今、中国が狙っているのは西日本! 福岡、那覇…不動産の勝機はここにあり!

 外国人が今まで日本人が見向きもしなかった土地を買っている。日本の不動産はとにかく安い。特に中国人から見れば、財産を持つ国として安心・安全。さらに景観は良く、自然が豊かで食べ物が美味しい、治安が良い、と美辞麗句が並ぶ。そんな不動産を物色する外国人たちが狙うのは “西日本” だ。不動産評論家の牧野知弘さんは「LOOK WEST 日本の中心軸は九州、沖縄へ動く」と言う。(第2回/全4回)

※本記事は、牧野知弘著『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)より抜粋・再編集したものです。

第1回:タワマンに”勝ち組エリート”が住まない理由…住民たちが「考えたくない」悲惨すぎる未来
第3回:「ワンルーム投資」に目がくらんだサラリーマンの末路…売れない、貸せない、危険すぎた遊びの代償
第4回:晴海フラッグを絶対に買ってはいけない理由…不動産関係者がネットの悪評火消しに奔走?

ビジネスも不動産も “地形” 勝負。台湾よりも人件費が安くなったニッポンの価値

 2021年10月、ソニーグループが、台湾の半導体生産受託会社TSMC(台湾積体電路製造)との共同で、熊本県菊陽町に新工場を建設する計画を発表した。製造されるのは先端微細技術を駆使して製造される演算用半導体で、自動車や産業用ロボットに搭載される。

 日本はすでにこの分野での半導体製造は世界の競争から取り残されて手を引き、TSMCに製造を委託していたが、今般TSMCから直接投資を仰ぐことで製造を復活できる。新工場への投資額は8000億円。そのうち最大50%を国が出資するとされ、デンソーなどからも一部出資がされる見込みだ。

 こうした動きを「ものづくりニッポンの復活」と論評する識者もいるがピント外れである。新工場の誕生は、たしかに地元にとっては雇用の促進につながる歓迎すべきことかもしれないが、いまや台湾よりも日本に工場を建てて半導体を製造したほうが人件費も安くて効率が良い、ととらえるのが正しい見方だ。つまり安い国ニッポンの象徴的な事象なのである。

 これは今後中国の侵攻が危ぶまれる台湾よりも日本で製造するほうが地政学的に安全という判断もあるだろう。不動産と地政学は密接な関係になりつつある。

 地政学とは文字通り「地理学」と「政治学」が融合した学問だ。地政学という用語は、1899年スウェーデンの政治家ルドルフ・チェレーンによって唱えられたとされるが、我々日本人の多くの耳に届いたのは、1980年頃に米国の政治学者ヘンリー・キッシンジャーが米ソの東西対立などでの演説で多用したことによる。日本が大東亜共栄圏を唱えて太平洋戦争へと突入していった発想の根源もこの地政学にある。

 地政学は、国家などの地理的位置関係と政治や軍事、社会とのつながりを説いた学問であったが、たぶんに政治的に利用されやすい性格のものであったといえる。

日本の貿易国トップはいまや中国。未来を読むには東の米国より、西の中国

 では日本の未来に向けて地政学的な考察をするならば、いったいどうなるだろう。どの地方が、どういった観点から発展をしていくのだろうか、また世界の政治的動きや経済成長が日本の不動産にどのような影響を及ぼすことになるか、という問いが思い浮かぶ。このように、不動産の未来を考察するうえで地政学的な俯瞰は必須なのである。

 日本は戦後長らく、輸出型製造業を産業の主力として発展を続けてきた。そしてその相手国は米国が中心だった。日本で製造された鉄鋼や自動車、電気製品は太平洋を渡って米国に大量に輸出されたのである。そうした意味では、日本は太平洋に向かって、つまりLOOK EASTの時代が長く続いたことになる。1995年における貿易統計をみると、日本の貿易相手国は輸出入総額ベースでみて米国がトップの18兆4094億円、貿易額全体に占めるシェアは25.2%に及んでいた。

 ところが四半世紀後の現在、2020年では貿易相手国のトップは中国。その取扱額は32兆5898億円でシェアは23.9%、米国は20兆644億円でシェアは14.7%まで低下している。

 さらに注目されるのが、金額の伸びである。この25年間、米国との貿易額は8.9%の伸びであったのに対して、中国との額はなんと6倍に跳ね上がったという事実だ。またアジアおよびASEANエリアの貿易額は2020年で全体の69.2%を占めるに至っている。今や我々日本の商売相手は、日本の西側にあるのである。時代はLOOK WESTだ。

アジアに近い “西日本” が熱い。もはや、不動産と経済は “西” にしか未来はない

 東京に住んでいるとあまり気が付かないが、西日本、たとえば福岡や沖縄から中国をはじめとしたアジア諸国に向かうのはとても快適である。福岡空港からだと羽田に行くのも上海に行くのも時間距離はほとんど変わらない。東京から中国をはじめとしたアジア、ASEAN諸国を見るのと、九州や沖縄から見る姿は異なるのである。

 この九州、沖縄地方の地政学的な優位性は、日本の不動産の未来を考えるうえで重要な示唆を与えている。21世紀における経済の発展の軸はあきらかに日本の西側にあるからだ。熊本県に半導体の最新鋭工場が建設されるのも、その裏側にある様々な事情は別として、不動産活用のチャンスが到来していることを意味しているのである。

 アジアに近いという意味では、金融でも九州、沖縄は優位な立地にある。よく東京を国際金融センターにと政治家やデベロッパーは言うが、地政学的には上海や香港、シンガポールに近い福岡や那覇のほうが、その可能性は高いと言ってよいだろう。

 急激な経済成長を遂げ、GDPでも日本を追い越し世界第2位の経済大国に躍り出た中国に対し、日本人の多くはある種のやっかみを抱き、社会主義市場経済を標榜し、世界に覇権を広げようとする中国の軍事的野望を脅威に感じ、人権問題を絡めて米国や英国に便乗してこれを排除しようとする動きがあるが、我々日本人はこの先の未来を冷静に見定め、地政学的に極めて近距離にある大国、中国との接し方を考えていく必要がある。

 日本の未来は経済の中心が西に動いていくことはおそらく間違いがない。不動産の可能性も西に向かって開けている、これだけは確信をもって言うことができるだろう。

牧野知弘著『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)

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この記事の著者
牧野知弘

不動産事業プロデューサー。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て三井不動産勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て、2015年にオラガ総研株式会社の代表取締役に就任。ホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)など多数。

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