AI激震で「SaaS」「クレカ」業界の雲行きはあやしいか… PER神話が崩壊した市場で、プロ投資家が狙う次なる代替インフラ
業績相場への移行に伴い、日本株市場は明暗が峻別される「K字型」の二極化相場を呈している。AIインフラや半導体、電線といった強力なモメンタムを伴うテーマ株が決算直後にストップ高を演じる一方で、国内グロース・IPO市場は総じて厳しい選別淘汰の波に晒されている。
なかでも市場を震撼させたのが、圧倒的なAIの進化を見せつけた「アンソロピックショック」に端を発するSaaS(クラウド型ソフトウェア)企業の急落だ。投資の常識とバリュエーション(企業価値評価)の指標が根底から覆るパラダイムシフトの中、プロのファンドマネージャーはどこに次なるアルファ(超過収益)の源泉を見出しているのか。国内グロース・IPO株のスペシャリストであり、緻密なファンダメンタルズ分析で市場のミスプライシングを突くfundnoteのファンドマネージャー・川合直也氏に迫った。
(取材・文/ちょる子)
みんかぶプレミアム連載「fundnote 川合・神谷の目」
目次
AIの不可逆的進化がもたらす「SaaSの激震」と、コンサルティング業界の実態
直近の決算発表を一巡し、川合氏は「市場の反応は合理性を逸脱するほど極端だった」と総括する。誰もが好業績を確信する大型テーマ株へ素直に資金が向かう一方で、IPOやグロース銘柄に対する市場の視線は冷ややかだった。川合氏によれば、直近のIPO企業の決算は「及第点の50点といったところ。成長の伸び率が徐々に鈍化していくトレンドが浮き彫りになった会社が多く見られた」という。
その象徴が、「SaaSの死」と囁かれるソフトウェア領域のバリュエーション低下である。
「私自身、自らコードを記述し自作のシステムでファンド運用を効率化するタイプの投資家であるため肌で感じていますが、現在のAI(アンソロピック等)の進化スピードは凄まじいものです。これまで企業は、一つの業務課題を解決するために月額数十万円から数百万円のコストをかけてSaaSを導入していました。しかし現在は、自社特有の課題にフィットしたシステムを、AIを活用すればわずか10日程度で、かつ安価に内製化できてしまう時代に突入しました。強固な参入障壁や独自の競争優位性を築けていない単一機能のソフトウェア企業は、急速にAIに代替されていくリスクを孕んでいます」
一方で、同様に「AIに代替される」との思惑から連れ安した「コンサルティング業界」については、全く異なる見解を示している。
「株価こそ下落に巻き込まれましたが、コンサルティング各社のファンダメンタルズは全く悪化しませんでした。むしろ採用動向は非常に好調です。日本企業が抱える最大の構造的課題である『人手不足』に対し、自社で採用・育成しきれない高度人材リソースを外部に求めたいという巨大な潜在ニーズが存在するため、コンサルの需要は依然として強固です。AIによる業務代替は進むものの、現時点において彼らの業績を押し下げる要因にはなっていません。もちろん今後も好業績が継続するかどうか精査していく必要があります」
PER神話の終焉。AI時代を生き抜く「2進数のバリュエーション」とは
AIという破壊的イノベーションの登場により、プロの投資判断基準も根本的な変革を迫られているという。
「企業価値を算出するDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)モデルにおいて、価値の大部分を占めるのは将来の『永続的な長期成長によるフリーキャッシュフロー(ターミナルバリュー)』です。AIの台頭によってソフトウェア企業の5年後、10年後の成長性に疑義が生じ、この長期成長率が割り引かれるようになれば、足元の業績がどれだけ好調であっても株価が大きく下落するのはファイナンス理論上、当然の帰結と言えます」
これまでグロース株投資において金科玉条のように用いられてきた「3年後のPER(株価収益率)が何倍だから割安である」という相対評価の指標は、もはや意味を成さなくなってきている。
「従来の投資判断は、PERが10倍、20倍といった『10進数』のグラデーションで割安度を測る考え方でした。しかし現在の相場は、『AIの脅威を乗り越えて生き残り、市場の資金が集中する(買い)』か『そうでないか(売り)』という、極めてシンプルかつ残酷な【2進数のバリュエーション】へと変貌を遂げたように感じています。PERの水準に関わらず、不可逆的なトレンドの中で生存可能な企業のみが淘汰を免れ、プレミアムを享受し続ける。投資家はそうしたシビアな視座を持たなければならない相場環境です」