あまりに節操がなさすぎる…岸田首相が「消費税増税」のために実行する「信じられない手段」に国民は絶望する
党内から批判が噴出する岸田政権の末路
年頭に「異次元の少子化対策」に挑戦すると宣言したものの、その具体策や財源を示さない岸田文雄首相。まさに「言うは易く行うは難し」といったところだが、分配政策に重きを置く首相の甘言に警戒しなければならないのは言うまでもない。抜本的な防衛力強化を掲げたかと思えば、法人税や所得税などの増税プランを決め、ジワリと国民負担を上昇させる手も次々にひねり出してきたからだ。少子化対策という総論で賛意を得つつ、具体的使途や財源を先送りするのは防衛費大幅増の時と酷似しているとの見方が広がる。では、岸田政権はどのようなプロセスを描いているのだろうか。
各種世論調査で内閣支持率が低空飛行を続け、一部メディアでは政権維持の「危険水域」とされる3割を割り込む岸田首相。1月4日に三重県伊勢市で開いた記者会見で「異次元の少子化対策」への決意を示し、同23日の施政方針演説では「急速に進展する少子化により、昨年の出生数は80万人を割り込むと見込まれ、我が国は社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」として、従来とは次元の異なる少子化対策を実現していく考えを強調した。
もちろん、国力に直結する人口減という難題に取り組む姿勢に、反対する人は少ないだろう。だが、目指すべき総論は良いとしても「各論」を語らない岸田政権の問題点が再び浮かび上がる。昨年末に決定した防衛費大幅増をめぐっては、安倍晋三元首相が推し進めたGDP(国内総生産)比2%への増額に関して、具体的な使途を語らないまま自民党税制調査会に財源の手当てを “丸投げ”。師走に慌ただしく法人税や所得税、たばこ税の増税方針を決めた。こうした姿勢には自民党内からも「もう少し国民がわかる説明が必要だ」(菅義偉前首相)との声があがる。
潜在的な国民負担率は56.9%なのに…
岸田首相にとって少子化対策は「防衛費倍増」「金融(資産所得倍増)」と並ぶ最重要政策の1つで、「倍増」にこだわりを見せる3分野に位置づけられている。2021年9月の自民党総裁選では、子ども関連予算がOECD(経済協力開発機構)で最低水準にあるとして「倍増していかなければならない」と宣言し、内閣発足後も「最も有効な未来への投資」として、将来的に倍増させる意向を繰り返してきた。
ただ、問題は防衛費大幅増の際と同様に、具体的な使途と財源にある。首相が「異次元」とまで表現した少子化対策の中身は、6月の経済財政運営の指針「骨太の方針」策定までに大枠が提示されるという。つまり、児童手当などの経済支援や子育てサービスをどのように拡充するのかを論じないまま「倍増」だけを先行させている。昨年末の防衛費議論と酷似しているのが、おわかりいただけるだろう。
ちなみに、4月に発足する「こども家庭庁」の2023年度予算案は約4兆8000億円であり、「倍増」とするためには新たに5兆円程度の増額が必要だ。政府は社会保険料の引き上げ分を財源に充てることも視野に入れるが、すでに租税負担率と社会保障負担率を加えた2022年度の国民負担率は46.5%(見通し)に達し、これに財政赤字を加えた潜在的な国民負担率は56.9%となる見通しだ。物価上昇によって国民の悲鳴が上がる中、これ以上の負担増を強いれば猛批判は避けられない。
社会保障と少子化対策を謳い文句ににして消費増税
では、岸田首相はどのように子ども関連予算の「倍増」を実現させるつもりなのか。まず、財源として浮上するのは「消費税」の増税だ。低迷する出生数を反転させるための少子化対策であることを踏まえれば、その財源は一時的に捻出できるものではなく、安定財源である必要がある。だが防衛費大幅増に伴い、法人税や所得税の増税方針をすでに決めており、安定的な基幹3税で残るのは消費税だけになる。
首相に近い自民党の甘利明前幹事長は1月5日のBSテレ東の番組で「子育ては全国民に関わり、幅広く支えていく体制をとらなければならない。将来の消費税も含めて少し地に足をつけた議論をしなければならない」と述べ、将来的に消費税増税も検討対象になるとの認識を示した。ただ、松野博一官房長官は同6日の記者会見で「(消費税は)社会保障の財源として今後も重要な役割を果たすべきものだが、当面触れることは考えていない」と火消しに走り、甘利氏もその後はツイッターや地元・神奈川新聞のインタビューにおいて、消費税率を引き上げて少子化対策に回すとは言っていないとして「ミスリード」が生じたとする。
とはいえ、首相は2022年1月に国会で「安定財源の確保について幅広く検討を行い、子ども予算の倍増を目指す」と宣言している。先にも触れたが「安定財源」とするならば、社会保険料を引き上げて拠出するにしても、消費税増税によって財源に充てるにしても、国民負担が増大して批判にさらされるのは避けられない。
そこで浮上するのが、社会保障の拡充と少子化対策の財源をセットにした消費税率の引き上げだ。2012年に民主党政権が(野党だった)自民党や公明党と結んだ、社会保障・税一体改革の「3党合意」で、消費税率は5%から10%に段階的に引き上げられることが決まった。増税は、医療や介護など、社会保障拡充の財源確保と借金返済を目的とし、安倍晋三政権時代に2段階で税率が10%へと引き上げられている。
防衛費は5年間かけて「倍増」するスケジュール
つまり、岸田政権の消費増税のウラには、国民に負担増を強いるとしても「社会保障が拡充されます」「消費税は上がるものの、未来の子供たちのために使いますよ」と説明することができれば、増税への抵抗感が和らぐはずだとの “財務省的な発想” がある。仮に社会保険制度から拠出して財源に充てれば、その分の不足が将来生じる。しかし、消費税率を引き上げることができれば補うことができる、との読みも働く。
イメージしやすいのは、やはり昨年末の防衛費大幅増に伴う首相の説明だ。岸田氏は2027年度に防衛費がGDP比2%に達する予算措置を講じるよう指示し、必要となる追加財源として4分の3は歳出改革などで賄い、残る4分の1は増税で確保するとした。これを子ども関連予算の「倍増」に当てはめれば、必要となる5兆円程度を歳出改革や他の拠出でやりくりしても賄えない分は、消費税増税で確保するという流れになる。一部には「子ども国債」を発行して財源に充てるとの案もあるが、防衛費の財源として国債は「未来の世代に対する責任としてとり得ない」とまで主張した岸田首相が、採用するとは考えにくいだろう。
ある政府関係者は「防衛費は5年間かけて『倍増』するスケジュールだ。子ども関連予算の財源も同じように5年間で確保すればよい。消費税を増税する場合でも段階的に引き上げれば十分だ」と説明する。要するに、防衛費大幅増に伴う増税の開始時期が2024年以降に先送りされたまま「金額」だけが決まったように、詳細を決めずに、今夏は子ども関連予算の「倍増」スケジュールだけを決定する可能性があるということだ。あとは、今年末の自民党税調に再び “丸投げ” することになりかねない。
自民党への批判を和らげるのために狙う「4党合意」
自民党閣僚経験者の1人は「もし消費税を増税するならば、国民民主党や日本維新の会を含めた『4党合意』を結び、幅広い合意形成を図る必要があるだろう。そうすれば総選挙で与党だけが批判される展開にはならない」と算盤(そろばん)をはじく。民主党政権時代の社会保障・税一体改革に伴う「3党合意」後の衆院選で、自民党が躍進した経験を踏まえた計算だ。
岸田首相は昨年12月27日のBS‐TBS番組で、防衛増税前に衆院解散・総選挙に踏み切るとの見通しを示し、今年1月22日放送のBSテレ東番組でも2024年9月に迎える自民党総裁としての任期満了前に「伝家の宝刀」を抜く可能性を示唆した。一連の首相発言を追えば、国民に不評の防衛増税を争点とした解散カードはリスクが高く、子ども関連予算の「倍増」に伴う増税プランと合わせて国民の信を問う方が良いとの思惑が透けて見える。
解散時期としては、年末の与党税制改正大綱の決定に合わせて「4党合意」を結び、今年末や来年初めの可能性があるだろう。具体的な増税開始時期は、防衛費大幅増に伴う方針と同様に先送りするとみられる。
ただ、首相と距離を置く菅前首相は「少子化対策で消費税増税の議論をするのはあり得ない」と批判しており、自民党内にも「消費税に手をつければ各種選挙で大逆風にさらされる」との危機感は根強い。防衛費分の増税方針についても党内には異論が強く残っており、今秋から年末にかけては大激論が予想される。
数々の「倍増」を掲げる岸田首相は、消費税増税に伴う使途変更で国民の信を問い勝利した、安倍元首相と同じ道を歩むことができるのか。それとも「看板倒れ」に終わり、退任に向かうことになるのか。今年5月の広島サミット後に正念場を迎えることになりそうだ。