なぜいま孫正義、ウォーレン・バフェットは同じタイミングでキャッシュを潤沢に用意したのか…相場が逆回転を始めるきっかけ「これは“答えが見えているテスト”だ」

円安が止まらない中、中国系資本が日本の不動産市場を浸食してきている。そんな中、とうとう日銀の利上げ観測が高まってきている。株式評論家の木戸次郎氏は「あるできごとをきっかけにして相場の逆回転が始まる」と指摘する。どんなきっかけなのか。そしていま、孫正義とウォーレン・バフェットが同時にキャッシュを潤沢に準備している意味は何か。同氏が読み解くーー。
みんかぶプレミアム特集「株価6万円突破?高市トレード爆発の行方」第7回。
目次
1ドル157円でも動じない日本国民…もう日本は壊れかけている
日本という国が、なぜこれほど長い時間をかけて現実から目を逸らし続けてこられたのかという問いが、1ドル157円という常識外れの為替を前にした瞬間、胸の奥深くに重たい塊となって沈んだ。
かつて120円でも危険な円安だと騒ぎ、130円が視野に入ればメディア総出で特集が組まれたこの国が、157円に到達しても声ひとつ上げない。沈黙とは、国家の感覚が麻痺しはじめた時にだけ現れる兆候であり、惰性と疲弊が最終段階へ突入したことを示す暗いサインである。異常が異常として扱われなくなった瞬間、この国の深層で何かが確実に壊れ始めていると私は感じた。
株価は通貨安によって吊り上げられ、それが税収を押し上げているだけ
政府が打ち出した21兆円超の経済対策は、その麻痺の象徴である。税収増と国債で賄うというが、その税収増は実体経済の成長ではなく、円安によって名目値が押し上げられた“泡”にすぎない。輸出企業の利益は為替差益で膨らみ、株価は通貨安によって吊り上げられ、それが税収を押し上げているだけだ。この“通貨劣化の繁栄”を恒久財源のように扱い、翌年度予算に組み込む政治の感覚は、国家運営の基本から逸脱している。
物価対策も延命策の連続である。電気・ガス補助は3月まで、ガソリン税停止も3月まで。光熱費支援もお米券も期限付きで消える。基礎食品——肉、魚、乳製品、調味料——が凄まじい勢いで値上がりし、家計を圧迫しているにもかかわらず、差し出されるのは“おこめ券”だ。お米の値上がりなどまだ“かわいい部類”であるにもかかわらず、米さえ配れば国民は静かにしているだろうという戦後的発想が、いまだ政権中枢に残っている。象徴的愚策であり、国民生活から乖離した政治の証である。
防衛費を増やすなら、その財源を示せ
防衛費の議論も同じ構造を抱える。GDP比3.5%という数字だけが独り歩きし、財源の議論は意図的に避けられる。所得税か、法人税か、消費税か——どれを選んでも国民負担は避けられないはずだが、政治家は「増税」という単語を頑なに口にしない。負担を語らない防衛議論は、政策ではなく幻想である。
この文脈で特に目を引くのが、高市総理の語り口だ。彼女はほぼ必ず「国民の皆様のために」と前置きする。この一言は丁寧語ではなく、政策の痛みを包み込み、反発を吸収する“心理的緩衝材”として機能している。岸田前政権の説明調への反動もあり、言葉の“温度”が政治の沈下を支えている。しかし政治が言葉の温度に依存し始めた瞬間、国家の意思決定は鈍り、現実との断層が広がる。私はそこにこの国の危うい転換点を感じている。
防衛費と核保有の関係性…善悪ではなく“力”が国際秩序を動かしている
私は先日、沖縄のひめゆりの塔を訪れた。教育勅語の名のもと十代の少女たちが戦場に動員され、看護要員という名の死地へ送り込まれ、教師でさえ手榴弾で自決した。その現実は資料よりも空気として胸に落ちた。静謐な空間には、国家が“判断を誤った瞬間の冷たさ”が今も漂っていた。戦争とは、国家の判断が遅れた時に最も弱い者から奪われる構造であり、抑止力とはその構造を未然に止めるための冷徹な仕組みにほかならない。
北朝鮮が150発の核を保有したから攻撃されずに済んでいるという現実は、善悪ではなく“力”が国際秩序を動かしているという事実の最も冷たい証拠である。
この構造は、2025年6月21日にアメリカがイラン国内の核施設三カ所を空爆した出来事にもはっきりと表れた。イランが核を求め続ける最大の理由は、攻撃されないためである。核を持てば、たとえ対立関係にあっても他国は安易に直接攻撃を選べなくなる。イラクは核を持たなかったために滅び、北朝鮮は核を保有したことで攻撃を回避し、イランは核を求める。これが“力の秩序”だ。
皮肉にも、この構造は国家の防衛費を極限まで抑える仕組みとしても作用する。核を持てば、最新鋭の装備を積み上げる必要はほとんどなくなる。しかし日本が核を保有することはない。アメリカが許さないからである。日本が核を持てば軍事的自立度が高まり、アメリカの影響力は低下し、高価な装備品を買い続ける“同盟国としての役割”にも変化が生じる。
日米同盟には理念も存在するが、現実には、日本がアメリカ製装備の安定した購入国であり続けることが、アメリカの軍事産業と戦略にとって極めて大きな意味を持っている。そうした構造がある限り、日本は核を持たず、装備品を買い続ける国として位置づけられ続ける。
高市総理の台湾発言の本当の意味…一部の違法中国インバウンドにより、日本の歪みが拡大しつつある
この延長線上で、高市総理の台湾発言が意味を持つ。国内では強硬姿勢として評価され、中国側には明確なシグナルとして伝わり、外交の空気を一変させた。その波紋が最もわかりやすく現れたのが、中国人観光客の急減である。
中国人観光客の急減は単なるインバウンドの変化ではない。それは国家関係の揺れを映す鏡であり、日本が抱えてきた“規律の喪失”を可視化する現象でもある。中国人観光客には「郷に入っては郷に従え」という最低限の規範が乏しく、金さえ払えばよいという傲慢な態度が、マナーの悪さやルール無視として各地に噴き出していた。
民泊では、中国人の利用者と中国資本が所有する物件が結びつき、予約から決済まですべて中国国内のウィチャットやアリペイで完結する“閉じた経済圏”が日本の内部に持ち込まれていた。日本側には決済記録が残らず、税務や監視がまったく届かない。家族や知人を装った偽装入国、白タクのアルファード、モグリ民泊が重なり、東京からニセコ、軽井沢まで地域社会は“外部プラットフォームの飛び地”のような状態に変質していた。これは観光の問題ではなく、日本が外部依存によって規律の基盤を失っていく過程そのものである。
片山財務大臣の「介入もありうる」という発言も、市場には届かない
こうした歪みが拡大するなか、植田総裁の利上げを匂わせる発言が市場を直撃した。円は一瞬で154円台まで戻り、日経平均は1000円近く急落した。政府の空気を読み続け主体性を失っていた日銀に、わずかながら主体性の兆しが見えた瞬間である。しかし154円であっても円安の中心に置かれている現実は変わらず、高市政権発足時の147円から見れば国民生活への圧力はむしろ強まっている。小幅な利上げでこの物価高が反転するとは到底考えられない。
片山財務大臣の「介入もありうる」という発言も、市場には届かない。海外勢は日本に円安を止める意思がないと完全に見抜いている。税収増、国債増、日銀買い取り、円安、税収増という循環構造が透けて見える以上、市場は言葉ではなく構造を見る。
シンガポールのヘッジファンドの友人「お前の国の首相は高市帝国でもつくる気なのか」
日銀は物価の粘着性が明らかになった段階で利上げすべきだったが、「慎重に」「注視」という魔法の言葉を繰り返し、政策は後追いとなり、信認は静かに剥がれ落ちていった。主体性を欠く中央銀行の通貨が、長期的に強くなることはない。
海外の視線はさらに冷たい。シンガポールのヘッジファンドの友人は、「日本は十九世紀の力の秩序の中で踏み石になっている」と書き、「お前の国の首相は高市帝国でもつくる気なのか」と皮肉めいた言葉で締めてきた。これは外から見た日本の現在地そのものである。
なぜ孫正義、ウォーレン・バフェットは同じタイミングでキャッシュを潤沢に用意したのか
一方、ソフトバンクのエヌビディア株売却は象徴的である。孫正義氏が見限ったという解釈が広まったが、現実は違う。