佐藤優「情報分析からロシアが勝つと確信している」副島隆彦「プーチンがどんなに優秀で正しいか」

 「ロシアは必ずウクライナに勝つ」と断言する作家の佐藤優さんと副島隆彦さん。一方で、全面的にプーチンを支持する副島さんに対し、佐藤さんは「プーチンの誤り」を指摘する。プーチンが理解していない、ウクライナ人のアイデンティティとは――。全4回中の4回目。 

※本稿は佐藤優、副島隆彦著『欧米の謀略を打ち破り よみがえるロシア帝国』(ビジネス社)より抜粋、編集しました。  

第1回:副島隆彦「私はプーチンがウクライナで開戦し、感動した」…佐藤優と語る「ロシア側の見方」
第2回:佐藤優「ロシアが勝っているのは明白だ!」副島隆彦「プーチンは西側の”ゼレンスキー支援疲れ”を狙っている」
第3回:佐藤優「ロシアTV『悲しむウクライナ人は合成』…なぜ西側は報道しないのか」副島隆彦「私はプーチン頑張れ派」

ウクライナは最終的に3分割される

佐藤:そもそも今回の戦争を見ていく際に、ウクライナという国家は歴史的に存在していない、というところからスタートしなくてはいけません。 

副島:そうですね。ウクライナ国が誕生して、わずか31年ですからね。ソビエトが崩壊した1991年8月に独立した。しかも、フランスの歴史学者であるエマニュエル・トッドが言うところの、リヴィウを含む「①西部」。キエフ(キーウ)からドニプロ河あたりの「中部」一帯の「②小ロシア」、そして黒海沿岸地域とドンバス地方の「南部・東部」、つまり「③ノヴォロシア」(新ロシア)という3つの異なる地域から成り立っています。 

佐藤:そうです。副島先生流の言葉で言うと、これが「グローバルスタンダードでの常識」なのです。 

副島:この世界共通知識は、ヨーロッパ人にとって当たり前の知識です。佐藤さんも、ウクライナは3つに分かれて、最終決着のところは3分割するべきだと思いますか。 

佐藤:というか、そういうふうになってしまう。 

副島:ソフィア・ローレン主演の映画『ひまわり』があります。マルチェロ・マストロヤンニ演じる恋人のイタリア兵のアントニオが、第2次世界大戦で、スターリングラードまで戦いに行って、敗残兵となって撤退してきて、一面雪のドン川近くで倒れていたわけです。それを現地の女が助けて自分の夫にする。 

 夏になればあんなに暑くて、一面ひまわり畑が続いている。あのシーンが『ひまわり』という映画のすごさです。スターリングラードが、今のヴォルゴグラードです。 

佐藤:ド田舎です。 

副島:大平原ですからね。今のウクライナの黒海沿岸に、6世紀から9世紀までハザール王国がありました。元々は遊牧民です。彼らはユダヤ教に改宗したハザール・ユダヤ人という人たちだ。彼らは、東から来たアジア系の遊牧民に追われて、ハンガリー→ポーランドに移動したと言われています。でも、居残ったハザール・ユダヤ人もいるのでしょう。 

 その後、ルーシによるキエフ大公国が成立しました。やがて1240年くらいから、モンゴル帝国が攻めてきて征服されてしまった。やはり豊かな大草原だから、戦いがいつも有って終わらないのでしょう。 

佐藤:とくにクリミアにモンゴルが拠点を作ると、彼らは奴隷ビジネスを始めるわけです。だから、ウクライナのキエフなどは、ぺんぺん草すら生えないような状態になってしまう。人々を奴隷として中東に売っ払っていたわけです。それを防衛するために武装農民や犯罪者などが集まって、ウクライナに定着した。それがコサックです。 

副島:そうかあ。そのコサックが、やがてツァーリ、すなわちロシア皇帝に忠誠を誓うようになる。 

佐藤:そうです。ロシア正教と皇帝にですね。そのへんは、ロシアの文豪ゴーゴリ(1809~1852)が1835年に発表した小説『隊長ブーリバ』(原久一郎訳、潮出版社、2000年)を読んでもらうとわかる。 

 あれを見ればわかるように、ゴーゴリというのはウクライナ人であるとも言えるし、ロシア人とも言える。まだ民族意識が未分化ですから。『隊長ブーリバ』は、ザポロージェ・コサックを描いています。戦いの相手はポーランドです。小説の舞台となった16 世紀は、民族ではなく宗教がお互いの境界線だった。 

副島:ということは、コサックの文化を引き継ぐのが、今のロシア語系ウクライナ人(ロシア系住民)ですね。つまり東部の人たちだ。ウクライナはコサックが作った国だという思想を、ロシア語をしゃべっている今のウクライナ人たちは持っています。 

佐藤:そうした考えは、ウクライナ人たちが広範に持っています。ただし西部のガリツィアは関係ありません。だから、今のウクライナ問題というのは、ハッキリ言えばガリツィア問題に尽きるのです。 

 勢力的にも歴史的な意味においても、これまであまり大きな位置を占めてこなかったガリツィアの民族主義勢力が、2014年以降、完全に権力を握っている。ここに、ウクライナ問題の根源があります。 

副島:ガリツィアの右翼っぽい人たちの帰属意識は、「オレたちはウクライナ人だ」なんですね。ロシア人(モスクワルーシ)ではない。 

佐藤:そうです。ガリツィアの人たちは自らをウクライナ人だと思っています。 

副島:西部ガリツィアの人たちは、ポーランド人に近いのでしょうね。ロシアと絶対に相容れないウクライナ人はガリツィアのほうに移動して、ポーランドと一体化したいという人たちだということは、結末は、やはり佐藤さんの言う3分裂ですね。 

佐藤:まさにその通りです。 

ウクライナ戦争は第3次世界戦争の幕開け 

佐藤:結局、5月のダボス(会議)でキッシンジャーが言った方向で事態は落ち着くと思います。 

副島:あそこで「あと2カ月で停戦(シース・ファイア)しなさい」とキッシンジャーが言った期日が7月23日です。それから、さらに3カ月経ちました。戦場の兵士たちが「もう死ぬのはイヤだ」となったら、軍隊は動きが止まるそうです。 

佐藤:そうですよ。マリウポリのウクライナ軍海兵隊が降伏したのがまさにそうですから。ああいうことが、これから全軍的に起きてくるわけですね。 

副島:両軍ともやる気がなくなってきたところで「自然停戦」ということも考えられます。ドネツク州のクラマトルスクの解放までは、プーチンは絶対にやりますよ。ただし、きっとそこまででしょう。 

佐藤:それと、ハリコフ(ハルキウ)は取りに行く。いずれにせよウクライナが頑張ると、ロシアも頑張ることになり、なかなか停戦できなくなります。 

副島:そう。プーチンも一方の当事者ですから、先は読めませんからね。プーチンたちは、米軍を含めたNATO軍と戦っているのだと考えています。この視点を、日本の専門家たちは言わない。 

 電子(サイバー)戦争だから、アメリカは軍事衛星とAWACS(早期警戒管制機)からの無線傍受で、ロシア軍の動きを精密に特定して、それをウクライナ軍に伝えて、誘導ミサイルで精密攻撃を仕掛けてくる。これでロシア軍が、かなり苦戦しているのも事実でしょう。 

 だから、すでにこれは第3次世界大戦の一部になっています。ただ、前線の兵士たちがかわいそうだ。お互いの最前線(フロント・ライン)が瓦解するのを待つわけですから。 

プーチンに足りないウクライナ人への理解 

佐藤:プーチンが倒されるなどと言っている連中は素人ですね。プロは絶対に外れることを言ったらいけません。彼らがしきりに唱えていた6月反転攻勢の決戦理論も、実はアメリカ大使館が流していた話を、そのまま右から左に言っていただけでした。 

 実は私もある種の「決戦理論」を言っていました。「遅かれ早かれロシアは自ら設定した戦争目標を達成する」と(笑)。 

副島:佐藤さん、あなたね。そろそろ正体を現して、ロシア頑張れと言ったほうがいいですよ。 

佐藤:頑張れとは言いません。なぜなら、そう思っていないからです。ただ、情勢を冷静に分析するとロシアが勝つ、というのは確信していますが、プーチンがやっていることは間違っている、というのが私の立場です。 

副島:今回、プーチンがどんなに優秀で正しいかがよく分かった。 

佐藤:そこはもう意見が一致しています。だから、違いは彼がやっていることが正しいかどうかというところだけ。 

副島:正しい。正義であり、かつ強い。 

佐藤:強くて頭もいいけど間違えていると思っている(笑)。どうしてかと言うと、やはりこれは、私のルーツが沖縄にあることにかかわっています。日本と沖縄、ロシアとウクライナはくねくねした関係なんですよ。ロシアのウクライナに対する姿勢は、日本の沖縄に対する姿勢とそっくりです。 

 日本語を母語にしても、本土の日本人とは別のアイデンティティを持っている沖縄人たちがいる。このことが、本土の日本人にはわからない。プーチンも一緒です。ウクライナ人のアイデンティティをわかっていない。ここが、私がプーチンに違和感を覚えるところなのです。私のルーツが沖縄じゃなければ、気づかなかったと思う。 

副島:プーチンは、何を分かっていないのですか。 

佐藤:要するに、少数派であって普段話す言葉は同じ。でも、ロシアとは別のアイデンティティを持っている人たちがいるということを、プーチンはわかっていないのです。ロシア語のことわざで「熊の親切」というのがあります。寝ているおじいさんの額にハエが止まっているのを見た熊が、親切心からハエを叩き出そうとして、おじいさんを殺してしまうという、余計なおせっかいという意味です。これと一緒でしょう。 

 西ウクライナ、ガリツィア地方はともかく、その他のウクライナに住む人々の民族意識は複合的なのです。たとえばハリコフは、位置的にも本来ロシアの味方をすると思ったらそうではない。この地域の人々は、ウクライナ人という強力な意識は持っていないが、武力を行使するロシア人とも自己を一体化できない。「おめえ、こんな強圧的なやり方でくるんだったら、こっちも銃を持って戦うぞ」となる。 

 沖縄も同じことになりかねないのです。プーチンのそういった民族問題に関するセンスが弱いところに、私は抵抗感があります。

佐藤優、副島隆彦著『欧米の謀略を打ち破り よみがえるロシア帝国』

▽プロフィール

副島隆彦 1953年、福岡市生まれ。早稲田大学法学部卒業。外資系銀行員、予備校講師、常葉学園大学教授などを経て、政治思想、法制度論、経済分析、社会時評などの分野で、評論家として活動。副島国家戦略研究所(SNSI)を主宰し、日本初の民間人国家戦略家として、巨大な真実を冷酷に暴く研究、執筆、講演活動を精力的に行っている。

佐藤 優 1960年、東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在英日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館勤務を経て、本省国際情報局分析第一課主任分析官として、対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕され、2009年に外務省職員を失職。圧倒的な知識と経験を活かし、執筆活動など多方面で活躍中。

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