遅れの原因は岸田政権なのに…デジタル庁の目論みが失敗に終わった3つの理由「国運を賭けたガバクラ奈落に自治体関係者ら絶望」
政府が情報管理の効率化のために整備する「ガバメントクラウド」。省庁、自治体が個別運用してきた管理システムを、クラウド上の共通サービスに移し2025年度までに運用経費を20年度比で3割減らす目標だ。しかし、これがなかなかうまくいってない。なぜなのか。関係者を徹底取材した、元経済誌プレジデント編集長と作家の小倉健一氏が解説する。全3回の第2回目。
目次
デジタル庁の目論見が失敗に終わった3つの主因
自治体の業務をクラウドに移行する、「自治体(ガバメント)クラウド」。行政の業務が減り、運用経費が3割減る(25年度のシステムの運用経費を20年度に比べて3割削減すると閣議決定)。こんなデジタル庁による夢のようなおとぎ話が、今、現実の壁にぶち当たり、完全に頓挫してしまった。
デジタル庁の目論見が完全に失敗に終わってしまった主な要因は以下の3つだ。
- クラウドの移行期限に間に合わない予定の自治体(移行困難の自治体)が多数し、そして、その数はこれから増えていく見込みであること
- 3割の経費削減どころか、多くの自治体で経費が4倍程度に高額化してしまっていること
- 業務がますます複雑化ししまっていること 2025年度末までに、全国1741の自治体の業務のうち、基幹業務にあたる20システムをガバメントクラウンドに移行するという「自治体システム標準化」が進められている。これは、コロナ禍で自治体ごとにシステムが異なっていたため、情報共有がスムーズに行えなかった反省から生まれたものである。しかし、自治体からは、「移行期限に間に合わない」「コストが2倍~4倍に高騰」「業務がかえって複雑化する」といった不満が爆発している。
そもそも「ガバメントクラウドへ移行」するとはどういうことなのか。イメージを掴みやすくするために、最近、起きた「定額減税」について触れたい。定額減税は、岸田文雄首相が「増税メガネ」と揶揄されるのに耐えかねて打ち出した給付金っぽい減税政策だ。
「減税方法は、会社員ら給与所得者、自営業者ら事業所得者、高齢者ら年金所得者で異なり、所得税と住民税についても違う」、さらに「納税額が少ない人には給付を行う」というもので、事務手続きが複雑で、「これなら給付にしておけばいい」という声が上がり、不評であった。
メンツを優先する岸田政権ならではの政策
メンツを優先する岸田政権ならではの政策といえようが、もし、これがガバメントクラウドが当初イメージしていた構想ができあがっていたのなら、自治体では簡単に実施することができていただろう。霞ヶ関の中央官庁で「定額減税」のシステムをつくれば、そのまま地方自治体でシステムの活用ができる。自治体の担当者が高度なIT知識を必要とされることもなく、また面倒なシステム改修なども不要になったはずだからだ。
この「理想イメージ」のようにガバメントクラウドの活用によって、バラバラだった各省庁や自治体がそれぞれ独自の設備で税金や住民のデータなどを管理システムを一元化することができるはずだった。自治体のシステムを「クラウド」と呼ばれるネットワーク上の共通サービスにまとめることで、仕様を統一したり、運用にかかる経費を減らしたりすることができるようになるはずだったのだ。
ある自治体のIT担当者は実情を打ち明ける。
「定額減税の煩雑な事務手続きに自治体は多くの人材と時間を割くことになり、ガバメントクラウドへと期限内に移行することがますます困難になった。行政機関同士の情報共有をスムーズにすることで、職員の全体数が減り、IT人材の確保に悩む地方自治体の負担を軽減することを狙いだったはずだ」
なぜクラウドへの移行は難しい?3つの理由
自治体の業務をクラウドに移行することの難しさは、実は昨年(2023年)9月の閣議決定(地方公共団体情報システム標準化基本方針)でも、指摘されていたことだ。
<地方公共団体の基幹業務システムは、これまで、地方公共団体が個別に開発しカスタマイズをしてきた結果として、次のような課題を抱えている。
(1) 維持管理や制度改正時の改修等において地方公共団体は個別対応を余儀なくされ負担が大きいこと