「競馬での儲けが財源」自民党の軽薄な農業政策に絶句…「怒られなさそうなところ」から巻き上げて国民を欺く

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「スマート農業」「構造改革」「競争力強化」農業政策を語るうえで、このような言葉は何度も登場してきた。しかし、それらの掛け声の裏で、現場の農家たちは疲弊し、次世代の担い手は減り続けている。単なる制度の不備ではなく、政治そのものが生み出した「農業崩壊」の構図とは何か。プレジデント元編集長で作家の小倉健一氏が、日本農政の根本的な問題点を掘り下げる——。

目次

自民党農政の怠慢によりほとんどが「手遅れ」

「今動かなければ手遅れになる」――2025年3月27日、自民党の食料安全保障強化本部などが合同で決議した「農業構造の集中転換」に盛り込まれた一文である。だが、なぜ今なのか。なぜ長年にわたり農業の危機が指摘されてきたにもかかわらず、政策転換が遅れたのか。結論を言えば、コメの問題でも散々してきしてきたことだが、自民党農政の怠慢は明白であり、多くの問題はすでに「手遅れ」である。

 たとえば「スマート農業」と呼ばれる取り組みでは、2019年から始まった「スマート農業実証プロジェクト」によって、国は数百億円ものお金を使って最新の機械を現場に導入してきた。ドローン、自動運転トラクター、土壌や気温を測るセンサーなど、見た目には「最先端」な機器ばかりが並ぶ。だが、これらが現場で本当に使われているかというと、まったくそうではない。

「スマート農業」で導入した農業機械は使用されないまま

 会計検査院が発表した報告書(令和4年(2022年)度決算検査報告)によれば、多くの場所で機械が「導入されたのに使われていない」「維持する費用が高すぎて使い続けられない」「導入してどう変わったのかも調べられていない」といった深刻な問題が起きていた。つまり、国は「実績を作るためだけ」に最新機械を配り、書類の上ではうまくいっているように見せかけていたのだ。実際には、使われないままの機械が農家の倉庫でホコリをかぶって眠っているという。

 このプロジェクトで導入された機器の多くは、1台で数百万円から1000万円以上もする高額なものである。購入のときは補助金が出たとしても、使い続けるには定期点検や修理、部品交換といったお金がかかり続ける。とくに高齢者ばかりの農村では、数年使っただけで動かせなくなり、結局は使わなくなってしまう例が多い。導入した時点で「持続できない」ことがわかっていたのに、それでも押しつけるように進められた。これは現場の実情を無視した政策であり、最初から破綻が見えていた愚策である。

「現場で本当に困っていること」がわかっていない自民党

 しかも、会計検査院の調査対象となった33の事業者のうち、16件――半分近くが「機械が使われていない」「使い続けられなかった」と記録されている。これは一部のミスや失敗ではなく、制度そのものに根本的な問題があるということだ。だが、自民党はその結果を反省するどころか、今回の決議文でもまた「スマート農業を推進」と言い出している。反省も見直しもないまま、失敗を繰り返し、税金を無駄に使い続ける。これこそが今の農政の病であり、自民党の無責任の象徴である。

 自民党の農業政策のいちばん大きな問題は、「現場で本当に困っていること」がわかっていないこと、そして「制度を続けること」自体が目的になってしまっていることである。つまり、本来は農家を助けるためにあるはずの政策が、いつのまにか「補助金を出すこと」「機械を買わせること」だけが目的になってしまい、実際には何の役にも立っていない。

 たとえば、国からの補助金で高価な農業機械を導入しても、使いこなせない農家が多く、そのまま倉庫に眠っていることもある。スマート農業といった聞こえのいい言葉とは裏腹に、実際の現場では「意味のない道具」と化している。その結果、農業者は国に対する信頼を失い、若い人はますます農業をやろうとしなくなり、高齢の農業者だけが残ってしまっている。自民党の農政は、このような悪循環を止めるどころか、むしろ加速させてきた。このまま自民に任せていたら、日本の農業が滅んでしまう。

「支援」ではなく「浪費」を繰り返している

「改革」や「転換」といった言葉を使うのは簡単である。しかし、やっていることはこれまでの政策の名前を変えて、見かけを取りつくろっているだけにすぎない。現場の声を無視したまま、新しいフリをして予算だけを増やし、税金をムダにしている。これはもう「支援」ではなく「浪費」である。

 自民党の農政は、頭で考えただけの空っぽな政策であり、農業を本当に続けたい人を追い詰め、未来の農業を壊している。これは無能であり、愚かであり、そして日本の農業にとって取り返しのつかない損害を与えるものだ。

 加えて、今回の決議では「別枠で思い切った規模の予算確保を」と明記されているが、これは裏を返せば、これまでの農業関連予算が構造改革の実効性を伴わず、政策目的に沿って機能してこなかったことを示している。

農業予算の財源はギャンブル…「怒られなさそうなところ」から徴収

 農業予算は例年2兆円規模で計上されているが、その多くが既存制度の温存に費やされてきた。たとえば2017年施行の農業競争力強化支援法に基づき設置された「農業競争力強化支援センター」には多額の交付金が支給されたが、実際の運用は地元JAや関連団体を通じた配分に終始し、構造改革の原動力にはなり得なかった(農業情報研究所『スマート農業に関する白書・報道事例の分析(2023年)』)という。

 決議の中では、財源として「競馬事業」などを例示しているが、これは無責任としか言いようがない。ギャンブルの儲けで農業を支え、たばこ税という嗜好品課税で防衛費をまかなう――これがいまの日本政府の財政設計である。これは戦略でも設計でもない。ただの姑息な「怒られ回避」でしかない。

 結局のところ、財務省も自民党も分かっているのだ。消費税や所得税を上げれば国民は激怒する。だから正面からの増税は避け、代わりに「怒られなさそうなところ」から金を巻き上げているだけである。「競馬の利益?どうせ文句は出ない」「たばこ税?吸う奴は減ってるし、どうせ国民全体には響かない」そんなことを思っているからこそ、農業や防衛という国家の根幹政策を、よりによって余剰金と罰金のような財源でまかなうという歪んだ構図が生まれる。

農業は基幹産業。ろくな議論もしないことに疑問

 だが、ふざけるなと言いたい。農業とは、我々の食を支える基幹産業である。防衛とは、国の独立と安全を担う最後の砦である。そこに必要な資金を、ろくな議論もせず、「取りやすいところから取っておこう」というだけの理由で捻出するなど、あまりにも軽薄、あまりにも無責任である。財政の健全化も、政策の信頼性も、この国の統治はすべて「怒られたくない」一心で歪められているのだ。

 怒られそうなところからは取らない。怒られなさそうなところからたくさん奪う――これがこの国の財政の本音である。増税を正面から論じる勇気もなく、財政の目的を誤魔化しながら、国民から気付かれずに搾取し続ける政権に、国家運営の資格はない。これは政治の堕落である。そして、我々がそれを黙って見過ごす限り、この卑劣な構図は永遠に続く。

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