植田日銀「金利3%時代」に備えよ…これから始まる倒産連鎖で日本経済に大打撃

 インフレが進行し、物価や光熱費の高騰にあえぐ人々が増加している日本。一方、有効求人倍率の増加やインバウンド回復などの明るい兆しもある。だが、今後、日本経済が本格的に浮揚するためには様々な問題があることも事実。今後、克服しなければならない日本の問題点について、経営コンサルタントの小宮一慶氏が鋭く斬り込む。 

2023年の日本経済は「インバウンド」と「賃上げ」がカギとなるも、中小企業社員の賃金アップは期待薄

 経済の観点でこれからの日本について語るとき、まず必要なのは「日本経済」と「日本企業」を分けて考えることです。日本経済の未来は総じて暗い。日本企業では、一般的にはグローバル企業は悪くなく、日本国内だけで事業を展開している企業は厳しい。 

 そんな中で、短期的に日本経済の鍵を握るのは「インバウンド」と「賃上げ」です。春以降、インバウンドにはある程度期待が持てると考えています。いまの中国は、すでに10億人の中国人がコロナに感染したとの推計もありますし、3年ぶりに行動制限が解かれた今回の春節では、総計21億人ほどの中国人が国内外を移動したと言われています。このような状況から、地方まで含めたほとんどのコミュニティで集団免疫ができたのではと考えています。中国経済が本格的に回り出せば、日本もインバウンドをはじめとして大きな恩恵を受けます。特に国内では交通機関やホテル、飲食店といったインバウンド関連業種は浮揚してくるでしょう。 

 賃上げについては、円安で過去最高益を上げているようなグローバル企業では、確かに大幅な賃上げが実現すると思います。ファーストリテイリングが最大40%の賃上げを発表したのを皮切りに、大手企業が軒並み賃上げを決め、イオンもパートの時給を7%上げると発表しましたが、こういった事例が増えてくることは日本経済にとって望ましいことは言うまでもありません。 

 ただし、こうした賃金アップの流れが、働く人の7割を占める中小企業の社員にまで及ぶとは考えづらいのです。パートやアルバイトの時給が高くなっているのは、特に飲食店やホテルといった業種で、コロナ禍で大量の人を切った分、人手が足りなくなっているからです。実際、ホテルの人は「予約は入ってくるが、対応できる人間がいない」と言っています。時給を上げないと人が採用できず、現状はパートやアルバイト人材の争奪戦の様相を呈しています。

 一方、中小企業にとっては、賃上げは非常に難しい。それは賃上げできるだけの材料がないからです。中小企業では仕入れ値の上昇分を最終消費財の価格に十分転嫁できておらず、苦しい状態が続いています。ですから給料なんてとても上げられませんし、それでは家計の支出は伸びません。日本の場合、国内総生産(GDP)の約55%を家計の支出が支えていますが、中小企業の賃上げが実現しない限りは、日本経済の未来はそれほど明るくありません。

日銀が「金利3%」にしたら…短期的には痛みは伴うが、長期的には老後不安の解消も

 ところで、2023年の日本経済の行方を考えるときに注視すべきは、やはり日銀の動きです。黒田東彦総裁は4月8日に退任となり、経済学者の植田和男氏がその後任の予定ですが、その後の日銀がどういった施策を出すのか。私は、アベノミクスは「異次元緩和」で結果的に日銀を食いつぶしてしまったと考えています。日銀のフリーハンドをなくして、景気が後退しても身動きが取れない状態にしてしまったからです。

 日銀は昨年12月の金融政策決定会合で、長期金利の変動幅を0.5%まで拡大しましたが、少しでもフリーハンドが欲しい日銀としては、さらなる利上げに踏み切る可能性もあると見ています。短期的に見れば、利上げはあらゆる分野で日本経済に痛みをもたらします。ですが、それは必要な痛みです。 

 ここで、この国の問題を俯瞰(ふかん)して考えてみましょう。例えば金利が3%まで上昇したらどうなるでしょう。悪い面ばかりが強調されていますが、実は金利が3%になることで解決する問題がたくさんあります。

 日本には個人金融資産が2000兆円あり、そのうち預貯金が1000兆円だと言われています。もし金利が3%になったとすると、年間30兆円の利息が付くわけです。約20%の税金がかかるとしても、利息だけで24兆円ほど。単純計算で、大人の数である約1億人で割ると1人あたり24万円になります。政府にも約6兆円の税収があります。

 高齢者は多くの貯金を持っている場合が多いため、年間で60万、70万円の利息が入ってくる家庭も珍しくないでしょう。いま、年金不安なんて言われていますが、そうなると「金利が生活費を補填してくれる」と思って安心できる人は増えいくのではないでしょうか。 

 そうすれば、余裕分が消費に回る上、先にも述べたように、この場合、税として6兆円が政府の収入になります。もちろん金利を上げれば利払いが増えるので、政府は短期的に苦しい状況に陥るでしょう。ですが、そこはなんとか耐え忍ぶべきです。財政が一時的に苦しくなったとしても、覚悟を決めて長い目で見た税収確保に努めることで、将来的な財政の健全化につながるはずです。 

ゾンビ企業の延命よりも、ゾンビ企業社員のリカレント教育に力を入れるべき

 また金利を上げると、利益を出していないのにズルズルと生き延び続けているゾンビ企業が淘汰されていく可能性も高くなります。ゾンビ企業では必要な社員教育も十分ではありません。もちろん、企業が倒産するのは短期的には良くないことだと捉えられがちですが、長期的に見た場合には良いことでもあります。社会の必要な分野に労働力などの資源がシフトすることになるからです。 

 ですから、政府は痛みを覚悟して金利を上げ、企業の淘汰が進む際の支援にこそ本腰を入れるべきです。たとえばM&Aを支援する制度をつくったり、ゾンビ企業の社員のリカレント教育に助成したりといった施策です。 

 大企業では自社でリカレント教育を含む社員教育を行うので、転職できる人材が育ちます。一方でゾンビ企業では社員教育も十分にできないため、転職すらできないのです。この歪みを正してあるべき形に戻すことが、日本経済を活性化するためには必要です。 

 少し話は脱線しますが、リカレント教育に関しては、岸田首相が育休中の人たちへのリカレント教育について表明しました。これは中小企業の本質を分かっていないと言わざるを得ません。私自身が社員20人を抱えている中小企業を経営しているのでよく分かるのですが、社員数の少ない中小企業にとって、女性社員が育児休業で抜けることはかなりの痛手です。社員20人の当社でも、現在2人が産休、育休中です。 

 財政的な問題ではなく、純粋に人手が足りないのです。そのような中小企業にとっては、一刻も早く社員が戻ってきてくれることが何よりも重要。実際にいま育休を取っている女性社員も「保育園が決まり次第、戻ってきたい」と話しています。育休中の教育もいいですが、なにより女性が安心して早く仕事に戻ってくれることが大切だと思います。そうした中小企業の切実な状況を、岸田首相は全く理解していないのでしょうか。

法人税を払っていないのに社長の給料だけは異常に高い…こんなことを許す税制こそ正すべき

 政策の歪みはまだあります。特になかなか重要性を認識してもらえないのが「配当」に対する税制です。私自身、非上場会社のオーナー経営者であり、自社株式の多くを保有しています。もちろん、うちの会社も配当金を出していますが、法人税を支払った後に、配当を支払っています。そして得た配当金は、個人の所得の段階では雑所得の扱いになり、高い税率がかかります。

 そこで、本来は株主が配当を受け取るべきところを、給料で受け取ろうとする中小企業の社長が非常に多いんです。これは、経営をあまり理解していない一部の税理士などがする「配当で受け取ったら損。だから社長の給料を上げた方がいい」というアドバイスを真に受けてしまう経営者が多いからです。

 確かに、配当として金銭を受け取った場合には、企業として法人税を払った後に再度、個人の所得に対して所得税がかかることになります。このような二重課税の制度を取っている国はほとんどありません。配当は経費に計上できないため、法人税を減らすこともできません。一方、給料で払った場合には企業の経費に計上し、法人税を減らせる場合があります。だから税理士は給料で受け取ることを勧めるわけです。 

 ですが、ここには大きな問題があります。まず従業員に支払う給与との整合性が取れなくなること。給料というのは「労働の対価」であり、配当は「資本への対価」として受け取るものです。配当と給与は分けて考えなければならないものなんです。大して働きもしない経営者が多額の給料を受け取っていれば、社員のモチベーションを損なうのは火を見るより明らかです。経営がうまくいかなくなるのです。

 本来、経営者は、自分の労働への対価として給料を受け取り、企業として法人税を支払い、残った資金から株主に配当を配るのがあるべき姿です。 

 上場企業では、配当を受け取った人には20%ほどの税金がかかるわけですが、中小企業の配当でも同じ税率とするべきです。そうすると、無理に給料を上げる必要もなくなるため、企業も利益が出やすくなり、法人税も増え、この方が政府としても得するはずです。いま、日本企業の実に65%が法人税を払っていません。その中には社長の給料だけが異常に高い企業もあるわけです。 

 このように非常に馬鹿げた事態が、税制のゆがみのために起こっています。経営者が会社経営の本質を自分で考えず、経営の本質をあまり知らない一部の税理士の言うことを鵜呑みして「損か得か」だけの尺度で考えてしまうと経営そのものがおかしくなるのです。このような経営のあり方を可能とする税制を、政府は一刻も早く修正するべきです。 

構成=松田小牧

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