯金していたなら、貯金の代わりに物価連動債を組み込んだファンドを購入する。毎月一定額を銀行口座から引き出し、購入するように設定もできる。給料日が25日なら毎月25日または26日に、3万円なり5万円なりを購入するように設定しておけばいい。 

 このファンドは売買手数料無料で、信託報酬が年0.5%以内などと極めて安い。物価を上回るリターンはないが、貯金のようにインフレ下で物価を下回るリスクもない。実質価値が変わらず、貯金感覚で堅く運用するなら最適だろう。 

 リターンを期待して多少のリスクを取ってもいいという人は、債券や株式、リート(不動産投資信託)などで運用するのもいい。SBI証券や楽天証券といったネット証券を使えば、売買手数料をはじめ、さまざまな手数料が無料、もしくは比較的安く利用できる。 

 私が実践し、なおかつ勧めているのはインデックスへの投資だ。インデックスとは「指数」のことで、有名どころでは「日経平均」や「TOPIX(東証株価指数)」などがある。一般にファンド(投資信託)は、プロの投資家が複数の銘柄に分散投資して運用する商品と言われるが、問題はそのプロの実際のパフォーマンスだ。 

 正直、手数料に見合った高いパフォーマンスを発揮する人はほとんどいない。インデックスのパフォーマンスを5年連続上回るようなプロは偶然以外の確率では存在しない。残念だがこれが現実だ。よって、私は何も考えずにインデックスファンドを買う。 

 日本株式のインデックスファンドには、大きく日経平均インデックスファンドとTOPIXファンドの2種類ある。リスク分散の意味では、銘柄数が多く加重平均で決まるTOPIXのほうをお勧めしたい。 

 さらに全世界の株価を対象とした、全世界株式インデックスファンドもある。対象銘柄は数千社から数万社で、日本を対象としたものよりさらに広く薄く投資できるようになっている。 

 ただし世界株式インデックスには中国株も含まれている点に注意が必要だ。また、ドル高局面では新興国で経済危機が起こりやすいが、世界株式インデックスにはこれも含まれている。この点を気にするなら先進国だけの株式インデックスに投資するという方法もある。 

不動産投資はNG、だがリートはOK 

 次に紹介したいのはリートである。リートは投資家から集めた資金で複数の不動産を購入し、得られる賃貸料収入や不動産売却益などを分配する投資信託だ。インデックスファンドが株式を対象とするのに対し、こちらは不動産を扱うところが大きな違いだ。 

 インフレ時代には不動産価格も値上がりするが、不動産は単体で買うとリスクが高すぎる。株を個別銘柄で買わないほうがいいように、私は不動産も個別の物件は買わないようにしている。都心のビルのオフィスの小口所有権などの広告が目につくが、私はこういったものには絶対に手を出さない。 

 なぜなら個別の物件は流動性が低く、売りたいときに売れないことも多いからだ。ピンポイントで「東京都何区何丁目何番地の土地を欲しい」と思う人や企業がいない限り、手持ちの物件を売ることができない。そんな人や企業がタイミングよく現れてくれる保証はなく、加えて売買手数料が高いという問題もある。 

 一方のリートは証券なので、売り注文を出せば一瞬で売れる。いわば逃げ足が速く、お金が必要になったとき、すぐに現金化できるところがよい。リートには日本国内だけを対象としたもののほか、ヨーロッパやアメリカ、それらをひっくるめた先進国、全世界を対象にしたものなどいろいろな商品がある。なかでも最もリスクが低く、高リターンを期待できるのは先進国リートだろうと私は思っている。 

 さらにリスクを取っても構わないなら、コモディティ(商品)ファンドもある。コモディティには原油や小麦など、さまざまな銘柄があるが、いずれも単一で購入するのは大変なリスクを伴う。コモディティフンァドはコモディティをインデックス化することで、リスクを分散化している。 

 代表的なコモディティのインデックスはMSCIコモデティインデックスだろう。他にも、UBSやブルームバーグなどもコモデティインデックスを発表している。これらに連動する投資信託もたくさん発売されている。(例:三菱UFJ国際投信│eMAXISプラス コモディティインデックス) 

 実際に私が購入しているのは、これらのインデックスすべてである。以上をまとめると、貯金の目減りを避けるだけなら物価連動債を購入するのがよい。給料日当日か翌日に物価連動債を購入していけば、インフレで実質的な資産価値が減少することはない。 

 さらに、もう少しリスクを取っていいなら、株や不動産、コモディティのインデックスファンドを買う。また株と不動産は、日本とそれ以外をバランスよく入れてもいいだろう。広く薄く投資をすればそれだけリスクを回避できる。 

 例えば、日本株式インデックスよりは世界株式インデックス、リートも、一国のものより先進国や全世界にしたほうがいい。ただし、ダメになることが分かっている中国や、利上げの悪影響を受けそうな新興国を除きたければそれに対応した商品を探す。このあたりは好みの問題でもある。 

 投資でもう1つ重要なのは、毎月一定額を積み立てる、いわゆる「ドルコスト平均法」で行うことだ。毎月同じ額で買う場合、価格が高い時期から始めても安い時期から始めても、長い目で見れば結果はほとんど変わらない。大事なのは、できるだけ長い期間運用すること。「安くなってから始めよう」などと待つより、高い時期であっても買い始めたほうがいい。 

 5年、10年投資するつもりなら、タイミングを待つよりも一刻も早く買い始める。チャンスを伺って1年待つことになれば、その1年が無駄になる。 

 逆に、1つの銘柄を集中的に一度に買うことはお勧めしない。まぐれで成功するかもしれないが、小さな成功を何度か積み重ねると調子に乗った挙げ句、最後に大負けすることが多い。問題は大負けしたとき、それまで積み上げた利益を吹き飛ばして余りあるマイナスになることがよくあるので注意が必要だ。 

 私がこの手の一点買い、集中投資で大儲けしたことは一度しかない。民主党の野田佳彦政権から第2次安倍晋三政権に変わるタイミングで、解散総選挙が決まった瞬間から選挙投票日までの約1カ月、ほぼ毎日全力でインデックスファンドを買った時だけだ。 

 当時8000円台だった株は、2018年に2万4000円前後で売った。2021年に3万円を超えたので早まったかとも思ったが、相場格言に「頭と尻尾はくれてやれ」とあるので、この程度でも十分だろう。投資の基本は「勝つ」よりも「負けない」ことにある。負けずに長く続けていれば、いつか必ずチャンスが来る。孫子の兵法でいう「不敗」の構えだ。「勝つ」と「負ける」には大きな差がある。その間の負けない状態というのが大事だ。

上念司著『何をしなくとも勝手に復活する日本経済』(ビジネス社)

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この記事の著者
上念司

1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一教授に師事し、薫陶を受ける。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。

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