ロシア国防相「核の使用を検討…」プーチンの「全部ウクライナの自作自演だ!」作戦

 ウクライナ侵攻が長期戦の様相を呈する中、ロシアによる核兵器の使用がささやかれている。自衛隊の元将官らは、異口同音に「ロシアの核使用は元々想定内」と懸念を示す。プーチンのたくらみと、いま世界で必要な駆け引きとは――。全4回中の3回目。

※本稿は小川清史(元陸将)、伊藤俊幸(元海将)、小野田治(元空将)、桜林美佐著『陸・海・空 軍人によるウクライナ侵攻分析 日本の未来のために必要なこと』(ワニブックス)から抜粋・編集したものです。   

第1回:伝統的に防御が下手なロシア「将官が死にまくるのは必然」…プーチンが企てた「難しすぎる」作戦
第2回:ウクライナ侵攻、プーチンが睨む2つの落とし所…「ロシア軍の大量の犠牲」より大切なもの
第4回:ロシア軍が北海道にやってくる…独裁者プーチンは辞められない、止まらない。国際法など関係ない

プーチンの頭の中

 桜林:「プーチンは精神的に追い詰められた時に核を使用するじゃないか?」とも言われています。欧米もその点に関してはかなり戦々恐々たる構えなのでしょうか。 

 小川(陸):まあドクトリン(基本原則)的には、戦術核を自分の国が危ういと感じた時には使うというふうにもともと想定されていましたから。彼は2014年のクリミア併合の際にも「核兵器の使用を検討した」と発言していましたし、セルゲイ・ショイグ国防相もその事実があったことを明らかにしています。だから今回も言っていますよね。 

 小野田(空):だからこそNATOの方は、たとえばウクライナが望んでいたノーフライゾーン(飛行禁止区域)の設定に対しては否定したり、MiG−29の供与も否定したりと、非常に抑制的ですよね。やっぱりこれって、核が恐いんですよ。ようするに、今のプーチンはある意味ロジカルじゃなく、核使用をやりかねないから。 

 桜林:プーチンの頭の中はわからないということですよね。 

 伊藤(海):そうそう。今までのプーチンだったらきっと損得でちゃんと考えて、損することはやらないという計算が働いていたけど、今はこんな大損しているわけでしょう? 大損してでもウクライナ侵攻をやっちゃうプーチンだと「本当に核を使うんじゃないの?」と思ってしまいますよね。 

 それに、まさに先ほどおっしゃったようにドクトリンがあるから、いわゆるエスカレーション抑止(威力を抑えた核を限定的に使用して敵国を威嚇し、戦闘継続のデメリットを敵国に認識させること)として核を使うとなると、絶対に使えるわけですよ。それはまずいということで、みんな駆け引きをしているんです。 

核も化学兵器も「ウクライナの自演」にされる

 桜林:では、化学兵器についてはいかがでしょう? 

 小川(陸):「目的あっての手段」ですから、化学兵器を理由もなしに使用すれば単なる〝人殺し〟です。キエフ侵攻に加えて、化学兵器の使用でも国際法違反をしてしまうと、ロシアは立ち上がれないところまで国際社会での孤立を深めてしまう可能性がある。 

 また、純粋に軍事的に考えても、今の時点で化学兵器を使う必要があるかは大いに疑問です。わざわざ“人殺し”をしに行く必要があるのか。もし仮に使ったとしたら、プーチン大統領の判断力を疑います。他国によって大統領職から排除されても仕方がないことです。 

 仮に使うとしたら、ドネツクやルガンスクをしっかりと固めるために、部分的・一時的に毒ガスを使うという可能性は無きにしもあらずです。でもロシアもこれだけ犠牲を払って地線を取ってきている中で、わざわざ2つ目の罪を本当に重ねるのか。この場合、絶対にプーチン大統領の許可なしには使えないと私は思いますから、使ったとしたら西側がプーチン大統領という人間を判断する一つの材料になると思います。 

 桜林:これだけ罪を犯したからもういいや、1つや2つも一緒だ、みたいな。 

 小川(陸):もしプーチン大統領がそう考えたとすれば、一国をリードする政治家としてはもう〝落第〟になると思います。一主権国家は皆平等なはずですから、ロシア国民を全部ダメにしてしまって、民族の生き残りを塞ぐような人間であれば、指導者失格だと思いますので、他の国が元首交代をさせてもいいような状態だと私は思いますけどね。ただし、今のところ私はプーチン大統領がそのような判断をするようには思えませんが。 

 桜林:そういう意味では、別に明言されたわけじゃないんですけれど、事実上の「レッドライン」になるということですね。 

 小川(陸):そう思います。 

 小野田(空):ただ、ロシアはすでにシリアで化学兵器を使ったと言われていますよね。けれども結局うやむやになっている。私はプーチン大統領が化学兵器を使う可能性は十分にあると思います。その証拠に「どうやらウクライナが化学兵器を使いそうだ」というシナリオを流布している。 

 ようするに、自分たちが使用したにもかかわらず、「やったのは俺たちじゃない。ウクライナの連中だ」という話にするわけです。シリアの時も全く同じストーリーを使っています。 

 したがって、そこはやはり十分気をつけなきゃいけないし、具体的な対策をしていかなければならないと思います。化学兵器の難しいところはなかなか採証ができないことです。本当にロシアがやったのかどうかというのがきちんと証明できるのか。そこはやっぱり筋が悪いですよね、証拠さえなければ、という世界ですから。 

 小川(陸):確かに。使ったとしても「自分たちじゃない」と言い張ることはできる。 

 小野田(空):プーチン大統領からすれば、「2月から言っていたじゃないか」という話にするのでしょう。核についても同様で、「ウクライナは核開発をしているらしい」と。 

 桜林:噂を流していますね。 

 小川(陸):ウクライナで核が使われても、「あいつらの自作自演だ」ということにする。自分で使っておきながら。 

日本からの武器提供が難しいワケ

 桜林:ところで、各国がウクライナに対空・対戦車の兵器を供与している中、日本はそうしたものを渡せないので、防弾チョッキとヘルメットを提供しましたよね。それでも日本としてはかなり画期的なことじゃないかと私は思いましたけれども、過去に装備部長もやられていた小川さんはどうご覧になりましたか? 

 小川(陸):画期的だと思います。以前、南スーダンから自衛隊を撤退させるかどうかが議論されていた時、国会では、現地が戦闘地域か非戦闘地域か、現地をどう解釈するかという議論をやっていましたよね(自衛隊は2012年1月にPKOでスーダンに派遣され、2017年5月に撤退)。そこには国家意思がありません。まず南スーダンを助けるのか否かを国家意思として決めないといけない。 

 そして、助けるのであれば何をすべきか――新しい法律を作るのか、今の法律を変えるのかを議論すべきなのに、当時の国会では現状の法律に合っているか否かの話に終始していました。

 それに比べると、今回のウクライナ支援は、まず「ウクライナを助けたい」という国家意思があって、どこまでのことをするのか、新しい法律をすぐに作らないでもできることは何か、という発想で防弾チョッキとヘルメットを提供しています。国家意思からスタートしているという点では今までと大きく違っているので、その意味で私は画期的だったと思っています。 

 伊藤(海):今回の防弾チョッキやヘルメットなら、戦時国際法上ギリギリひっかからないんですよ。元気のいい人たちは「武器を送れ」とか言うけど、それをやったら日本は中立国じゃなくなります。今回のウクライナの件は、実際に戦闘がすでに起きていて、今やもう国連憲章ではなくて戦時国際法の世界で動いているので、中立国は本来中立を守らないといけない。

 戦時禁制品(戦時中に中立国が交戦国に供給することを他方の交戦国が防止できる物品)を送ったら当事国になってしまいますからね。そうした事情もあって、先ほど話題に出てきた、NATOがウクライナに戦闘機をすんなりと供与できないという話になるわけです。

 でも、他方で対戦車ミサイルであるジャベリンを送っているから、プーチンは「中立国違反じゃないか」と文句を言っている。まさにそれが戦時国際法の議論なんですよ。ただ、ジャベリン等の武器に関しては、国際世論は「いや、戦闘に兵を出していないからギリギリ大丈夫でしょ」という解釈をしています。

 日本の場合はそこをさらに厳密に解釈するから、その結果できることはウクライナの一般人に対する人道支援なんですよ。その意味では、極めて論理的な解釈に基づいてウクライナを支援していると思います。

小川清史(元陸将)、伊藤俊幸(元海将)、小野田治(元空将)、桜林美佐著『陸・海・空 軍人によるウクライナ侵攻分析 日本の未来のために必要なこと』(ワニブックス)
この記事の著者
ワニブックス

刊行:ワニブックス社 小野田治 元航空自衛隊空将 ハーバード大学シニア・フェロー 伊藤俊幸 元海上自衛隊海将 金沢工業大学大学院教授 小川清史 元陸上自衛隊陸将 日本安全保障戦略研究所上席研究員 桜林美佐 防衛問題研究家

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