音楽家・文筆家 菊地成孔「大人になったら金融営業を撃退したかった」貯金4000万円、銀行窓口で投資勧誘、そして…
サックス奏者、作曲家、文筆家、ラジオDJ、大学講師……と、ジャンルを超えて才能を発揮し、その独特の目線と軽妙洒脱な語り口で人気を博す菊地成孔氏。それでも、「株」「資産運用」については関心を寄せていなかったようで、銀行で“とある事態”が起こってしまったという。今回、菊地氏によるお金にまつわるエッセイをお届けする。
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敬愛する筒井康隆氏も投資には疎かった
僕は歳でいうと、いわゆるバブル世代という奴です。この世代がよく言う、あるいは周到に口は閉ざしているものの、心の中では忠義ぐらいの勢いで思っていることに「昔は良かった」という、まあ非常に大雑把に「昭和は良かった」という想いがあるんですが、確かに昭和は良かったですよ、野蛮でね!
ただ、はっきりと昭和が良かったのは、わずか一部分で、それは何かっちゅうと、「物書きなどは、経済や政治(「個人的な政経行為」が正しいのかな?)に関して、バカぐらい疎くても全く問題なかった(むしろ良かった)」という1点だけです本当に。
あのー、誰だって、「今の自分を形成したエッセイ(小説、俳句、何でもいいんですけど、文字列ね。今風にいうと)」ってあるじゃないですか? 僕はその一つに、筒井康隆先生の、もう、飲んでる時の悪ふざけぐらいのやつがあって(笑)。先生はそもそも、株式投資のことが一切お分かりになっていないのであります。
大人になったら金融営業を撃退したかった
ですが、超売れっ子作家なんで、自宅に“株屋さん”からひっきりなしに電話がかかってくるんですよ。先物だったのかなあアレは? とにかく、アレの株買いませんか、コレの株買いませんかの嵐で辟易するんですけど、逃げていてはナンセンスSFのチャンピオンとしては芸がない。
なので先生は「はいはいわかりました。儲かるならぜひ買います。では、うーん……猫の株はありますか?」「え、あの……猫ですか?」「はい!猫の株が欲しい!買えるだけください!あ、ちょっと通帳見てくるんで!」とかいって撃退する。
貯金4000万。銀行の窓口に行くと…
僕、中坊の頃にコレ読んで「なんか意味ぜんっぜんわかんねえけどカッケー!大人になったらコレやりてー!」って思ってたんですよ。
それでね、いつ頃だったかな?リーマンショックとかの遥か前ですよ。僕、貯金が4000万あってね、何だか知らないんですけど(自分で稼いだっていう事実だけは間違い無いんですけどね)。
で、ある日、何かの都合で銀行の窓口に行って、別件を片付けてたんですよ。そしたら窓口のお姉さんの目が異様にギラン!と輝いたんですよね。