玉木総理爆誕に自民党内からも待望論…どんな内閣になる?経済アナリスト「経済対策人気、30代以下で高い支持」

石破茂政権が低空飛行を続ける中、「玉木首相」待望論がにわかに広がっている。今夏の東京都議選や参院選で玉木雄一郎代表が率いる国民民主党が躍進し、少数与党の石破首相に代わって玉木氏が国のトップに就くという期待感だ。首相への意欲は「当然ある」と鼻息も荒い玉木氏は、ついに国家の牽引役を担うことになるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「『玉木首相』を担ごうとする声は与野党にある。ただ、政権交代を果たしても別の少数与党が誕生するだけ。同党が掲げる政策実現は容易ではない」と見る。
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玉木総理、爆誕の可能性
「選挙後、今の政党の枠組みが残るとは思えない。結果によっては政治状況が変化する」。国民民主党の玉木代表は5月17日の講演で、このように政界再編の可能性に言及。その上で「複数政党で重要政策を進める形になる。政策一致があれば、野党とも、与党とも協力する」と宣言した。
昨年の衆院選前であれば、玉木氏の発言は少数政党の代表による「言うだけ」に過ぎないと受けとめられただろう。だが、2024年10月の総選挙で国民民主党は公示前の7議席から4倍の28議席に躍進した。物価高で国民が苦しむ中、「手取りを増やす」と減税や社会保険料の軽減策を訴え、若年層を中心に支持を集めることに成功したのだ。
もちろん、これまでにも既成政党からソッポを向く人々の「受け皿」は存在してきた。渡辺喜美代表が創設した「みんなの党」や、元大阪府知事の橋下徹氏と松井一郎元大阪市長らがつくった日本維新の会(大阪維新の会)などは時の政権与党に焦りを抱かせた。だが、今の国民民主党の勢いは当時とは異なると言える。
1つは、史上最長政権を築いた自民党の安倍晋三首相のような強固な政権を石破氏が築いていない点。もう1つは、いまだ少数政党であるにもかかわらず政党支持率が「野党第1党」に肉薄し、特に若年層の支持を集めている点だ。まず、「一強多弱」といわれた安倍政権時代であれば、現在のような期待感は見られなかったはずだ。その理由は、安倍氏が保守政治家として「岩盤支持層」と呼ばれる保守層を固め、若年層にも支持を広げていたことにある。だが、石破政権はリベラル色が強く、「岩盤」は離れる一方だ。日本保守党や参政党といった新興勢力の誕生も追い打ちをかける。
40歳以下だと支持率トップの国民民主
自民党、公明党による連立与党だけでは衆院で過半数に満たず、力強いリーダーシップを発揮できない点も「自民党離れ」を加速させているように映る。
近年は物価上昇局面にあるにもかかわらず、石破政権は何ら国民の負担を和らげる減税や支援策を打ち出せていない。それらが国民民主党の躍進につながっていると見ても良いだろう。野党第1党の立憲民主党は従来の支持層に支えられているものの、国民民主の支持層は若年層を中心に「既成政党」を嫌う無党派層にも広がる。
日経新聞とテレビ東京が実施した5月23〜25日の世論調査によれば、今夏の参院選投票先は自民党が26%でトップを維持。2位は立憲民主党、国民民主党の12%だった。40・50代は自民党(26%)が首位であるものの、39歳以下は国民民主の27%が最多となった。この傾向は他の世論調査も同じだ。NHKの調査(5月9日から3日間)でも18~39歳に限ってみれば国民民主党の支持が12.7%に上り、全体トップの自民党の10.7%を上回った。
玉木政権が誕生した場合はどのような内閣になるのか
さらに朝日新聞社が5月17、18日に実施した世論調査を見ると、「首相にふさわしい人物」として玉木代表は2位の12%を集めている。トップは石破首相の21%となっているが、立憲民主党の野田佳彦代表(11%)を超えている点は注目すべきだ。特に「男性」では玉木氏が18%を集め、石破氏(17%)を上回っている。
ちなみに、この調査では「よいと思う政権の枠組み」として、「いまの政権に野党が加わる」が49%と最も多く、「いまの野党のみの政権」(22%)、「いまの自民と公明の政権」(17%)を大きく離している。人々が望む政権として「国民民主党」「玉木雄一郎代表」が認識されてきた証左と言えるだろう。
では、玉木政権が誕生した場合はどのような内閣になるのか。まず言えるのは、いかに都議選や参院選で勝利をおさめたとしても国民民主党の「単独政権」とはならない点にある。つまり、玉木代表が宰相に就くためには自民党や公明党と連立政権を組むか、あるいは立憲民主党や維新などと現在の野党で政権を樹立するかを迫られる。だからこそ、玉木氏は先に触れた講演で「複数政党で重要政策を進める形になる」と説明しているのだ。
玉木代表は自民、公明両党との協力関係が欠かせない
この2者のうち、玉木氏がどちらを選ぶのかによって政権の形は大きく異なる。
仮に今の政権与党である自民党や公明党との連立政権を組む場合はどうなるのか。現在の衆院会派(5月14日現在)を見ると、最大会派は「自民党・無所属の会」の196人だ。これに連立与党の「公明党」(24人)が加わるが、合わせても衆院(465人)の過半数には届かない。野党第1党の「立憲民主党・無所属」は148人で、「日本維新の会」は38人、そして「国民民主党・無所属クラブ」が27人となっている。他は「れいわ新選組」(9人)、「日本共産党」(8人)、「参政党」(3人)、「日本保守党」(3人)、「無所属」(5人)だ。
理論の上では、野党・無所属の議員たちがまとまれば衆院で与党の数を上回る。だが、現実的には政策や主義・主張、理念の違いから今の野党だけ政権を樹立させることは容易ではない。なにより、衆院で多数派を形成できたとしても参院は現在の連立与党が多数を占める。
総定数が248の参院で今夏に任期満了を迎えるのは124人だ。2028年7月に任期満了を迎える議員(124人)のうち、自民党は61人、公明党は13人いる。一時は飛ぶ鳥を落とす勢いといわれた国民民主党とはいえ、非改選組を含めた全体の過半数を超える議席を獲ることは考えにくい。つまり、政党支持率や国政選挙での得票数、さらに参院での国会運営をにらめば玉木代表は自民、公明両党との協力関係が欠かせないことになるはずだ。
「連立を組まないとは言っていない」
玉木氏は5月17日、都内での講演で「連立を組まないとは言っていない。どこと組むかを明確に言っていないだけだ」と説明した。その上で「連立に入るだけではなく、複数の政党で重要な政策を前に進める形になる」と語っている。当然ながら、単独政権樹立が困難であり、自らが宰相に就きたいならば他党との連立政権を組むしかない。だが、いまだ少数政党であることを前提とすれば、与党とも野党とも協力しながら政権運営するしか道はないと考えていることだろう。
とはいえ、衆院で少数与党である今の石破政権を見れば安定政権を築くのは容易ではないはずだ。夏の参院選後に「玉木政権」が誕生すれば、年末の来年度予算案の編成、税制改正大綱の作業にすぐに取りかからなければならない。だが、これまで自民、公明、国民民主の3党で協議を重ねてきたものの、「103万円の壁」見直しやガソリン税の暫定税率廃止などの詳細な制度設計をめぐっては大きな開きがあるままだ。これらが年末までの短期間で一気に決着するとは考えにくい。
自民党内でも広がる玉木総理待望論
もちろん、「直近の民意」を背景に玉木氏ら国民民主党は政策実現に全力を傾けるだろうが、連立を組む以上は自民党や公明党の了承も必要になるのだ。ある自民党閣僚経験者は「一度政権を担ってもらえば、どれだけ実現が難しいのかわかるはずだ」と突き放す。さらに別の党3役経験者も「『玉木首相』が誕生して、何も変わらなければ国民民主党の期待は一気に萎むだろう」と見る。
要するに、自民党としては最近の大逆風で内閣総理大臣の座を明け渡すものの、国民民主党と連立政権を組むことができれば「与党議員」として生き残ることができる。さらに国民民主党への期待感が失われれば、次の国政選挙で再び勝利をつかむことにつながるという読みがあるのだ。この点において、自民党内にも「玉木首相」待望論が広がっている。
現時点で当の玉木代表や国民民主党幹部は、参院選後にどのような選択肢を選ぶのかは何も明言していない。今の与党、今の野党と組むにせよ、フリーハンドを確保しておきたいとの思いからだろう。最近は注目度が上昇したことによって幹部の失言などもニュースに取り上げられる機会が多くなった。いくら政党支持率が上昇しても、それが一過性に終わるリスクも残る。
「攻撃するのは強いが、守備は弱い」というのが従来の野党だった。それが与党入りした時、玉木氏らはきちんと国家の羅針盤となることができるのか。それは自民党政権とどのように違うのか。久しぶりに、うっすらと見えつつある政界再編。今夏の都議選、参院選はひょっとしたら、ひょっとするかもしれない。