200億円で可能な高額療養費「見直し凍結」、高校無償化は5000億円かかるのに…石破首相の無責任すぎる財源論と「3つの違和感」

2026年度から私立を含め高校授業料が無償化される見通しとなった。受験生の選択肢が広がると歓迎の声があがる一方、公立校離れや教育格差の拡大などを懸念する向きもある。経済アナリストの佐藤健太氏は「進路の幅が広がるのはたしかだが、高校の統廃合や受験戦争の低年齢化につながる可能性がある」と指摘する。少子化が加速する日本で高校生はどこに向かうのか。
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石破首相が言う「教育の差」や「質の高い教育」に違和感
一歩前進したところ、その先は暗闇だった―。2月25日、石破茂首相(自民党総裁)と公明党の斉藤鉄夫代表、日本維新の会の吉村洋文代表(大阪府知事)による高校授業料無償化に関する合意内容は「その先」にあるものに不安を感じさせる。
現在の就学支援は、世帯年収が「910万円未満」の家庭を対象に年間11万8800円(公立・私立を問わず)が支給され、私立に通学する子供がいる家庭は「590万円未満」(世帯年収)の場合に年間39万6000円が上限となっている。この制度を改め、2025年度はまず「年収910万円の壁」を撤廃し、所得制限がなくなる。そして、2026年度からは私立を対象にした「年収590万円の壁」も見直し、支給上限は45万7000円に引き上げられる見通しとなった。
石破首相は2月26日の衆院予算委員会で「収入の多寡で教育に差がないようにする。質の高い教育を受けられることも目指していかなければならない」と説明。維新の吉村代表も「少子化と言われている中、行きたい学校に行けるようにした方が学校同士も切磋琢磨し、教育の質が上がっていくと思う」と意義を強調する。
高校授業料の無償化が子供たちの進路の幅を広げるのは間違いない。私立に通いたくても家庭の事情を理由に通学を諦める人は減ることだろう。ただ、石破首相が言及した「教育の差」や「質の高い教育」という言葉には、どうしても違和感を覚えてしまう。その理由は大きく分けて3つある。
1つ目は、「教育の格差」は本当に是正に向かうのかという点だ。親の収入の多寡が子供の環境に大きな影響を与えるのは論をまたない。幼稚園から大学まで全て私立に行った場合と、逆に国公立のみで進んだケースを比べると費用は3倍近くもの差が生じるといわれる。子供がたとえ私立進学を希望しても、やむにやまれず公立に進むケースは珍しくない。
無償化は親の収入格差是正に本当につながるのか
ただ、群馬県の山本一太知事は2月26日の記者会見で「子育て世代の負担が減るということについて言えば良いことなんだと思う」とした上で、「私立も全部無償化になったら、その余った分のリソースはきっと塾に投入される。むしろ収入の差が如実にあらわれるような、ややアンフェアな状況が作られるんじゃないかということを指摘する人もいるし、私学無償化するよりは公立をもっと充実させるべきじゃないかという意見もある」との声を披露した。
つまり、私立の授業料が「浮いた分」は通塾費用に回る可能性があるというわけだ。その意味では、高校授業料の無償化は親の収入による格差の是正には必ずしもつながらないと言える。私立の中高一貫校進学をにらめば、私立高の授業料を考えなくても良い分、中学受験に向けて小学生時代に通塾させる親が多く現われるだろう。小学生の学習塾費用は決して安くはなく、受験戦争の低年齢化に拍車をかけるとの見方もある。
2つ目は、「質の格差」だ。高校授業料の無償化は公立と私立の競争が激化し、教育の質向上につながることも期待されている。ただ、阿部俊子文部科学相は2月18日の記者会見で「私立高校の授業料支援の拡充に伴って、私立高校の進学を希望する生徒が増加する、公立高校の進学者数が減少する可能性がある」と述べている。