中居氏、被害女性Aアナとのメール削除済み…400ページ近くの報告書に書かれた「社内のセクハラに非常に寛容」な企業体質に怒り

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 芸能界引退を表明した中居正広氏の女性トラブルをめぐり、フジテレビ(CX)の問題を調査していた第三者委員会は3月31日、「性暴力が行われ、重大な人権侵害が発生した」との調査報告書を公表した。取引先との良好な関係を築くために社員・アナウンサーらが利用されていた実態が不適切と認定され、事態把握後も中居氏を番組で起用し続けたことは「2次加害行為」にあたると断じた。

 ちなみに中居氏はトラブル後も体調を崩したアナウンサーとメール応答を続けていたとされる。そのやりとりについて「本事案における具体性のある行為態様及び女性Aの認識が含まれる」とし、第三者委は「性暴力」を認定した証拠の1つに挙げている。なお、「中居氏は、女性Aとのショートメールでのやりとりは削除済み」という。

 さて、フジ側はどこで何を間違えたのか。そして、スポンサーはいつ戻ってくるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「あまりに杜撰な体制と判断が明らかになった。スポンサー復帰は容易ではないだろう」と指摘するーー。

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公表された調査報告書は全400ページ近くに

「元社員が被害を訴えていたにもかかわらず、上司である局長から当時の社長まで人権問題ととらえなかったこと、被害女性に対して、会社は『自分より中居氏を守った』と思わせてしまったこと、被害女性をどれだけ傷つけてしまったかと思うと本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」。調査報告書の公表後、記者会見したCXの清水賢治社長は被害が「業務の延長線上」と第三者委に判断されたことを重く受けとめ、被害女性への思いを何度も重ねた。

 第三者委は、竹内朗委員長ら弁護士3人で構成。調査担当の弁護士も加わり、①CXの関わり②類似事案の有無③CXが事案を認識してから現在までの事後対応④CXの内部統制・グループガバナンス・人権への取り組み⑤判明した問題に関する原因分析、再発防止に向けた提言⑥その他第三者委員会が必要と認めた事項―の6点を委嘱事項とし、1月23日から3月30日まで開催された。

 公表された調査報告書は全400ページ近くに上る。調査対象期間はCXの情報管理システムが導入された2016年4月から今年3月26日までで、中居氏や被害女性、元編成総局編成局編成戦略センター室長兼編成部長のB氏をはじめ、フジの役職員および退職者や関係者など合計222人を対象に延べ294回のヒアリングを実施。デジタルフォレンジック調査の専門業者を起用したほか、役職員アンケートや専用ホットライン、ステークホルダーとの意見交換などを行ってきた。

 報告書を読むと、まず驚かされるのはCXの「人権意識」だ。第三者委は、中居氏の行為は「重大な人権侵害に当たる」と認定。被害女性は中居氏と業務上の関係性はあったものの、プライベートの関係はなかったとした。

組織として機能不全に陥っていた実態

 被害後にCXの上司は人権問題と捉えることができず、「思考停止に陥り、浅い思慮により対応方針を決定した」と指摘。当時の港浩一社長らはリスク認識を誤り、会社の危機感としての対処をしてこなかったと断じた。

 CXの親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(FMH)は、内部統制機能を高めるためコンプライアンス推進室を設け、その下に内部監査・内部統制・コンプライアンス整備の各担当を整備し、これとは別に総務局に法務部も設置されている。だが、中居氏と被害女性のトラブルに関しては“排除”され、組織として機能不全に陥っていた実態が明らかになった。被害女性の心身のケアを専門家ではない上司が担い、その場しのぎのように上司たちが判断していく様子が浮き彫りになっている。

 中居氏と親しかったCX編成制作局幹部B氏はチーフプロデューサーないし政策統括として、中居氏が不定期でゲスト出演していた『ワイドナショー』などを担当し、『まつもtoなかい』の番組企画・立ち上げに責任者として関与していた。B氏は中居氏の求めに応じて女性社員を食事会に何度も呼び出し、トラブル後には中居氏に弁護士も紹介。同僚であるCX社員を守るというよりも、出演者サイドの意向に寄り添っていた“歪な関係”が浮かぶ。

B氏が加害相手に弁護士を用意

 被害女性は入院後も上司らに相談しながら懸命に治療してきた様子が報告書に記されているが、専門家でもない上司たちはコンプライアンス推進室や医師らの見解を事実上遠ざけていた。その上、B氏が加害相手に弁護士を用意し、週刊誌の取材に対する協議の場にも参加していたというのだから呆れるしかないだろう。

 さらに驚くのは、CXには他にも「ハラスメント事案」がありながら放置されていたことだ。第三者委が「重要な社内ハラスメント事案」と認定したのは、現役の男性キャスターが2006年頃、女性社員をドライブや映画、飲食などで1日拘束していた行為だ。次回の誘いを断ると職場で不当な叱責などがなされ、「セクハラやパワハラに該当しうる」とされた。第三者委は「当該ハラスメント行為を申告した女性社員に対してCXのとった対応が不適切」と指摘し、セクハラやパワハラを相談してもムダと思わせる結果になっているとの意見が寄せられたという。

「私が受けた被害は一生消えることはない」

 言うまでもなく、パワハラやセクハラ行為が生じれば通常は社内ガバナンスが機能しなければならない。見て見ぬふりが横行した「昭和の価値観」は決して許される時代ではない。にもかかわらず、相談してもコンプライアンス推進室に共有されなかったり、専門家の見解が尊重されなかったりしていれば話にならないのは当然だ。

 調査結果の公表を受けて、被害女性は「本事案後の中居氏と編成部長であったB氏とのやりとりやフジテレビの当時の港社長らの対応など、この調査報告書で初めて知った事実も多く、改めてやり切れない気持ちにもなっています」とした上で、「私が受けた被害は一生消えることはなく失ったものが戻ってくることはありません。このようなことがメディア・エンターテインメント業界だけでなく、社会全体から無くなることを心から望みます」とのコメントを発表した。報告書に並べられているCXの体質を見る限り、「被害」を受けた側は十分にケアされず、相手側が昇進していくというのでは全く理解に苦しむところだろう。そのようなことが続けば、社内に「上司に相談してもムダ」と我慢してしまう負の連鎖が生じるのは当たり前と言える。

「社内のセクハラに非常に寛容」な企業体質

 会見した清水社長は「特定の社員においては、加害者の利益のためと見られる行動にまで及んでいたと指摘されています。そのような行為は決して許されるものではありません。被害女性の心に寄り添うことができなかったどころか、本人に会社は守ってくれないという思いを抱かせ、退社の道を選択するしかないなと苦しい思いをさせてしまいました」と説明。企業風土については「全社的にハラスメント被害が蔓延していたと厳しい評価も受けています。指摘されたハラスメント事案については、当社として必要な事実確認をした上で、速やかに関係者に対する厳正な処分をいたします」と述べている。

 ただ、報告書はCXについて「社内のセクハラに非常に寛容」な企業体質があったと断じ、竹内委員長は「私どもが着目したのは若い女性社員やアナウンサーが呼ばれていくということが問題であるという認識を持った」「取締役のガバナンス機能が不全だった」と厳しく指摘した。清水社長はCX復活に向けた「再生・改革プロジェクト」として、コンプライアンス体制の実効性強化やコンプラ違反などの処分厳格化、会食・会合ガイドラインの策定、人権・コンプラ研修の実施、通報制度を利用できる対象範囲の明確化などをあげたが、それらが本当に実効性を持つのか今のところ見通せない。企業存続をかけた改善策の実行が迫られる。

スポンサー企業はいつ戻ってくるのか

 では、CM出稿を見合わせているスポンサー企業はいつ戻ってくるのか。名だたる大企業がコメントしているのは、CXの人権侵害を容認しない再発防止策の具体性と実効性を見極めながら慎重に判断するということだろう。ガバナンス上の問題が解消されるかどうかを総合的に判断するというのは、CM出稿は当面見送るということだ。一部の企業は再開を検討しているが、かつての状況に戻るまでには時間がかかるとの見方が強い。

 筆者は、第三者委の報告書公表後に数社のナショナルブランドの幹部に聞いてみたが、いずれも歯切れが悪かった。「いつ、CM復帰するかって?そんなことは、まだわからないよ」という感じなのだ。突き詰めていくと、政府関連の広告出稿も当面見合わせを継続する中で「どこがババを引くのか」ということになる。ある大企業幹部は「CM復帰すれば、メディアから『なんで戻ったのか』と問い合わせされ、ブランドに影響する可能性がある。どこか影響力のある企業が戻ってからでなければ判断はできない」と打ち明ける。

 要はCXの再発防止策の具体性というよりも、CM出稿をめぐり企業間の「お見合い」状態が続いているということなのだ。そこには40年以上も事実上のトップとしてCXに君臨したフジ・メディア・ホールディングス(FMH)の日枝久取締役相談役(退任予定)の存在も影響しているのだという。

日枝氏「現在でも経営に強い影響力」があったと認定

 報告書は日枝氏の責任についても触れ、フジ・FMHのトップ人事を決定し、ブラックボックスにおける意思決定が常態化していたとする。組織風土の醸成に与えた影響は大きく、「現在でも経営に強い影響力」があったと認定された。日枝氏は、産経新聞社取締役相談役やサンケイビル取締役、共同テレビジョン取締役など10社以上の重役を務めており、政財界での幅広い人脈をにらめば1つの企業体の「ドン」をはるかに上回る存在感を放っていたのは間違いない。

 報告書は「日枝氏の影響力を排除すれば、コーポレートガバナンスが機能するという安直な見方に第三者委員会は関与しない」と否定的な見方をしている。これまで日枝氏との関係性も考慮してきた企業としては、「ドン」不在のCXでコーポレートガバナンスが本当に機能するのか、実際どのような組織に生まれ変わるのかを慎重に見極めていきたいようだ。別の大企業幹部は「影響力がある2~3社が復帰したら、うちも考えないといけない」と話す。

 第三者委員会の報告書で明らかになったのは、社内外でハラスメント事案が生じながら十分な対処をしてこなかったという組織の機能不全だ。清水社長が掲げた改善策には当たり前のことが並んでいるが、制度やコンプライアンス推進室がありながら機能しなかった企業体質を本当に変えられるのか。大逆風下の再生は茨の道が続きそうだ。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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