佐藤優「ロシアTV『悲しむウクライナ人は合成』…なぜ西側は報道しないのか」副島隆彦「私はプーチン頑張れ派」

4月に実施された国連人権理事会における理事国資格を停止する決議の採決では、賛成が93カ国に上った一方、24カ国が反対、58カ国が棄権に回った。作家の佐藤優さんと副島隆彦さんは「ロシアはもう、西側諸国に理解してもらおうとは思っていない。ロシア帝国が復活した」と話す。ロシアが描く“世界戦略”とは――。全4回中の3回目。
※本稿は佐藤優、副島隆彦著『欧米の謀略を打ち破り よみがえるロシア帝国』(ビジネス社)より抜粋、編集しました。
第1回:副島隆彦「私はプーチンがウクライナで開戦し、感動した」…佐藤優と語る「ロシア側の見方」
第2回:佐藤優「ロシアが勝っているのは明白だ! 」副島隆彦「プーチンは西側の”ゼレンスキー支援疲れ”を狙っている」
第4回:佐藤優「情報分析からロシアが勝つと確信している」副島隆彦「プーチンがどんなに優秀で正しいか」
「ロシア人さえ理解すればいい」という考え方
佐藤:ウクライナ侵攻後、ロシアの政府系テレビ第1チャンネルで「アンチフェイク」というテレビ番組を毎日放送しています。自分たちが行っているフェイクについては一切言及せず、ウクライナや欧米のフェイクを一つ一つ検証して潰していくという内容です。
たとえば西側の番組で取り上げられた、泣いて悲しむウクライナ人の写真は実は合成写真なんだとか、同じ人間がさまざまなシーンに何度も登場しているから、これは西側が雇った俳優、もしくは情報機関員に違いない、などと指摘しています。
副島:しかし、それらは世界には広まらないですよ。
佐藤:いや、そもそも広める気なんかない。ロシア人が納得すればいいのです。
副島:ロシア人が理解すればいい。西側世界が受け入れるわけがないと。
佐藤:はなからそういう考えです。省エネでやろうと。ロシア人にとってのシアター、戦う場所は、インドであり、中東であり、アフリカであり、中南米だと。西側でやっても意味がないというわけです。
副島:なるほど。つまり、本気で自分たちはユーラシアンであり、ヨーロッパ白人であることをやめると言っている。
佐藤:そういうことです。私たちはもう東を向くと。
「NATOは駄目だがEUはOK」のロジック
副島:プーチンは6月17日、「ウクライナが(NATOに入るのは絶対に許さないが)EUに入るのはかまわない」と言いました。このとき、私はプーチンはものすごく頭がいいと判断しました。彼は政治の大天才です。この発言は、ものすごく重要だと思います。
佐藤:ええ。ウクライナがEUに加盟したら、4400万のウクライナ人がEUに入ってくることになるわけです。
副島:そうです。権力者、支配者は、国民にご飯を食べさせるのが何よりも大事です。戦争が終わったあとこそ、大変だと思う。プーチンは、住民を食べさせる苦労が、ものすごくよく分かっている。それならば、さっさとEUに押しつけたほうがものすごくラクだと判断した。どうせ、ウクライナ西部と中部はロシアの言うことを聞く気がない。
それならEU(西欧)に食べさせてもらえよ、と突き放す決断をした。EUはNATOと違って軍事同盟ではありませんから。実際、ウクライナをEUに押しつけてしまえば、ドイツやフランスがおカネを出さざるを得ないでしょう。イギリスはさっさと先にEUから逃げましたから。
佐藤:これで面白いのは、結局、全部転がってアメリカが得になる仕組みになっているところですよね。ヨーロッパはウクライナの後始末で疲弊します。
さらに日本でおかしいのは、プーチンのせいで、逆説的にフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟し、西側同盟が拡大していると騒ぎ立てました。しかし、実は両国がNATOに加盟しても何も変わりません。
なぜなら、スウェーデンとフィンランドに米軍が常駐する巨大基地が建設され、核兵器が配備される可能性は低いとロシアが考えているからです。対してウクライナがNATOに加盟すれば、ただちに基地が米軍に提供され、核配備がなされるとプーチン大統領を含むロシアの政治・軍事エリートは考えています。
プーチンは現実主義者です。NATOの北欧への拡大は、アメリカの強い政治的意思に基づいて行われたと考えています。両国のNATO加盟は、政治的な目的であり、軍事的な脅威は高まっていないとみています。ただしロシアは明確なレッドラインを示しました。フィンランドとスウエーデン領内にNATOの軍事基地、つまり実質的には米軍基地が設置されるのは、ロシアとして認めることができないというものです。
“強いロシア帝国” が復活した
副島:ウクライナ戦争で、ロシア帝国が復活したと言えます。ロシア帝国が勝つと、周りの国々が明確に帝国についていこうとする。トルクメニスタンもカザフスタンも、ギュッと引き締まりました。反対に帝国が負けると、周辺国はバラけます。プーチンはそこのところをよく分かっている。
佐藤:それが1991年のソ連崩壊の経験です。
副島:だから、今回はそういうわけにはいかないとプーチンは気合いが入っている。一方でアメリカは、なんとか中国をロシアから引き剝がして、自陣営に取り込むことも考えている。
佐藤:でも中国はそう簡単にいかない。
副島:ええ。中国のほうが気合いが入っています。
佐藤:アメリカは、ロシアの次は中国と、順番にやっつけていこうと考えていることくらい、中国はお見通しですからね。
副島:ええ。今の中国はずっと頭がいいですよ。ロシアがやられたら、すぐに自分が危なくなるとよく分かっている。
かつて佐藤さんが「ロシアは帝国になれますか」と聞いた気持ちが今、ようやくわかりました。あのとき私は「無理でしょう」と言った。佐藤さんは「いや、ロシアは立派な国ですよ」と言っていました。自国の周りに、周辺属国をきちんと抱えていますからね。ロシアは立派に帝国としてよみがえりました。
ロシアがつくる新経済体制
佐藤:ロシアは世界の金産出量の10%を占めますが、西側は開戦当初からロシア産の金の購入を即時禁止すると言っていた。にもかかわらず、長らく禁止を検討するという状態が続いた。6月下旬にドイツで開かれたG7で、ようやく西側はロシア産の金の輸入禁止を合意しました。
副島:ロシア産の金は、ずっとスイスが買っていた。おそらく日本の業者たちは、それを輸入していました。ほかに、金貨はオーストリアとカナダ製があります。オーストリアはウィーン・ハーモニー金貨で、カナダはメイプルリーフ金貨です。だが、もう日本に売ってくれなくなりつつあります。このままでは、日本国内の金は払底しますね。
佐藤:金価格はもっと上がるでしょうか。
副島:上がります。現在の倍の価格になります。問題は、世界価格と分離して、日本国内の価格だけ上がるかどうかです。外国からの金の持ち込みが減ると、どうしても金価格は上昇します。
佐藤:G7は、それでしばらく足並みを乱し続けましたからね。ロシア産の金の輸入禁止というのは、どういう意味があるのですか。
副島:今やアメリカ政府自体は、ほとんど金を持っていません。保有しているとされる8130トンの金は、貿易決済の帳尻合わせのために、もう使ってしまいました。アメリカ政府は米ドル体制を守るために、金が憎らしくて仕方がない。そのため、金のペイパー・ゴールド市場を作って、ここで金価格を暴落させています。
これに対して、ロシアは金とルーブルをリンクさせることで、金本位制の復活を目指している。これが、「金のBRICs価格」と呼ばれます。すでに、ロンドンとニューヨークの金価格より4割高くなっている。日本国民には、この事実を絶対に教えないようにしています。
いわゆる金融資本主義の時代は終わる。なぜなら実体経済、すなわち天然資源と実物資産の上に作られた実物経済が大事だということが、今度の戦争でみんな分かりましたから。代金の決済のための新しい世界銀行は必要だ。
世界の中心はロシアと中国のユーラシア大陸に移る。世界通貨は、中国のデジタル人民元が中心となります。ただし、それは実物資産に強く裏打ちされている必要がある。今のように、際限なくドル紙幣を刷り続けている経済体制は終わります。
佐藤:やはり実物資産を持っているということが、ロシアの強さですよね。
副島:ウクライナ戦争は結局のところ、西側同盟がどこまで保つかの問題です。私は「プーチン頑張れ派」ですから決断して言いますが、非欧米の貧乏大国、資源大国同盟のほうが勝つ。これがエマージング(新興国)G8です。G7と闘います。この闘いが何年かかるかが焦点だと言い切ります。
佐藤:私もそこは同じ考えです。イタリアのベルルスコーニ元首相もテレビで、今回の戦争でたしかにロシアは西側から孤立したが、西側も「残りの全世界」から孤立したと言っています。
副島:これが「ザ・ウエスト」と「ザ・レスト」(その他の残りの全部)の戦いです。人口で言えば、ザ・レストのほうが世界の85%を占めています。国土面積も同じです。
佐藤:ええ。ザ・レストが資源と経済力でも西側連合を上回っています。
副島:実質のGDP、すなわち購買力平価(PPP)で計算し直した世界GDPでは、とっくに中国がアメリカを追い抜いています。中国のGDPは27兆ドルで、アメリカは23兆ドルです。
佐藤:それから、やはり注目しなければいけないのはアフリカの動きです。アフリカは54もの国がありながら、1国もアメリカと協調していません。これは驚きです。アメリカのCIAが、東西冷戦期からどれだけカネを突っ込んで代理戦争をやらせてきたか。それでも、ただの1国もアメリカの側に立たないのです。
副島:西側メディアは日本を含めて「専制国 対 民主国勢力の戦い」と、必ず書きます。だが、何が民主国家だ。ディープステイトが上から支配しているだけじゃないかと。「お前たちこそ民主政体(デモクラシー)ではない」ということです。これを私がいくら言っても、日本では誰も相手にしてくれません。

▽プロフィール
副島隆彦 1953年、福岡市生まれ。早稲田大学法学部卒業。外資系銀行員、予備校講師、常葉学園大学教授などを経て、政治思想、法制度論、経済分析、社会時評などの分野で、評論家として活動。副島国家戦略研究所(SNSI)を主宰し、日本初の民間人国家戦略家として、巨大な真実を冷酷に暴く研究、執筆、講演活動を精力的に行っている。
佐藤 優 1960年、東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在英日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館勤務を経て、本省国際情報局分析第一課主任分析官として、対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕され、2009年に外務省職員を失職。圧倒的な知識と経験を活かし、執筆活動など多方面で活躍中。