「辞めたあと働けるやつはマシ」客はみな病んでいる…有能サイコパス・鬼ホストに待ち受ける引退後の悲惨な人生

ホストクラブに通うために自分の体を売る女性が後を絶たないが、そのホストクラブで働くホストたちは幸せなのだろうか。エッセイトのトイアンナ氏がホストの闇を書く――。
新宿歌舞伎町に集中するホストクラブ
新宿、歌舞伎町。そこはホストクラブの聖地だ。1971年に愛田武が開店した「クラブ愛」の影響を受け、現在に至るまでホストクラブの多くは歌舞伎町に集中する。現在、ホストクラブの市場規模は数千億円規模にのぼり、ソープランドに続くと推定されている。
そして、ホストクラブは歴史的に「カリスマ」とも言える存在を輩出してきた。メディアに出ない不文律を破り、有名ホストになった零士は、その後マスメディアに次々と登場する。裏社会とのつながりが深かったホストクラブの健全化が進んだこともあり、それから不定期に有名ホストが誕生した。現在のトップヒッター(ママ)はROLANDだろう。
「健全化が進んだ」とはいえ、ホストクラブのイメージは明るくない。そこには多数の女性が足を運び、数百万、ときに1000万円以上のお金を貢ぐ。女性客は支払いのため、風俗業を選ぶケースも多い。現在、売春婦たちが歌舞伎町に立つ主因とも言えるのが、ホストたちだ。
では、ホストは悪人なのか?というと、それもまた難しい。というのも、ホストたちが向き合わされる現実もまた、厳しいものだからである。
ホストで一攫千金の夢と現実
新宿を歩いていると、派手な音楽とともにデコレーションされたトラックが走り抜けていく。壁面にはホストの顔写真と「月間売上◯千万円突破」と、稼いだ金額がデカデカと掲示される。一般的に水商売では売上の半分が手取りになるから、このホストの月収は、最低でも500万円というわけだ。
年収「億」も夢ではないというわけで、ホストクラブには多数の応募者が集う。だが、実際に稼げるのはごくわずか。ホストの平均年収は522万円にすぎない。毎日大量のお酒を飲んで肝臓を痛めつつ、時間外も客と同伴でご飯を食べたり、マメにLINEでやりとりをしなければならない業務にしては、薄給といえる。また、ホストの引退年齢は20代後半と早く、デビューしてわずか数年で稼ぎきれなければ、貯蓄もままならない。だからこそ年収が億単位になったトッププレイヤーは、店舗経営に乗り出す。自分が稼げなくなっても、食べていく道を模索するからだ。
客が逃げれば「自腹」になるホストの売上
この記事を書くに先駆けて、あるホストに1日の労働時間を割り出してもらった。お店で働いている時間は当然として、業務時間には客とのLINEや店外デートも含めてもらった。そこで明らかになったのは、1日12〜17時間労働を週7日で続けている実態だ。こんなものは、並の人間がこなせる業務量ではない。実際、そのホストも、この記事を執筆する前にホストクラブを辞めてしまった。年収は、一攫千金(いっかくせんきん)に遠く及ばなかったという。
売り上げは歩合制だから、客とのやりとりは義務ではない。だが、ホストは客とのコミュニケーションをさぼれない。なぜなら、売り上げの多くが顧客の「カケ」で成り立っているからだ。カケとは、ツケ払いのことである。ホストは頻繁に、客へツケ払いをさせる。ツケ払いとなった売り上げは、ホストが回収義務を負っている。ホストの売上が1000万円でも、客が飛ぶ(支払いをせずに逃げおおせる)と、店へその分を支払わねばならない。こうして自爆営業をしたホストは、手取りが額面より減ってしまう。
客に飛ばれないためにも、ホストはまめに愛をささやく。だが、ホストクラブの常連になる女性は病んでいる人が多い。たとえ来店時は健康でも、ホストのために風俗で働くほど入れ込むことになるのだから、病むのは当然だ。だからこそ「飛ぶ」確率は高くなる。ホストの収支計算は、いつも自転車操業だ。
「ホストは有能なサイコパスの居場所」
さらに、これは全ての水商売に言えることだが、ホストクラブでの職歴は履歴書に書けるものにはならない。仮に20歳から27歳までまるごとホストクラブでの労働に捧げたとすれば、その期間は無職と一緒になってしまう。そうなると、引退後に一般社会で就職することすら難しい。
取材によるとホストクラブ経験者は、退職後、自分でバーを経営するなど、自営業を選ぶケースが多いという。背景には、接客が好きだからホストを選んだ事実もあるだろうが、勤め人になる難しさもあるだろう。
「辞めた後、働けるようなやつはまだマシですよ」
と、取材したホスト経験者は語った。
「ホスクラ(ホストクラブ)に応募してくるやつは、まともに働けなかったやつも多いですよ。やばいやつだと店名の英語間違えるとか、おつかい頼まれたのに途中で忘れて、預かった金で酒買ってきちゃうとか。
でも、ホストって売れたかったら、姫の名前でしょ、好きなお酒でしょ、出会って100日目の記念日に、姫が風俗で稼いでる額まで管理しなきゃならないんですよ。そんなのバカじゃ無理っすよ。俺、途中でわけわかんなくなっちゃいましたもん」
水商売は良くも悪くも、会社員としてやっていくのが難しい人のセーフティーネットとなる職場だと思われがちだ。だが、稼ぐホストは下手な会社員よりずっと有能である。さらに言えば、顧客の予算以上に酒を注文させ、ツケ払いにして依存させねばならない。トッププレーヤーになると、顧客の家計簿までアプリで管理し、貢がせる額を決めているという。
「ホストでやってけるのは、ぶっちぎりに有能で、かつサイコパスじゃないと無理じゃないっすかね。姫はみんな病んでるし、そこに同情したら自分が病むんで」
加害者であり、被害者である
以前、みんかぶマガジンで歌舞伎町に並ぶ立ちんぼの問題を扱った。ツケ払いを返済するため、ホストクラブの顧客は歌舞伎町で売春を試みる。ホストクラブの金額は男性向け水商売より割高で、しかも多額のツケ払いが常態化している。こういった面では間違いなく、ホストは加害者である。
だが、ホスト自身の人生を追っていくと、親がアルコール依存症だったり、虐待の加害者だったりと、まっとうな教育を受ける機会を奪われているケースが多い。勤め人になる切符を最初から奪われて、ホストクラブの門を叩く。その上で待ち受けているのが、激務とツケの回収業務、履歴書に書けない職歴となれば、彼らもまた「被害者」的な側面を持っているといえるかもしれない。
昨今、破滅するリスクがある人生を選ぶことを「自己責任」とバッシングする風潮がはびこっている。しかし、TikTokやYouTubeでキラキラした世界を見せられ、そのリスクについては語られることが少ない水商売の世界を目指す人に、警鐘を鳴らす存在は少ない。
通常は、保護者が止めるべきところかもしれないが、前述のとおり、荒れた家庭環境に育った人間こそ、人生の一発逆転を狙ってホストクラブへ応募しやすい。そしてホストが増えれば増えるほど、無謀な金額を注ぎ込む女性は増え、売春によって社会の健全性が損なわれる。
このサイクルを止めるためには、根本的な課題である(1)ホストにならなければ人生を逆転できない、と思わせる生育環境を支援し、(2)ホストクラブのツケ払い規制による、ホストの負担減を考えるべきではないだろうか。
このままホストクラブ業界が成長しつづければ、近々1兆円市場になると思われる。国のGDPは300兆円。国民のお金の300分の1が、不幸を作るサイクルに巻き取られてしまってもいいのか、再考するタイミングが来ている。
参考文献:
石井光太『夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年』KADOKAWA