「3泊5日・67万円」で大炎上!港区立中学校「シンガポール修学旅行」…子供7人に1人が”貧困状態”の日本が掲げる教育の機会平等・格差是正のお笑い

タワマンが林立し、ハイスペックな人物も多い東京都港区。少し前にはセレブな男性たちとパーティーを楽しむ「港区女子」なる言葉も流行ったが、その華やかなイメージは子供たちにも向けられる。
港区は区立中学3年生の修学旅行先を海外にすると発表し、国内実施時との差額分は区が負担してくれるというのだ。
経済アナリストの佐藤健太氏は「かつては都内の公立小学校が高級ブランド監修の標準服を採用して話題を集めたが、『港区チルドレン』の海外訪問にも賛否の声が上がっている。他地域で暮らす子供たちとの新たな格差を感じさせることになりそうだ」と指摘する。
全ての区立中で海外修学旅行を実施し、国際人を育成するという
「港区は国際性豊かな地域で、およそ人口の7%、2万人近い外国籍の方が暮らしている。国籍も約130に及ぶ。港区は従前から国際人育成に力を入れてきた。これまでの取り組みの集大成として全ての区立中学校で海外修学旅行を実施する」。港区の武井雅昭区長は9月1日の記者会見で、来年度にシンガポールで修学旅行を行うことを明らかにした。
国際人育成に注力する港区は、2007年度から希望する区立小中学校の児童・生徒80人が夏休み期間中、豪州でのホームステイや現地校体験入学を通じて国際理解を深める海外派遣を実施。区立小は週2時間の「国際科」、区立中では週1時間の「英語科国際」の授業を設け、英語でのコミュニケーション能力育成を進めてきた。
修学旅行先に海外を選択する理由について、武井区長は「海外の方と現地で対話する経験を味わい、言語の重要性に対して認識を深める。異文化を直接体験し、国際理解を深めることで国際人を育成する」と強調する。2024年度は全10の区立中学校3年生の生徒(特別支援学級を含む)の約760人が3泊5日の日程でシンガポールを訪問する予定という。シンガポールとしたことについては、時差が小さく治安が安定していることなどを理由としている。
ネットでは「格差社会がひどい」との批判も
港区は、これまで奈良県や京都府を訪問していた修学旅行の費用と同等を各家庭に求める一方で、超過分は区が負担するという。東京新聞によると、区の事業費は約5億1200万円で、単純計算で区負担は1人当たり約67万円も税金から賄われる計算になる。語学教育を充実させ、異文化体験を通じた国際人育成を図ることは重要だ。港区にとっては、区立進学の魅力向上にも繋がるだろう。
ただ、こうした港区の取り組みにはネット上で「格差社会がひどい」といった意見が噴出し、港区議会でも「1人当たり約67万円の事業総予算は高すぎるのではないか」との声もあがる。
気になるのは、生まれた環境によって生じる「教育格差」だ。高齢者への新型コロナワクチン集団接種の際、会場への移動が困難な人にタクシー利用券を配布した港区のように財政に余裕がある地域は良いが、自治体によって旅行先に差が生じる「地域格差」も懸念される。私立校や他自治体でも海外での修学旅行を実施するところも少なくないが、いまだ多いのは国内だ。
公益財団法人「日本修学旅行協会」によれば、新型コロナ感染拡大前の2019年度の行き先トップは「京都」(22.7%)で、「奈良」(19.8%)、「東京」(11.9%)、「大阪」(9.1%)、「千葉」(7.4%)と続く。海外で修学旅行を実施することの効果が大きいのであれば、育った場所で子供たちに「格差」が生じることになる。
7人に1人が貧困状態の日本で、修学旅行全員参加はどうなのか
親の所得による教育格差は今に始まったことではないが、厚生労働省が2019年に発表した国民生活基礎調査によれば、「子供の貧困率」は2018年時点で13.5%に上っている。7人に1人が貧困状態にある中で、最も重い私費負担とされる修学旅行は以前から課題となってきた。
厚生労働省が8月に公表した「所得再分配調査」(2021年)を見ると、世帯の所得格差が拡大していることがわかる。格差が大きいほど1に近くなる「ジニ係数」は当初所得(税、社会保障による再分配の前段階)が0.5700で、過去最高だった2014年の0.5704に次ぐレベルだ。
多くの学校は積み立て方式で費用を徴収しているものの、修学旅行の費用負担は決して小さくはない。国内であれば不要だったスーツケースやパスポート取得の費用なども海外の場合は増えることになる。それを上回るメリットが子供時代に得られるのであれば良いだろうが、日本の修学旅行は海外で見られる「募集型」ではなく、原則全員参加だ。親の所得格差、地域格差を子供たちに極力感じさせないことが求められることになるだろう。
銀座近くの小学校ではアルマーニの標準服が採用され話題になったことも
修学旅行は学習指導要領における特別活動の学校行事に位置づけられている。1886年に東京師範学校の「長途遠足」で千葉県に11泊12日で向かったのが始まりとされ、その後拡大してきた。今日では修学旅行先に海外を選ぶ学校も珍しくはないが、港区が対象とするのは「区立中」のみだ。裕福な人が多いことで知られる港区だが、同じ区民が納めた税金の使途が一部の対象に限定されていることには公平性の観点から疑問の声も上がる。
今から5年前の2018年、東京・中央区の銀座駅に近い区立泰明小で高級ブランド「アルマーニ」が監修した標準服の着用が始まり、話題を呼んだことがある。一式4万円を超えるとされ、義務ではないものの夏服と冬服をそろえれば8万円程度というものだ。
子供の身体が大きくなれば、買い替えの必要性も生じるため保護者の負担は小さくない。スタート当時には苦情が区に相次いだものの、現在は批判的な声は寄せられなくなったという。港区のケースとの違いは、入学希望者が自ら選択している点だろう。
教育の機会平等・格差是正に新岸田内閣はどう向き合うか
日本の相対的貧困率は15%超と高い。10月からは最低賃金が改定され、全国加重平均は1004円になる。引き上げ率は4.5%、引き上げ額は43円で過去最高だ。ただ、これを地域別に見れば「地域格差」が大きいことがわかる。
最も高い「東京都」は1113円で、全国加重平均の1004円を超えるのは「神奈川県」1112円、「大阪府」1064円、「埼玉県」1028円、「愛知県」1027円、「千葉県」1026円、「京都府」1008円の7都府県にとどまる。最も低い「岩手県」は893円で、896円は「沖縄県」と「徳島県」、897円は「秋田県」「高知県」「宮崎県」「鹿児島県」「愛媛県」。「青森県」「長崎県」「熊本県」は898円で、「大分県」(899円)を含めて12県は900円に届いていない。
非正規雇用の割合が4割近くを占める中、将来を担う子供たちの周りに存在する「格差」をいかに小さくしていくのか。それは教育機会の平等とともに、国が最も重点を置くべきテーマと言える。小泉純一郎政権からの新自由主義的政策が「持てる者と持たざる者の格差と分断を生んだ」と主張する岸田文雄首相は、9月13日に発足させた第2次岸田再改造内閣でこうした課題にどのような向き合い方をするのかも注目されることになりそうだ。