溶ける日本…内紛の旧NHK党 「ガーシーは俺の友達」強調の立花氏、LINE告発の大津党首、「このクソカルト」の黒川氏
政界の「常識」への体当たりで注目を集めてきた旧NHK党(現・政治家女子48党)が結党以来最大のピンチを迎えている。党首だった立花孝志氏が辞任し、“内紛”が表面化。代表権返還や党運営をめぐり幹事長らがケンカ状態にあるのだ。同党の参院議員だったガーシー(東谷義和)氏には除名処分と逮捕状が出され、有料サロン会員の退会者も約1500人に達しているという。同党にある約11億円の債務をめぐる取り付け騒ぎも発生しており、NHKよりも先に「NHK党がぶっ壊れる」と不安視する声も漏れる。人気格闘技大会ブレイキングダウン顔負けのバトルは党勢拡大に向けた戦略なのか、それともガチンコなのか――。
生中継の会見中に立花氏と幹事長・黒川氏のバトルが勃発
「このような状況であれば、党に解散してほしい」「国政政党を任せるべきではない」。政治家女子48党(政女党)の黒川敦彦幹事長は3月31日、立花前党首の記者会見に乗り込み、非難の言葉を次々に発し、立花氏と衝突した。立花氏は同8日、昨年夏の参院選当選から一度も国会に登院しなかったガーシー氏が懲罰処分に応じなかった責任を取るとして、党首辞任を表明。国政政党の名は「政治家女子48党」に変更され、大津綾香氏が新党首に就任することになった。
事態収拾を急いだ立花氏は、事務局長という立場で “裏方” からのサポートを選んだのだが、さらに黒川氏が計画した政治資金パーティーをめぐり内紛が勃発。同29日には、党運営に携わることはないとして事務局長も辞任した。31日は大津党首による定例記者会見が予定されていたものの「立花さんともう話すことはありません」とツイッターで表明した大津氏は急遽(きゅうきょ)中止に。党の代表権などをめぐり新旧党首にトラブルが発生していることが明らかになった。
今や「政治プロレス」は同党の十八番(おはこ)と言えるが、この日開催された立花氏の記者会見は見る者をワクワク、ハラハラさせるのに十分なものだ。政治団体「NHK党」代表としての会見で、立花氏はこの間の経緯説明などを始めた。そこに激突している黒川氏が “乱入” し、マイクを手に「大津さんは泣いていましたよ」などと1時間近くにわたり立花氏を非難したのだ。党運営やガーシー容疑者との関係について “公開質問” を続け「ガーシーは仲間ではないとおっしゃったが、間違っていないでしょうか」などと追及。これに立花氏は「ガーシーは現在、俺の友達。党としての仲間ではない」と言い返す。
政界において “内紛” はつきもので、公にならないものを含めれば日常的に生じていると言っても過言ではない。だが、生中継の記者会見中に前党首と幹事長がバトルを繰り広げるというのは前代未聞だ。少数政党のトラブルでなければ、連日のようにメディアが騒ぐほどの事態である。
このままでは支援者による10億円超の貸し付けが焦げ付く恐れも
旧NHK党の内紛が深刻に見えるのは、人間関係の亀裂が「お金」にも関連する点にある。同党は支援者からの貸し付けによって資金を補ってきた。元金に年利5~10%の利息をつけて返すとして募り、2019年11月にはわずか30分間で申し込みが1億円を突破。立花氏は「なんとでもなると思っていますからね。返済できると思っています」と涙を浮かべて感謝し、4億円超の申し出を受けたことを明らかにした。
朝日新聞は2020年11月27日の記事で、2019年夏の参院選を受けて政党になった旧NHK党の政治資金収支報告書を分析している。それによると、当時の収入総額は約6億8167万円に上るが、そのほとんどは「借入金」。収入の5億5530万円は212の個人・法人から借りた借入金として計上していた。借入先は立花氏や同党の浜田聡参院議員らのほか、200人以上から1人あたり100万~1000万円を借り入れていたという。
ただ、注目度を上昇させる一方で「ガーシー問題」などのトラブルも相次いでおり、足元では取り付け騒ぎが起きているという。立花氏は「このまま国政政党が何も活動しなければ、年利5%は保証できないかもしれないが、元本は保証できるだけの債権はありますので、そこまで心配してもらうことはない」とする一方で、「党にお金を貸し付けていただいている333人の10億4000万円のほうが若干不安になっていると認識している」と説明。党にある約11億円の負債に対して残高は2400万円ほどだと言い、「大津党首だったらお金を貸してくれない」として、党の代表権返還を訴えている。
立花氏は「代表者が立花でないと不安を持っている人がいる。国政政党だから政党助成金がある意味の担保になっている。(立花氏が不正競争防止法違反などの罪で)有罪判決が確定したからだとか、ガーシーの件だとか言っているが、大津氏への不安がある」「代表権さえ戻してもらえれば、取り付け騒ぎもおさまると思っている」と指摘。その上で「もうすでに返金できない状況なので問題が発生している状況だ」と説明している。
立花氏「キミを辞めさせるために取り付け騒ぎを起こしたんだ」
これに対して新党首の大津氏は3月30日、ツイッターに「急ぐ必要があったからなのか、なかったのか、通帳も見たことないし何も分からない。全部嘘かもしれない。ころころ言うことが変わりすぎです。乗っ取りなんかないことが分かっているのではないですか? 取付騒ぎの理由もガーシーや有罪確定によるものだってあるかも」とつづり、立花氏とされる人物と交わしたLINE画像を公開。現時点で代表権を返還する意思はないとみられ、もはや「常識」では理解できないバトルに発展している。
数々の「常識外」で注目を浴びてきた同党だが、支援者でなくとも心配なのは、今後の党運営と債務の行方だろう。立花氏は、自分か浜田聡参院議員、ガーシー氏の除名に伴い繰り上げ当選した齊藤健一郎参院議員のいずれかが代表を務める方がよいとし、債務については次のような戦略を描いていると明かしている。
「次の衆院選は当然、国政政党として立候補すれば、各ブロックに全国で出ても6600万円で立候補できます。それに対して一票80円の政党助成金が返ってくるので6600万円の資金で、有名人を立候補させれば5%ぐらい取れるので、毎年2億円くらい入ってくる。次の衆院選後には借入金よりも政党助成金の方が多くなる」
国政政党には、所属議員数や過去の国政選挙の得票数に応じて政党交付金が交付されている。共産党は助成金を受け取っていないが、旧NHK党には2023年に約3億3400万円が入る予定だ。2019年夏の参院選で議席と2%超の得票を得た同党には毎年、億単位の資金が集まる。立花氏は「11億5000万円の債権がある」と主張しており、自らに代表権が戻れば問題はないとの考えを強調している。
これに対し、黒川氏は「5%取れない可能性が高いと思う」と分析し、「このような人に政治をやらせるべきではない」と批判している。だが、立花氏は「君がマイナスだから切っているのよ。取り付け騒ぎは起こしにいったんです。黒川君を辞めさせるために、わざと絵をかいてハメた」と語り、自らが描いた戦略であることも匂わせている。
NHKの割り増し請求制度下で追い風も…「立花劇場」はまだ終わらない
事の真相は定かではないが、全国紙政治部記者は冷静な見方を披露する。「現在の選挙制度においては、多くの立候補者を立てて2%以上の得票を狙いにいくという立花氏の戦略は有効です。国政政党の要件は公職選挙法で、国会議員が5人以上いるか、直近の衆院選か参院選で有効得票総数の2%以上を得るかのいずれかになっていますが、同党は選挙区で落選するものの、得票率2%以上を達成してきました。『5%』という目標に届くかは別にして、ガーシーのような注目度の高い候補者が出てくれば、今後も政党要件を満たしていくことはあり得ます」。
政治家女子48党になった同党のサイトを見ると、トップページには大津党首をはじめ女性陣の顔写真がズラリと並べられている。YouTube動画では「皆さん、日本の政治家ってどんなイメージがありますか?」と語りかけ「何だか難しくて、堅苦しいイメージもあり、実際に街中を見てみると、ポスターの写真もおじいちゃん議員ばかり」とチクリ。それぞれ個人LINEのアカウントも公開し「日本の政治に革命を!」と掲げている。
これは、2015年の千葉県船橋市議選での議席獲得から始まり、国政政党になるまで進化させた歴史と戦略を思い出させるものだ。4年前の統一地方選で所属議員を増やした同党は、同年夏の参院選での議席獲得につなげた。2022年の参院選は「ガーシー人気」に依存した部分が大きかったとはいえ「地方議員の増加→著名人候補の擁立」という流れに自信を持っているのは間違いない。
立花氏は今後の国政選挙に向けて、お笑い芸人の「江頭2:50」ら有名人に出馬を打診する意向を示しており、その視界には「2025年参院選」での議席増が入っているように映る。地方選を経て党の知名度が全国で上昇していけば、国政選挙での得票増につながり、立候補者の知名度次第で獲得議席を増やすことが可能との読みだ。
実際、2021年10月の衆院選結果を見ると、比例代表で議席を獲得できず得票率が2%を下回った社民党に、北海道、東海、近畿の各ブロックでは得票数が上回っている。80年近い歴史を持ち、かつては野党第1党だった政党が勢いを失う一方で、立花氏が率いる「第4極」が伸長してきた。2022年夏での参院選比例代表の得票率は2.4%で社民党に並んでいる。
4月からは正当な理由がなくNHKの受信料を支払わない未払い者に2倍の「割増金」を請求できる制度が導入され、「NHKをぶっ壊す」と受信料不払いやNHK改革を掲げてきた同党には “追い風” も吹く。繰り上げ当選を果たした齊藤参院議員の私設秘書には「ホリエモン」こと実業家の堀江貴文氏らが就いており、少数政党ながら党勢拡大に向けた前提は整えつつある。
ガーシー問題は依然として残るものの、たった一人からスタートして国政政党化させた「立花劇場」は、さらなる想定外を生んでいく可能性はあるだろう。今回の内紛は終わりの始まりなのか、それとも2年後の参院選を見据えたステップなのか。現行の選挙制度に基づいているとはいえ、ある自民党ベテラン議員からは「日本が溶けていくようだ」とのボヤキも聞こえてくる。