えらいてんちょう「S&P500に投資するのはナンセンス」…みんなが「投資しているから」はつまらない
えらいてんちょう氏(以下、えらてん氏)は、2018年発売の『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)にて、“マッチョ” なイメージのある「起業」の概念を刷新した。「組織で働くのが無理なら起業しよう」「つらいことをやる必要はありません」など、従来の「起業」のイメージを覆す “ゆるい” 提案の数々は、「サラリーマン」として生きることに疑問を持っている多くの読者に好意的に迎えられ、ベストセラーとなった。
えらてん氏自身、「朝起きて満員電車に乗って通勤するのが嫌」という理由で起業した当事者である。テープ起こしから事業を始め、その後もリサイクルショップ、バー経営、学習塾経営など、次々と事業を起こし、軌道に乗せてきた。
一方で日本は他の先進国に類を見ないほど少子高齢化が進み、一部では「衰退先進国」とも揶揄されるほどだ。失われた30年を経た今もなお、日本経済の将来に明るい見通しがあるとは思えない。経済協力開発機構(OECD)によると、1995~2020年にかけての名目賃金は、米国が2.23倍、英国が2.08倍、韓国は2.92倍上がっているのに対し、日本だけが0・96倍に、つまり、やや低下していたのだ。素人目に見てもだいぶ厳しいものがある。
しかしえらてん氏は「日本が不景気になろうと、『しょぼい起業』であれば時世による影響は受けづらいです。自分一人で稼げるくらいの事業なら簡単に作れます。特筆すべき技術も資産もいりません」と述べる。オワコン国家日本でも生き残ることができる「しょぼい起業」とはどんなものか、みんかぶ編集部が聞いた――。
「しょぼい起業」に資本はいらない
――昨今、メディアも識者ももっぱら「日本はオワコンだ」という論調です。ビジネスパーソンが生き残るためには、やはり海外企業に転職したり、海外に移住することを考えるべきなのでしょうか。
僕は池袋にほど近いエリアに住んでいるのですが、つい先日、池袋駅前の牛丼屋が潰れてブランド品買い取りの店がオープンしていました。今ある資産を売ることで、生活費の足しにしているという現状が垣間見えてきますよね。やはり、日本全体が貧乏になっている感は否めません。
ところが、僕が経営しているイベントバー「エデン」については、ここ最近は客も増えてきて非常に盛り上がっています。自分自身、景気の傾きとか時世というものをほとんど意識したことがありません。これはどこかのえらい人が言っていたことですが、自分が成功すると思った事業にベット(賭ける)して、それが当たれば、景気もクソも関係ないんですよ。自分で始めた事業が当たれば少なくとも自分一人は豊かになれるし、家族などを含めた周囲の豊かさも上がっていくんじゃないかなと思ってますけどね。だから「日本がこうだから」とか、あんまり関係ないです。
みなさんがそう考えてしまうのは、会社員だからということも大きいのではないでしょうか。会社員の給与はなかなかコントロールできるものではないですからね。昇給・昇進などがあるにしても。
自分でビジネスをやっている人の場合、ひとつの考え方や行動次第で状況が大きく変わってきます。だって、例えば記事を書いているライターのフリーランスの方であれば、書いた記事がより多くの人に読んでもらえるものになれば、ライターとしての付加価値が上がり、今後の収入や展開に直結していきますよね。それはマクロ経済の動向とはほぼ関係がない。「収入を上げたい」ということであれば、「しょぼい起業」という選択肢を考えてみてもいいのではないかな、と思います。
――あらためて、「しょぼい起業」とは何でしょうか。
「しょぼい起業とは、普段自分がやっていることを資本化すること」と定義しています。これを「生活の資本家」と呼びます。イベントバー「エデン」はフランチャイズ制を採用しているのですが、最近、横浜店ができました。そこの店長には子供が2人いらして、「最近、家が手狭になってきた」と感じていらしたんですね。そこで「自分の作業スペースが欲しい」とずっと思っていたらしくて。ならば、「そのスペースをついでに店にしちゃえばいいや」ということで、私に「横浜店をオープンしたい」と言ってきたんです(笑)。
一店舗目の「エデン」池袋本店は、開業するにあたって準備した資金はおよそ50万円。居抜きの物件を探したので、改装費はほとんどかけていません。椅子もそのへんで拾ったもので済ませました。トイレが和式だったので上からパコっとハメる便座を3000円で買い、ポストがなかったので2000円の物を買いました。店を開くなら500万円から、みたいな記事をどこかで見つけましたが、アホだなと思いながら読みましたね。しょぼい起業には資金も事業計画も不要です。
例えば通勤の途中にUber Eatsで配達してみたり、自家用車を貸し出してみたり、noteでブログを書いて有料記事にして売るなど、そうしたこともすべて「しょぼい起業」に該当します。普段自分がやっていること、生活のなかで自然にやっていることを資本としてお金を生み出すこと。それがしょぼい起業です。
「しょぼい起業」は誰にでもできる。まずは月20万円稼ぐことを狙え
――そう考えると、「しょぼい起業」は誰にでもできるものですね。
誰にでもできます。だから今自分にできることは何か考えてみて、少しずつ始めてみればいいのではと思います。
――「副業元年」とも呼ばれた2018年、コロナウイルスでリモートワークブームが始まった2020年を経て、世間は「在宅でできる副業」ブームに沸いています。Webライターや動画編集者など、新しい職業も続々出てきています。こうした仕事はしょぼい起業の範疇(はんちゅう)に入りますか。
「生活の資本化」という定義に該当しないので、「しょぼい起業」には該当しませんが、小銭稼ぎにはなると思います。ランサーズやクラウドワークス、ココナラなどのクラウドソーシングサイトを通じてそうした副業で稼ぐのが流行っていますが、私は正直、おすすめしません。ライターとか動画編集者などの「作業者」になっても儲からないと思う。
地道にやっていても月に20万円すら稼ぐのは厳しいです。私も大学時代、ランサーズに登録していましたが、仕事を振る側として利用していました。出版社から送られてきた録音を聞いて文字に起こすという仕事を1分あたり200円で請け負っていたのですが、ランサーズで1分あたり40円でやってもらう。ランサーズに少し持っていかれますが、管理者として最終チェックをすること、トラブルに対応すること、仕事をとってくることを自分ですれば、作業をせずにかなり儲かりました。
人気YouTuberが配信する動画は、本人ではなく編集者が編集するようになりましたよね。ですが、残念ながら編集者では儲かりません。人夫出しみたいな世界観ですが、優れた編集者を10人集めてYouTuberに送り出し、仲介料をもらうようなポジションを狙わなくてはいけません。もちろん初めは作業者としてのスタートとなるでしょう。そこから人夫出しにステップアップしてやるんだという意志を常に持っておくことがとても重要です。
――確かに「しょぼい起業」ならどんな人でも稼げそうな気がしてきました。ただ現実的に、どの程度稼げれば生活していけるのでしょうか。
「しょぼい起業」でも、一人暮らしであれば月に20万円。家族4人暮らしなら月に30万円は稼げていないと発展していかないように思います。そして、その額を稼ぐのに1日8時間以上の時間を費やしているようだと、あれこれ考える暇も生まれません。土日とかも結局、息抜きに使ってしまうみたいなところあるじゃないですか。逆に稼ぎは20万円とそこまで多くはないけれど、そのぶん時間があればいろんな発想を生むことができると思うんです。まずは月20万円稼げるようになるまで、頑張ってみてください。
私も「しょぼい起業」からスタートしましたが、アイデアを駆使して徐々に事業を拡大してきた結果、生活には余裕がある収入を得られるようになりました。今は企業価値10億円を目指した起業プランを練っている最中です。しょぼい起業からスタートしても、事業が起動に乗ればそうしたことも考えられるようになります。
S&P500のインデックスファンドに投資するのはナンセンス
――えらてんさんは、『とにかく死なないための「しょぼい投資」の話』(河出書房新社)も出版されていますよね。個人投資家としての顔もお持ちです。「起業まではしたくないけど、投資して資産を増やしたい」という読者にアドバイスをお願いします。
基本的に投資における儲けというのはあくまで結果であって、儲けるべくして儲けてはダメなんですよ。「これが儲かる」という場所に人が群がり、結局破綻するパターンってよくあるじゃないですか。他人がまだ発見していない価値のあるものを見つけたときに、投資するのがいいと思うんです。例えば、「みんなが投資しているから」といって「S&P500」のインデックスファンドに“右へ倣え”で投資したところで、そこまで大きなリターンは得られません。
私は兵庫県川西市の外れにあるボロ一軒家を購入しました。川西市は私の盟友の久木田さんというカレー屋が拠点を構えており、全国から「しょぼい起業家」が移り住んで、彼らがそれぞれ川西市で店を開業させています。川西市の観光は、彼らの事業活動によってこれからどんどん盛り上がっていくはずです。自分もその一員になることで、自分で土地の価値を上げていく。これが私の投資スタイルです。
郊外の住宅地が分かりやすい例です。私鉄という大資本が、自分で線路を引いて街を作って土地の価値を上げました。私はそのしょぼい版を川西市で実現しています。「しょぼい財閥」と勝手に名付けました(笑)。私のように「しょぼい財閥」を作ってみて大きな儲けを狙ってみてはいかがでしょうか。