「憧れの田舎暮らし」の実態とは?その選択、実はかなりリスクが高いかも

「定年後はのんびり田舎暮らし」—。こんな憧れを持っている人も少ないのではないだろうか。一方で、不動産プロデュース事業を展開する牧野知弘氏は、「農業はハードルが高いし、コミュ力も必要」と警鐘を鳴らす。田舎暮らしの実態を、牧野氏が語る。全3回中の2回目。
※本稿は牧野知弘著『50歳からの不動産 不動産屋と銀行に煽られないために』(中公新書ラクレ)から抜粋、再構成したものです。
第1回:空き家問題は戸建てだけじゃない!空き家マンションが“負動産”になる
第3回:定年後は「第2の家選び」も!大手不動産会社が55歳以上の顧客を「ごみ」扱いする理由
目次
憧れの田舎暮らしの実態
定年後に多くの人が憧れて行動に移すのが田舎暮らしです。都会でずっとサラリーマンをやってきた。これは俺の本意ではない。自然が豊かな田舎で畑仕事でもしながら夫婦でのんびりすごしたいというものです。
夫婦のどちらかが出身地である田舎に戻って農業を継ぐというケースも考えられます。この場合はある程度農業体験があれば、問題は少ないでしょうが、それでも長期間全く農作業をやっていないと、すでに55歳を迎えた身体でいきなり農業をやるにはいささか無理があります。体力は足りませんし、足腰はすぐにガタがきてしまいます。
また実家だからといって安心して暮らせるわけでもないようです。長く実家を離れていれば、もはやエリア内での人間関係は切れたも同然の状態です。地元の人も表面的には「よくぞ帰ってきたね」などと笑顔で迎えてくれたとしても、その後の日々の生活で円滑な人間関係が築けるかはわかりません。
地元を離れて長い時間が経過してしまうと、お互いがほぼ他人の関係になっているからです。特に妻(夫)の方が全く初めての田舎暮らしの場合は厄介です。地元の風習、しきたりがわからずに孤立するケースも多いからです。
田舎暮らしには全く縁がなかった中高年者の移住も増えています。農業体験もなく、田舎に憧れて移住してくるというものです。退職金を元手に空き家を手に入れる。そして農地を手に入れて農作業を行うというのが基本的なパターンになります。
農業はかなりハードルが高い
しかしこうした生活を始めるには様々なハードルがあります。まずいくら予算があったとしても、農地は部外者が簡単に取得できません。現地の農業委員会に届け出て承認をもらう必要があるのです。農業体験がなければおいそれと農業を始めることなどできないのです。
いっぽうで以前は田や畑であった土地が今では休耕地になっているものも多くあります。後継者がいない、相続が生じたが相続人は農業をやる気がなく放置しているような土地がたくさんあるのです。
所有者を訪ねて行けば多くの場合、貸してくれます。農地を買わずとも小作人になれば農業を始めることができるのです。ところが問題はここからです。
畑を耕すにも田を造るにも農機具が必要になります。たとえばトラクター1台。新車だと1000万円はします。中古で300万円程度。トラクターの寿命は20年くらい。中古で買うとあっというまに故障するなどという話もよく聞きます。
大した面積でもなく、こぢんまり農業をやってみたいのでトラクターを買うことはないから農家から借りようと思っても、容易に貸してもらえません。農業では耕作する時期が完全に重なってしまうので、貸すことはできないし、シェアもできるはずがありません。
奮発して中古トラクターを手に入れます。でもどこに駐車すればよいでしょうか。多くの農家は田畑近くに農作業小屋をもっていて、トラクターなどの農機具を収納しています。ところが農地は借地。では借りた農地上にある農作業小屋も貸してくれるだろうと気楽に考えているとそうは問屋が卸してはくれません。
問われるのは都会よりも高い「コミュ力」
よく聞くのが貸主とのコミュニケーションが大事というものです。土地を貸してくれることと、小屋を貸してくれるかは別物。良好な人間関係を築けるかが問われると言います。借地なので勝手に小屋を作ることもできません。
準備万端整うまでにはある程度の資金と地元とのコミュ力が問われるのです。最近は自治体が面倒を見てくれて、農業指導員などをつけてくれる場合があります。しかし晴れて農業を開始しても、実際に作物を収穫できるようになるのは数か月後。この間、夫婦はほぼ無収入となります。それまでの生活費くらいはあらかじめ用意しておく必要がありそうです。
もちろん、田舎暮らしで本格的な農業を始めようという人も少ないかもしれません。それでも田舎暮らしをエンジョイするには、会社の中での人間関係の維持よりもはるかに高いコミュ力が必要です。会社内であれば、多少人間関係にぎくしゃくしても給料はもらえる立場にありますが、田舎は生活の中心に農業があって、仕事と生活がまさに密着しています。
地域内での多くの儀式、祭礼、寄り合いなどへの参加、季節ごとの贈答、都会では考えられないほど濃密な人間関係が求められます。人と接するのが好きと思っていても、接する相手も様々です。会社で培われたコミュ力とは全く異なる能力を見知らぬ土地で発揮できるかが問われます。
資金計画も重要です。都会の家を売却してきてしまうと、いざ田舎に溶け込めないともはや帰る場所がありません。なけなしのおカネを握りしめて向かうにはあまりにリスクの高い移住となってしまいます。できることなら都会のマンションを賃貸して賃料収入を確保しながら田舎での生活の足しにできるような資金計画が求められます。
田舎は自然が豊かで、と考える前に自然の厳しさを、田舎は人情が厚いと考える前に自身のコミュ力を考えて向かいたいものです。
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