プロパガンダもう効かない…習近平を受け入れられなくなった中国の厳しい現実「軍と公安が大暴走」…もう停められない中国バブル崩壊

中国経済に翳りが見えている。その一方で、三期目に突入した習近平政権は盤石だ。
台湾進攻への軍事的野心を隠しもしない同政権だが、中国事情に詳しい紀実作家・安田峰俊氏は意外にも「台湾有事の可能性はかなり低い」と指摘する。
いったい、どういうことなのかーー。みんかぶプレミアム特集「世界・日本経済『大激変』」第5回。
目次
中国全体で社会への不満が爆発している
現在の中国の最大の注目点は、「中国社会が楽天的ではなくなった」という一事に尽きるだろう。コロナ禍の後、世界中のアナリストが中国経済のV字回復を予測したにもかかわらず、中国経済の推移はL字型だった。中国国家統計局は2024年7月、同年上半期のGDP実質成長率は政府目標を達成して前年同期比5.0%だったと伝えたが、前期比の伸びは大きく減速している。そもそも、「5.0%」という統計自体の信頼性も疑われており、中国経済は本格的に高度成長期を終えはじめたとみられている。
その理由は、さまざまな要因が複合したものだ。まず、自由経済の発展よりも「国家安全」を重視しがちで民間の統制を好む習近平政権の硬直性と、そうしたムードを受けたイノベーション産業をはじめとする民間企業の萎縮。さらに、これまで常に右肩上がりで価格が上がり続けてきた「不動産神話」が2023年ごろから明らかに崩壊し、従来は不動産開発の利益に依存してきた地方政府が軒並み実質的な財政破綻に見舞われて、経済不安が広がった。
加えて、コロナ期の強権的なゼロコロナ政策のもと、一部の国民の間で進んだ社会や政府に対する不信感の高まり、若者の極度の就職難と「内巻」と呼ばれる激烈すぎる競争への疲れから生じている強い閉塞感、少子高齢化の深刻化にともなう先行き不安……など、社会のネガティブなムードは多方面から噴出している。
中国国民は習近平を受け入れられなくなった
そもそも、1992年に当時の最高指導者の鄧小平が南巡講話をおこなって社会主義市場経済の大胆な導入を決めて以降の中国は、常に経済成長が続き、明日の暮らしが今日よりもきっと良くなると信じられてきた社会だった(そして、事実としてそうなった)。
ゆえに中国の人々は、1989年の六四天安門事件の武力弾圧も、共産主義への道を放棄したように見える「共産党」が中国を専制統治していることも、近年のスマホ普及のなかでデジタルツールを用いた国民監視や言論統制が従来になく強まったことも、豊かさへの対価としてひとまず受け入れてきた。
中国共産党自身、中国を強く豊かにできるのは自分たちだけであるというプロパガンダに熱心だったが、その主張は好景気のもとで国民からも受け入れられてきた。豊かな未来が期待できる社会は、多くの問題を抱えていても楽天的な雰囲気があり、加えて2010年ごろまでは個人が努力次第で成功できる余地もまだまだ残っているように見えた。
習近平政権についても、コロナ前まではその統治を「盛世」として受け入れる声が強く、(日本の報道のイメージとは裏腹に)国民人気も高かった。2023年春、彼は従来の例を破って政権第三期目に突入したのだが、仮におとなしく二期10年で政権を手放していれば、後世の中国国民から「名君」として記憶されることになった可能性が高い。