副島隆彦「私はプーチンがウクライナで開戦し、感動した」…佐藤優と語る「ロシア側の見方」

 いまだ光明が見えないウクライナ情勢。この問題に対し、“ロシアの論理” からアプローチしているのが作家の佐藤優さんと副島隆彦さんだ。日本ではあまり報道されないロシア人の考え方とは――。全4回中の1回目。 

※本稿は佐藤優、副島隆彦著『欧米の謀略を打ち破り よみがえるロシア帝国』(ビジネス社)より抜粋、編集しました。 

第2回:佐藤優「ロシアが勝っているのは明白だ! 」副島隆彦「プーチンは西側の”ゼレンスキー支援疲れ”を狙っている」
第3回:佐藤優「ロシアTV『悲しむウクライナ人は合成』…なぜ西側は報道しないのか」副島隆彦「私はプーチン頑張れ派」
第4回:佐藤優「情報分析からロシアが勝つと確信している」副島隆彦「プーチンがどんなに優秀で正しいか」

プーチンの目的はネオナチの一掃 

佐藤:そもそも、なぜロシアがウクライナに侵攻したのか。その理由は簡単で、NATOの東方拡大への反対と、ウクライナ国内のロシア人の権利の保全。それから、ウクライナのネオナチ一掃という3点です。とりわけ、ウクライナのネオナチに対しては忍耐の限界のレベルまで達していた。 

副島:首都キエフのマイダン暴動で、親ロシアのヤヌコヴィッチ政権を倒されたので、プーチンは急いで2014年の3月にクリミアを併合した。このあと、ロシアは8年間、ずっと経済制裁を喰らって、痛めつけられましたからね。プーチンはイラついたんでしょう。ただし、イラついたら負けです。ましてや殴りかかったら。 

佐藤:その通り。そこがポイントです。プーチンが感情的になってしまいました。 

副島:私は、日本では初めて「プーチンはハメられたのだ理論」を提起しました。つまり、プーチンは騙(だま)された、罠(わな)にはまった。英と米に騙されたんですよ。周到に仕掛けられた罠に落ちて、戦争に引きずり込まれたのです。 

佐藤:騙された、はめられたというのは、インテリジェンスの世界からすると、はめられるほうが悪いですから。 

副島:それはそうでしょうね。プロの商売人や経営者の世界でもそうです。同業者同士での騙し合いに負けたほうが悪いとなります。ただし私は、プーチンが欧米のディープステイトとはっきりと対決してウクライナで開戦してくれたから感動しました。この一点で、プーチンをすべて許すということです。大戦略、世界戦略論としては、これでいい。 

 ディープステイトとは、西側を500年前から支配してきた、頂点に隠れている人々のことです。はっきり書くと、ヨーロッパの王族や大貴族たちです。彼らは政治の表面には出てこない。特殊な人々だ。ヨーロッパ近代500年のあいだ、彼らが世界を支配してきた。現状は、それに対する戦いだと私は決めつけます。 

佐藤:大きいところは、ディープステイトとの戦いに、ロシア全体が踏み切ったということですよ。さらにプーチンは、アメリカのネオコン勢力の影響をロシアとウクライナから一掃しようとしています。 

ロシア人から聞いたウクライナの現実 

佐藤:私は、開戦当初から今度の戦争はそう簡単には終わらないと思っていました。ただ、戦局予想は逆でした。キエフ攻略のほうが比較的スムーズに終わると思った。一方で、ドネツクは簡単には終わらないと思っていました。この理由はすごく簡単です。私の無二の親友のアレクサンドル・カザコフ君、略称サーシャですが、彼は2014〜18年まで、ドネツク州のザハルチェンコという前首長の顧問を務めていました。 

 私はサーシャと時々電話で話をしています。彼は政治学者なのに学術本も書かないでいたので、「何してたの?」と聞いたところ「戦争をしていた」と。それで話を聞いたところ、ドネツク全体が要塞化しているというのです。 

 だから私は、ブチャの虐殺の実態はわかりませんが、そのときから、ウクライナ側がロシア系の住民だけではなくて、裏切りなどの疑いがあるウクライナ人を殺しているという話を、散々、彼から具体的に聞いていた。このサーシャが私に噓をつくことは絶対にありません。そうすると、ウクライナが実際にどういうことをやっているのかが見えてきます。 

 たとえば、ドンバスでロシアが、攻撃の自作自演をするいわゆる「偽旗作戦」を行ったなどとアメリカは言っています。だが、そうではなく、ウクライナが相当ヒドいことをやっていることも皮膚感覚でわかる。もちろん、ロシアも同じようなことをやっていますが。だから、それが私と他の人と違うところなのです。 

副島:自分は失敗したと判断したプーチンは3月26日に、一斉にキエフ周辺の三方向からの方面軍に対して全面撤退を命じました。これはプーチンが賢かったと思う。作戦に失敗したら、ただちに撤退するという決断力がある。 

佐藤:同時に3月29日、トルコのイスタンブールで、ロシア、ウクライナ代表団による停戦交渉が行われたからですよね。ところが、この流れは3月末のブチャの虐殺事件以降、すべてひっくり返ってしまいました。そもそも、ブチャの虐殺の実態というのは、真相がどうだったかわからない。 

副島:ブチャの虐殺はウクライナ政府が仕組んだものです。4月2日からゼレンスキーが世界中に向かって、ロシア軍が住民を虐殺したと大宣伝を始めました。その前の3月26日に、ハリコフの北で撤退中のロシア軍のしんがり部隊がウクライナ側に捕まった。その捕虜になったロシア軍の若い兵士たちを、何十人も撃ち殺している残虐な動画がアップされました。 

 ただ、ロシア軍は住民を射殺して回ることなどしていない。虐殺を行ったのは誰か。私の考えでは、ゼレンスキーの周りにいる、国家親衛隊と国家警察、つまりアゾフの連中だ。こいつらに英SAS(陸軍特殊空挺部隊)が「ちょっと行って、住民をたくさん殺してこい。ロシア軍のやったことにするから」とゼレンスキーの横から命じた。 

佐藤:ブチャに関しては、私は、副島先生のように、確信をもったことは言えない。というか、関心がない。要するに、戦時中における虐殺事件とか、強姦事件に関する報道は心理戦の一部ですから。双方、いろんな絵を描くことができる。 

 だから私は、そうした残虐行動に関しては、全部カッコのなかに入れることにしているのです。つまり、残虐行動というのは両方がやっています。だから、独立した第三者委員会できちんと調べろという、インドが言っていることが正しいんですよ。 

副島:それをやらなかった。ゼレンスキーと西側は第三者委員会を作りませんでした。初めからロシアが犯罪国家だという方向に持っていきました。 

佐藤:私は、ブチャの死者は3通りいると思います。大多数は空爆の犠牲者。それから、ウクライナ軍に協力し、民兵をやっていたか、情報を流していた人間。彼らはロシアに殺された。それから3番目は、副島先生が言っていたように、アゾフに殺された人たち。 

 このブチャの虐殺事件を契機に和平交渉が終わったこと、アメリカをはじめとする西側諸国が支援する武器の量と質が飛躍的に変わったこと。この事実が重要です。そのときに何があったかということではなくて、「何があったと受け止められたか」ということが重要なのです。 

ロシア人の死生観は日本やアメリカとは違う

佐藤:一方で指摘すべきは、ロシアもやはり本格的に戦争の準備をしていたということです。しかし、いまだにロシアは平時動員でしょ。9月21日に、プーチン大統領は「部分動員令」に署名しましたが、これも特別軍事行動、すなわち法的には平時体制の枠内で行われています。 

副島:たしかにそうです。まだまだ志願兵だけです。徴兵令は出していない。 

佐藤:ええ、ロシアは志願兵。一方のウクライナは総動員ですからね。しかも、ウクライナのほうは、在外ウクライナ人も捕まえて国に戻せと言っています。だから、本当に兵士がいないのです。 

 それにしても、かわいそうなのは捕虜になったウクライナの将兵たちです。彼らが着ているのは本当にボロ服で、みんなやせています。なぜかというと、食べ物がないからです。彼らはとにかく国を守れと言われている。ところが、まず指揮官が逃げるという。だから、どうしたらいいかわからない状況なのです。 

副島:私たちはロシア軍が負けているニューズ映像ばかり見せられています。今もウクライナ軍が勝っているという報道が多いです。 

 ロシア人の気風というのは、大きく言うと死んでもいいという感じでしょう。 

佐藤:そうです。ロシア人の死生観は、日本人やアメリカ人とは違う。軍人になる人たちはとくにそうです。ただ、それはウクライナ人も同じです。その意味においては、ふにゃふにゃしたヨーロッパ人やアメリカ人と、だいぶ違う人たちなんですよ。ロシア人の普通の感覚、ウクライナ人の普通の感覚からいうと、アメリカは卑怯なんです。武器を渡すだけで、自分たちの血は決して流さない。 

副島:アメリカは米兵が死ななければいい。自分の国の兵隊が死なない限り、国民は文句を言いませんから。アメリカ人は、ヨーロッパでアメリカの若者が死ぬことを嫌がっている。もうまっぴらだ、という感じです。とくにマードック系のFOXチャンネルは、ウクライナ戦争の報道を、ほとんどしないままです。それでも、アメリカ国民は何でも知っている。周りにロシア系やウクライナ系の人たちがたくさんいますからね。 

佐藤:「価値観の外交」を推し進めるのだったら、命をかけないと、というのがロシア人の感覚です。となると、これは「価値観の外交」ではなく、単なる「勢力圏争い」だと思うわけです。ロシア人からすると、ドネツクやルハンスクの人々は家族ですからね。家族がやられているのだから助けに行くのは当たり前、ということです。 

佐藤優、副島隆彦著『欧米の謀略を打ち破り よみがえるロシア帝国』

▽プロフィール

副島隆彦 1953年、福岡市生まれ。早稲田大学法学部卒業。外資系銀行員、予備校講師、常葉学園大学教授などを経て、政治思想、法制度論、経済分析、社会時評などの分野で、評論家として活動。副島国家戦略研究所(SNSI)を主宰し、日本初の民間人国家戦略家として、巨大な真実を冷酷に暴く研究、執筆、講演活動を精力的に行っている。

佐藤 優 1960年、東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在英日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館勤務を経て、本省国際情報局分析第一課主任分析官として、対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕され、2009年に外務省職員を失職。圧倒的な知識と経験を活かし、執筆活動など多方面で活躍中。

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