安倍後の日本…アベノミクスという”劇薬”に依存してしまった日本の危険すぎる現状
急激な円安が進む日本。円安を防ぐためには利上げが有効だが、経営コンサルタントの小宮一慶さんは、「いまの日本は金利を上げたくても上げられない状況にある」と指摘する。その背景には、安倍晋三元総理が唱えたアベノミクスの影響があるという――。
当分の間、円高に振れることはない
円安はしばらく続くと見た方がいいでしょう。アメリカでは消費者物価指数が6月にも前年比で9.1%上昇し、インフレが加速する懸念から政策金利が上昇を続けています。6月には1994年以来の大幅な利上げとなる0.75%の利上げが決定。年内にあと数%上がることも示唆されています。
一方、日本では日本銀行が防衛線である0.25%を死守しようとしています。そして、せいぜい上がってもあと0.25%でしょう。国際通貨基金(IMF)の高官は、「日本の円安はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)によるもので、日銀の緩和政策を継続すべき」と述べており、為替介入も考えづらい。
今後、短期的にドル円レートが上下動することはあったとしても、円高基調に振れることは当面ないでしょうね。
日本が金利を上げられない原因。これは日銀のバランスシート(賃借対照表)を見るとよく分かります。日銀の資産合計を見ると、2022年3月末で736兆円ほど。これは名目GDPの1.3倍以上に上ります。
米国の中央銀行(FRB=連邦準備理事会)は、名目GDPの0.4倍程度の資産しか保有していません。ここからも日銀の資産規模の大きさが伺えます。
マネタリーベースは5倍に!それでもまだ大規模緩和は縮小できない
そして、日銀の資産の多くを占めるのが国債です。3月末で520兆円を突破しました。日銀がここまで多額の国債を保有している原因は、安倍元総理が唱えたアベノミクスにあります。
2013年、日銀の黒田東彦総裁は物価が2%上昇するまで市場への資金供給と、超低金利を継続するという異次元緩和により、「マネタリーベースを2年間で倍にする」と発表しました。マネタリーベースとは、日銀が直接コントロールできるお金のことで、具体的には、銀行券(紙幣)と流通貨幣(コイン)、それに民間の金融機関が日銀に保有する当座預金である日銀当座預金の合計を指します。
とはいえ、マネタリーべースを増やすために紙幣を大量に刷るわけにはいきません。そんなことをすればハイパーインフレが起こってしまいかねませんからね。一方、日銀の場合、たとえ2兆円の国債を買ったとしても、何も現金で支払う必要はないわけです。国債を買った先が保有する日銀当座預金に「2兆円を振り込んだ」と記帳さえしておけばいい。日銀は、そうして民間の金融機関が保有している国債を買い漁ることで日銀当座預金を増やし、マネタリーベースを増やし続けてきました。
結果、マネタリーベースはどうなったのか。アベノミクス開始時には135兆円ほどだった残高は、現在660兆円を超えるまでに膨れ上がっています。それでもまだ、物価目標には届いていません。正確に言えば、今年に入り表面的にはようやく達成したものの、これはエネルギー価格の高騰や急激な円安によるもので、需要が伸びてインフレが起こる「良いインフレ」ではない状態です。大規模緩和の縮小にはまだまだ至らないでしょう。