6位麻布十番、4位代官山、1位は…「サラリーマンの最後の楽園」4000万円で買えるマリンビュー”住みたい街ランク2020”

東大卒の不動産評論家・牧野知弘氏が語る住みたい街。今回は、専門家である同氏が実際に30年間住んできた、神奈川県江の島・鵠沼エリアの魅力を存分に語っていただいた。不動産専門家が「今だからこそ」と江の島・鵠沼をオススメする理由とは――。
会社ファーストから生活ファーストで家選びをする時代へ
今回ご紹介する街は、神奈川県藤沢市の江の島・鵠沼エリアです。「住んでみるとよい街」という連載で、いつも私が不動産のプロとしての立場から、いろいろな街を紹介してきていますが、今回は正真正銘、私自身がすでに30年近く住まいを構えているエリアという意味で、オススメの街です。
コロナ禍もようやく終息の気配を見せはじめています。家に引きこもっていた人々も積極的に外に出て、いまだマスクをはずさない人たちがいるものの、スポーツ観戦を楽しみ、キャリーバックを持って旅行に繰り出す人たちの数は日に日に増えています。テレワーク中心だったビジネスパーソンたちも、都心のオフィスに戻り始めました。
ただ、そのいっぽうで、コロナ禍をきっかけに通勤とテレワークを組み合わせたハイブリッド型の勤務体系を採用する企業も明らかに増え、私たち日本人が家選びする際に大事にする価値観も変化してきています。会社への通勤だけを主目的とした「会社ファースト」の家選びから、家で働く機会を想定し、住む街にこれまでになかったや快適さを求める「生活ファースト」の家選びへ、価値観のシフトが起きています。
住みたい街ランキングでも1位を獲得した片瀬江ノ島
そんな中注目されているのが、「SUUMO住みたい街ランキング2020関東版 住民に愛されている街」のランキング結果。実はここで第1位に輝いたのが、神奈川県の片瀬江ノ島です。横浜の馬車道(2位)や東京の代官山(4位)、麻布十番(6位)など、誰でもすぐに思いつきそうなブランド立地を抑えての堂々の第1位です。また片瀬江ノ島とほぼ同じ生活圏にある、鵠沼(8位)、鵠沼海岸(10位)、湘南海岸公園(26位)などの江の島・鵠沼エリア全体が上位に入ったことが注目されました。
このエリアは、明治時代ごろに別荘地として開発された土地です。また関東大震災後は、政治家や文豪たちが好んで邸宅を構え、1区画は700坪から2000坪程度もあったと言います。今でも街を歩くと、とんでもなく広い敷地のお屋敷に出くわすのですが、この時代の名残でしょう。
1960年代以降はベッドタウン化が進みましたが、首都圏によく見られる山野を切り開いたニュータウンではなく、大きなお屋敷が相続などで徐々に細分化され、そこに東京に通うサラリーマン世代が住みついたため、街の新陳代謝がほどよく進みました。
温暖で風光明媚な街。その理由とは?
このエリアは、穏やかな相模湾に面し、温暖で実に風光明媚なところです。鵠沼海岸に出ると真正面に海が広がり、左手に江の島、右手にエボシ岩、その先に富士山を望むことができます。空気が澄む冬には、相模湾の先に大島、利島を見晴るかすことができます。この街の特徴は「空が広い」そして「街が明るい」ということに尽きます。
湘南エリアが明るいのには理由があります。南に向かって海があるために、東から昇った太陽が西に沈むまで、一度も日陰にならず、一日中燦燦(さんさん)と陽光が降り注ぎます。同じサーフィンのメッカ、九十九里浜では海が東側に面しているので、日中を過ぎると日が陰りやすくなってしまいます。湘南がいつでも明るいのは、地理的な要因からなのです。
もう一つの要因は、片瀬江ノ島駅周辺を除いて、高い建物がないことです。一説によると、葉山の御用邸から天皇陛下が富士山を眺める際に、工場の煙突があったり、高層の建物があったりして、景観を阻害してはならない、との理由でこうした建築物が認められてこなかったとのことです。
マンションを購入するなら片瀬江ノ島。高層階のマリンビューは最高
陸地と橋でつながっている江の島エリアは、格好の散歩コースになります。橋のたもとにあるのが小田急線の片瀬江ノ島駅です。竜宮城を象(かたど)ったとされる駅舎は、2020年2月にリニューアル工事が完成し、観光客に大人気です。このエリアの中では、片瀬江ノ島駅周辺だけが容積率が高いため、マンション群が形成されています。中古マンションを選ぶなら、駅周辺がよいでしょう。高層階になれば江の島、相模湾の眺望は抜群です。
価格も築年の浅い物件ならば、坪当たり270万円程度。20坪程度であれば5500万円が相場です。築年の古いもの(20年程度)でよければ坪当たり200万円程度。つまり4000万円から6000万円程度で、毎日、海が目の前の生活が手に入ります。
1億円から1億数千万円もの湾岸タワマンを、返済期間がほぼ一生かかるようなローンで買っても、部屋から見える海はどんより薄汚れて、海と戯れることさえできない、ただの借景です。ところが片瀬西浜は、昔と異なり水質も改善され、サーフィンには最適。夏の海水浴も目の前で楽しめます。浜で揚がるシラスはゴールデンウィークから11月くらいまで、街の定食屋で生のものを食べることができますし、普通に街中のお店で買うこともできます。もともと観光地なので、レストランや居酒屋には事欠きません。大手チェーン店は少なく、地場のお店が多いのも魅力です。
海辺でリモートワークする戸建て住宅なら鵠沼。中古物件なら5000万円台から
戸建て住宅を求めるのならば、鵠沼エリアです。ひとくちに鵠沼といっても、エリアは広範囲にわたります。鵠沼海岸駅から東側に広がるのが、地元では「松・藤・桜」と呼ばれるブランド住宅街です。地名は松が岡、藤ケ谷、桜が岡を指しますが、いずれもかつての別荘地であるために、現代では相続による分割が広がっているものの、区画の広い住宅が多く、また街のシンボルである松がいたるところに残され、街に落ち着きを与えています。このエリアは富裕層が多く、ここで育った子供たちが、東京には定住せずに街に戻り、親とは別の鵠沼海岸エリアに住むのが定番となっています。若い人ほど活動的なので海岸近辺に住みます。海に近いのでサーフィンやヨット、釣りを楽しむことができるからです。
さて、このエリアを満喫するのならば、やっぱり戸建て住宅でしょう。中古戸建て住宅を選ぶ際には、相続等が発生して敷地が分割された住宅が、価格的には狙い目となります。敷地40坪程度、建物30坪程度の3LDKであれば、築10年未満程度の比較的新しい物件でも5000万円台前半が相場です。子供が1人ないし2人程度ならば、この広さで十分でしょう。夫婦の仕事スペースも確保できるし、独自にWi-Fiを飛ばして仕事にも専念できます。なんといっても気晴らしをするところには事欠きません。海辺にパソコンを持って出て、海を見ながらリモートワークするなどという、夢のような生活が可能となるのです。
地元愛が強い人も多く、津波の危険度もそこまで高くない
このエリアはもともと別荘地であること、海に面して温暖であることが相まって、住む人たちの人柄も屈託がなく明るいです。教育環境も整っていますし、地元愛の強い人が多いせいか、子供たちも地元同士でつきあいを続け、結婚するカップルも多いと聞きます。
都心居住が強まったここ四半世紀、「会社ファースト」の家選びでは選択されることが少なくなっていましたが、都心まで通勤するにもおおむね1時間から1時間半程度。毎日となると苦痛でも、リモートワーク時代には、いざという時にも都心にアクセスできるのは大いなる強みといえましょう。
湘南といえば茅ケ崎を思い浮かべる人が多いようです。加山雄三やサザンオールスターズの面影が強いせいかもしれません。でも茅ケ崎の海寄りに住むには、茅ヶ崎駅からはバス便となります。鵠沼から片瀬江ノ島エリアは藤沢駅から小田急、江ノ電の2つの路線が、私たちを海際まで連れていってくれます。市の財政状況を見ても、北部の境川、引地川沿いに、多くの有力企業、工場が立地し、財政が豊かな藤沢市に比べ、住宅地がほとんどの茅ケ崎市は自治体サービスでも不満だという住民の声は多く聞きます。
ポスト・コロナに住む街は、やはり江の島、鵠沼エリアで決まりと言ってよいでしょう。唯一の不安点は、地震です。関東大震災の時には、このエリアも津波の被害を受けた記録が残っていますが、このエリアでは膝丈程度のものだったという記録が残されています。ハザードマップによれば、津波で危険度が高いのは、むしろ江の島の東側、鎌倉寄りです。こればかりは発生してみないとわかりませんが、それらを差し引いても、このエリアに住む価値は高いといえます。ぜひ海辺の散歩がてら、このエリアの住宅探しをやってみてはいかがでしょうか。じつにオススメの街ですよ。