経済学者が指摘する「中国EVが詰んでいる理由」…大変だ!アメリカが警鐘「チャイナに半導体製造装置を売ったらダメだ!」

 経済学者の上念司氏は、投資を成功させるためには「経済リテラシーを磨くとともに、国際政治並びに地政学の知見が大いに役立つ」と話す。では、いま世界中で起こっている出来事を私たちはどのように捉えるべきなのか。ロシアによるウクライナ侵攻の影響やアメリカの中国への圧力などへの見方について、上念氏が解説する。 

※本記事は上念司著『経済学で読み解く正しい投資、アブない投資』(扶桑社)から抜粋、再構成したものです(全4本中の2本目)。 

第1回:なぜネットの投資情報はゴミばかりなのか!経済学者「2~4%のマイルドインフレなら、短期的な景気後退局面があってもいずれ景気は持ち直す」 

第3回:もし中国と戦争になったら「10億人の人口は飢え死にする可能性」経済学者指摘…世界は2つに分断され、日本も戦争に巻き込まれる 

第4回:経済学者「中国経済は長期低落傾向」日本人がやるべき投資はもうこれしかない!世界の流れからみた当然の結論 

目次

世界中の出来事がインフレを引き寄せる 

 経済理論と地政学を踏まえて、いま世界で起こっていることを解説しましょう。結論から言うと、いま世界で起こっていることはインフレ期待を強めるイベントばかりです。たとえば、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻しました。その結果、エネルギー価格は高騰し、原油(WTI)は一時1バレル150ドル台という史上空前の高値をつけました。 

 また、ロシアやウクライナからの鉱物資源の輸出にも当然影響が出ます。たとえば、ウクライナは半導体製造に必要なネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの「希ガス」を供給しています。特にネオンの供給量は世界の約7割を占めていました。このため、2022年以降、これら希ガス類の価格が高騰しました。  

 半導体製造工程などで使用される希ガスのクリプトン(Kr)、キセノン(Xe)の需給が慢性的にタイトな状況だ。同分野向けを中心に需要が伸びる一方、供給量が追い付かず、ロシアによるウクライナ侵攻により、世界的な需給のひっ迫に拍車がかかった。  

 日本国内でも生産量に余力がない状況で、 7月には大陽日酸が2010年以来の 能力増強を発表したが、製鉄向けなど大規模な酸素需要量の確保がこうした設備投資の前提となるため、根本的な需給改善に向けた動向は不透明といえる。 

引用:希ガス 世界でひっ迫、半導体向け 伸長も供給は不安定 『化学工業報』 (2022年9月9日)

 国際商品市況は2023年にはある程度落ち着きましたが、2023年10月にイスラム原理主義勢力ハマスがイスラエルに越境テロ攻撃を行ったことで再び原油価格は上昇に転じました。ハマスのテロ攻撃に対するイスラエルの報復攻撃は自衛権の範囲を逸脱する過剰なものであり、国際社会ではジェノサイド(虐殺)だと非難されています。 

 さらに、パレスチナにアラブの大義を見いだす原理主義勢力がイスラエルに対する攻撃姿勢を強めました。なかでも、イエメンを事実上、支配するフーシ派は紅海において船舶攻撃を開始。そのせいで、多くのコンテナ船やタンカーが紅海を通れなくなり、アフリカの喜望峰に迂回せざるを得ない状況となっています。物流費の高騰を予感させます。  

“トランプ大統領” 誕生で関税が高くなる 

 そもそも、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックで世界のサプライチェーンは大混乱に陥り、半導体価格が異常に高騰したのは記憶に新しいところです。どうも、2020年を境に経済のレジームが大きく転換したように思えます。ほかにもインフレを予感させる事象は多々あります。たとえば、アメリカ大統領選がそうです。仮にトランプ氏が再び大統領に返り咲いたらなにが起こるでしょうか?選挙演説において彼はこんなことを言っております。  

 11月の米大統領選に向け共和党の候補指名獲得を目指すトランプ前大統領は、自身が本選で勝利すれば中国からの輸入品に再び関税を課すとし、税率は60%を超える可能性があると述べた。4日放送されたFOXニュースのインタビューで、関税を課さなければならないと発言。60%の税率を検討しているとの報道について問われ、「いや、それ以上になるかもしれない」と語った。 

引用:トランプ氏、中国製品に60%超の関税も 大統領選勝利なら『ロイター』(2024年2月5日)

米国のトランプ前大統領は16日、11月の大統領選で再選した場合、中国の自動車メーカーがメキシコで生産した車に「100%の関税を課す」と表明した。安価な中国車が米国に流入するのを未然に防ぐ。中西部オハイオ州の選挙演説で語った。「巨大な自動車製造工場がメキシコに建設されている。米国人は雇用せず、車を米国に売ろうとしている。それはダメだ。我々は国境を越えてくる車に100%の関税をかける」と述べた。

引用:トランプ氏、メキシコ製中国車に「100%関税課す」『日本経済新聞』(2024年3月18日)

 一言でいえばバリバリの保護主義です。外国の安い製品に関税をかけるわけですから、  

 当然高くなります。これもインフレ要因ですよね?さらに、トランプ氏は関税で政府が儲けた分は減税で還元すると言っています。しかし、減税で還元というのはお金をバラまくことと同じですから、やはりこれもインフレ要因です。  

 ちなみに、トランプ氏の対抗馬であるバイデン大統領は中国製EVについては経済安全保障の観点からそもそも輸入を禁止しようとしています。 

 米国のバイデン政権は2月29日、高い関税のために現在は米国にほとんど輸入されていない中国製の電気自動車(EV)が、米国人の機密データを収集し中国政府に送信する懸念があり、いずれ国家に重大なリスクをもたらす可能性があると発表した。   

 バイデン大統領は声明の中で「私は、中国のような懸念のある国から輸入された自動車が、我が国の国家安全保障を損なうことがないよう前例のない措置を発表する」と述べた。「私は、懸念される国々からのテクノロジーを使用したコネクテッドビークル(インターネットに接続可能な車両)に関する調査を実施し、リスクに対応するための行動をとるよう商務長官に指示した」と大統領は続けた。  

引用:中国製EVが「米国の機密を盗む」懸念、バイデン政権が規制検討『Forbes  
JAPAN』(2024年3月2日)

 5月14日には、中国製EVなどに対する制裁関税の大幅引き上げも発表しています。 

「TikTok禁止」と「米国は台湾を守る」はつながっている 

 大統領選挙がどちらに転んでも中国製のEVをアメリカに輸出するのは非常に難しいのではないでしょうか。そして、EVのみならず、ほかの製品やサービスについても安全保障上の理由からアメリカは使用を禁止する方向に動いています。象徴的な動きは2024年3月13日にありました。 

 米連邦議会下院は13日、中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国内の利用禁止につながる法案を本会議で可決した。中国などの「敵対国」が影響力を及ぼすアプリを規制対象にする。 

 欧州でも規制検討が進み、ティックトック包囲網が一段と強まる。賛成352、反対65という大差で下院を通過した。上院も可決し、バイデン大統領が署名すれば成立する。ホワイトハウスのジャンピエール大統領報道官は記者会見で「国家安全保障を危険にさらすという脅威に対処するための継続的な取り組みにおいて、この一歩を歓迎する」と述べた。中国外務省の汪文斌副報道局長は14日の記者会見で法案可決に反発した。「国家権力を行使し、関連企業を不当に弾圧しようとしている」と述べた。  

 法案は「外国の敵対者がコントロールするアプリから米国人を保護する法律」と称する。敵対国を中国とロシア、イラン、北朝鮮と定義した。そのうえで、ティックトックを傘下に持つ中国の字節跳動(バイトダンス)を名指しで書き込んだ。 

引用:米下院、TikTok規制法案可決「民主主義を弱体化」『日本経済新聞』(2024年3月14日)

 さらにアメリカは「産業の米」と言われる半導体のサプライチェーンを同盟国内で構築することを望んでおり、日本やオランダに対して最先端の半導体製造装置を中国に売らないよう要請しました。日本とオランダはこの要請に応じ、事実上の経済制裁に加わっています。アメリカが台湾との関係を重視し、バイデン大統領がたびたび「台湾を守るために米軍を派遣する」と「失言」しているのは偶然ではありません。間違いなくある意図に沿ってアメリカは動いている。その意図を知るにはとりわけ地政学の知見が重要です。  

『経済学で読み解く正しい投資、アブない投資』(扶桑社)

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この記事の著者
上念司

1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一教授に師事し、薫陶を受ける。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。

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