違法だとした診断書を「違法ではない」横浜地裁がくだした判決の謎…「原告娘の体調不良は受動喫煙が原因」実は医師が直接診断してなかった

2017年、横浜市内に住む男性が居住する部屋の一階上の家族から訴えられた。男性のタバコの副流煙が原因で受動喫煙症に罹患したとして4500万円の損賠賠償請求などをした。ジャーナリストの須田慎一郎氏がプレジデントオンラインに寄稿した記事によると、決定的な証拠となるはずだった診断書について「医者である作田理事長が、家族を直接診察することなく診断書を書き、交付していたことが明らかに」なったといい男性の全面勝訴に終わった。判決文では「作田医師は、原告について、『受動喫煙症レベルIV、化学物質過敏症』と診断しているが、その診断は原告を直接診断することなく行われたものであって、医師法20条に違反するものと言わざるを得ず」と書かれた。しかし、先月この診断書に関わる別の裁判では「違法なものとはいえない」という判決がでた。一体何が起きたのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
目次
横浜副流煙事件とは何か
医師の書く『診断書』が政治的な目的に利用されることの是非が問われている。
横浜副流煙事件を巡る損害賠償訴訟は、禁煙運動を推進する医師が作成した診断書の信頼性が問われ、訴権の濫用が争点となっている。医師が作成する診断書は、客観的事実に基づくべきである。無診察での交付や、政治的意図による内容の操作は許されない。
「診断書」が違法で作成され、そして、その診断書が政治利用され、争点となった横浜副流煙事件とは何か。簡単に説明しよう。
神奈川県横浜市の郊外にある団地で、副流煙をめぐる裁判が起こった。自宅の防音室で喫煙していたミュージシャンの男性が、斜め上に住む一家から訴えられた。70代の夫婦と40代の娘が、受動喫煙症や化学物質過敏症を発症したと主張し、約4500万円の損害賠償と自宅内での喫煙禁止を求めたのだ。
日本禁煙学会理事長の作田学医師は、「原告娘の体調不良は受動喫煙が原因」とする診断書を出しているのだが、この診断書は本人を直接診察せずに作成されており、医師法20条違反と判断された。判決では、診断書が違法であると明確に認定された。
今、その男性ミュージシャンとその家族が起こした訴訟では、作田医師が作成した診断書の一部が無診察によるものであり、それが前の裁判の重要な証拠となっていたことが問題視されている。横浜地裁は前の裁判の判決で、診断書の1通について医師法違反と認定した。さらに、刑事告発を受けた神奈川県警が虚偽診断書行使の疑いで作田医師を書類送検した。
問題となった、医師法20条違反の「診断書」
問題となった、医師法20条違反の「診断書」の全文はこうだ。
—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–
氏名 (原告娘の名前)様
生年月日(原告娘の生年月日)
病名 受動喫煙症レベルⅣ、化学物質過敏症
団地の一階からのタバコ煙にさらされ、1年ほど前からタバコ煙に接するたびに昨年暮れから咽頭炎、呼吸困難を生じていた。昨年の暮れからは化学物質過敏症が増悪し、洗剤、寝具や衣服の化学繊維まであらゆる化学物質に反応し、口内炎、咽頭炎などを生じ、呼吸が困難になる。このため、体重が10kg以上減少した。
微量の化学物質にも激しく反応し、外出が困難になっている。
治療法は、原因となる物質のない環境にいることだけである。
上記の通り診断いたします。
平成29年04月19日
(日本赤十字社医療センター住所)
日本赤十字社医療センター
(日本赤十字社医療センター電話番号)
医師 作田学
—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–—-–
まず、この診断書の問題は、禁煙学会理事長である作田学医師が、公文書である「診断書」に、患者の虚偽や思い込みを含む主張をそのまま事実かのように記し、さらにその主張によって深刻な事態を招いているという「診断」を下しているところだ。
例えば、ミュージシャン男性は、タバコを四六時中吸うようなヘビースモーカーではなく、さらに、原告がタバコ害を訴えたことで、一定期間、禁煙を実施していた。しかし、原告はその間も「相変わらず臭う」と主張した。近隣住居でタバコを吸っているのは一人だけではなく、自動車の排気ガスも、お線香の煙も存在する状況で、どうして斜め下に住む住居からのタバコ害が原因であることが特定できるのか。