メディアに書かれた記事を否定する会社…どっちを信用したらいい?文春だけじゃない!共同通信が批判し続ける「サンウェルズ」の言い分

芸能界を引退した元タレント・中居正広氏の女性トラブルをめぐり、第三者委員会による調査が進むフジテレビと「社員の関与」を追及する文藝春秋社の闘いが始まった。「週刊文春」は当日の会食には女性がフジ社員Aからではなく「中居氏に誘われた」と訂正したが、社員Aがトラブルに関与した事実は変わらないと説明。これに対し、フジ側は社員の関与を一貫して否定している。経済アナリストの佐藤健太氏は「報道された時、当事者や会社側が否定しても大きく報じられることは少ない。ネットの誹謗・中傷対策が注目されているが、報道と人権などに関するシステムづくりが必要なのではないか」と指摘する。
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世間を更に揺るがした週刊文春の”訂正”
一体、「事実」はどこにあるのか―。昨年末に週刊誌報道で発覚した中居氏の女性トラブル。1月9日の発表コメントで中居氏は「トラブルがあったことは事実です」と認める一方、「示談が成立し、解決していることも事実です」「今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」と説明。そして、「このトラブルについては、当事者以外の者の関与といった事実はございません」などと記した。
中居氏は関連する出演番組などが全て終了・契約解除となり、1月23日には芸能界を引退することを公式サイトで発表した。女性トラブルをめぐる事実関係はフジテレビの第三者委員会が調査を進め、女性に対するフジ社内の相談体制や心身ケア、ガバナンスがどうだったのか3月末に結果がまとまる見通しだ。
スポンサー離れが加速し、コンプライアンス上の不備を認めるフジテレビが唯一、週刊誌報道を「完全否定」する部分は社員Aの関与にある。フジ側は会食当日の社員Aの関与を否定し、週刊誌サイドにも説明してきたという。これに対し、「週刊文春」編集部は1月28日に内容の一部を訂正した。ただ、女性は「A氏がセッティングしている会の〝延長〟だったことは間違いない」と証言しているといい、1月29日の声明でも「A氏が件のトラブルに関与していた事実は変わらないと考えています」としている。
文春側の訂正は各メディアで取り上げられ、特にフジテレビの情報番組や報道番組では「なぜ誤った記事を掲載したのか」「核心部分が修正された」などと大々的に報じている。SNS上には「#文春廃刊」がトレンド入りする騒動となり、各種報道の風向きも変わりつつあるようだ。
共同通信が配信した記事
今の時代、ネット世論の影響力は日増しに高まっている。ただ、これは影響力の大きい「文春砲」に対し、オールドメディアと言われながらも絶大な力を持つフジを始めとするマスメディアだからこそ、「反論」が可能になっているように映る。これが個人や普通の企業であれば、「反論」部分はどこまで報じてくれるのか。そもそも「訂正」がなされるのか、「何らかの救済措置はあるのか」といった部分は不安でしかないだろう。
メディアによる報道に企業側が事実関係を否定したり、争う姿勢を見せたりするケースは珍しくない。最近で言えば、2024年9月に共同通信が報じた東証プライム上場の「サンウェルズ」(金沢市)をめぐる報道だ。国の指定難病「パーキンソン病」専門の有料老人ホームを運営する「サンウェルズ」に関し、共同通信は同9月2日の独自記事で「複数のホームで、併設の訪問看護ステーションがホーム入居者への訪問について実際とは異なる記録を作り、不正に診療報酬を請求していたとみられることが2日、運営会社の複数の現・元社員の証言で分かった」と報じた。
「訪問看護で不正か」「過剰請求指摘も」と疑惑を追及する共同記事を見ると、共同通信の取材に対してサンウェルズ側は「報酬の不正請求については、過去に一部職員の知識不足で類似事例があり、未請求または自主的に返還した」などと答えたという。
有料老人ホーム「PDハウス」を運営し、急成長してきたサンウェルズ。共同通信の報道翌日には「昨日、共同通信社の記事において当社が運営する施設で過剰訪問看護及び保険の不正請求が存在するという旨の記事が公開されておりますが、そのような事実は一切ないことをお知らせいたします。また、記事の見出し、ならびに記事に記載されている事実について、法的な根拠なく報道しており、当社の信用を毀損していることから、訴訟を含めて法的措置を検討しております」などと否定する発表文を出した。
ただ、サンウェルズは公式サイトの「IRニュース」で2024年9月20日に開催された取締役会で特別調査委員会を設置することを決議したと発表している。報道内容の事実関係や問題の有無を明確にするため、業務実態の調査の実施や改善点が確認された場合には速やかに対処することが必要であると判断したという。結果は調査報告書を受領後に速やかに開示するとしている。
仮に報道内容が事実であれば決して小さな問題ではない
まずは特別調査委員会の結果を待つことになるが、サンウェルズは昨年11月6日に2025年3月期第2四半期の決算発表の延期と半期報告書の提出期限(同11月14日)の延長を発表。さらに同11月13日には調査に「なお相応の日数を要する」とした上で中間配当)は無配に、2025年3月期の期末配当予想も取り下げ未定と発表した。
サンウェルズが「株主・投資者の皆様、お取引先及び関係者の皆様、施設利用者の皆様、入居者の皆様とご家族様など当社に関連するステークホルダーの皆様には、多大なご迷惑とご心配おかけいたしますことを深くお詫び申し上げます」と発表しているように、仮に報道内容が事実であれば決して小さな問題ではない。
2025年3月期半期報告書の提出や同年3月期第2四半期(中間期)決算の公表は、延長後の提出期限である今年2月12日までに行う予定という。ただ、共同通信は1月12日にも「不正・過剰な請求認める」「入居者訪問看護の診療報酬」などと独自記事を配信。「昨年末の社内連絡で不正・過剰な請求があったと事実上認めていたことが12日、関係者への取材で分かった」としている。
報道が仮に事実ならば、国民は被害者となる
記事によれば、サンウェルズは「社内連絡の中で『これまで社の業務設計や管理体制・チェック体制に改善の必要があったこと、深くおわび申し上げます』とし、「職員が胸を張って働いていけるよう課題と向き合い、業務改善に着手する」などとしていたと報じている。さらに共同通信は翌1月13日の記事で「診療報酬の審査機関から請求のあり方について指摘を受けていたことが13日、関係者への取材で分かった」と続報で迫った。
この「審査機関」は厚生労働省の所管法人「社会保険診療報酬支払基金」の審査委員会といい、「医療機関からの請求を審査し、報酬を支払う機関」とある。つまり、被用者保険(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合)などに診療報酬を請求し、払い込みを求めるところだ。その意味では、共同通信の「不正・過剰な診療報酬の請求」という記事が仮に事実ならば、その「ステークホルダー」は国民ということもできる。サンウェルズ側のIR情報は昨年11月を最後に更新されていないが、これ以上の不安や混乱を招かないよう1日でも早く情報を開示すべきなのではないか。
「報道」と「否定・反論」のあり方
1月29日には、ダイヤモンド・オンラインが同27日に配信した「【スクープ】GMOが900億円超の巨額賠償訴訟!熊谷氏“肝いり”の仮想通貨マイニング事業失敗で米企業と泥沼トラブル」と題する記事をめぐり、GMOインターネットグループは事実誤認があるとするプレスリリースを発表した。熊谷正寿代表はSNS上に「1つの記事で企業の命運が変わる現状を目の当たりにしている今、ダイヤモンドオンラインの皆さまには慎重かつ公正な取材と報道をお願い申し上げます」と記している。