わかりやすく腐敗…進次郎をぶった斬ったJA出身・野村元農相「談合と支配欲」私もコメを買ったことがありません!

(c) AdobeStock

 かつての農政トップが「コメは買ったことがない」と笑い飛ばす──鹿児島での野村哲郎元農相の発言は、ただの失言では済まされない。高騰する米価に苦しむ国民を尻目に、旧態依然の農協制度と自民党農水族による利権支配の実態が、改めて浮き彫りになった。小泉進次郎農相による備蓄米の流通改革には民間から支持が集まる一方、制度を守る側の抵抗は根深い。いま必要なのは、形式主義や密室政治の打破ではないか。経済誌プレジデント元編集長・小倉健一氏が鋭く斬る、農協と政治の癒着構造とは。

目次

小泉進次郎農相に「党に相談がなかった」として苦言

 農水族とJAの劣化ぶりが、ついにここまで来た。鹿児島県で行われた国政報告会にて、野村哲郎元農相は「コメは買ったことがない」「カリフォルニア米はまずい」と笑いながら語った。国民が米価の高騰に苦しんでいる只中での発言である。農政トップ経験者が現場感覚を欠いたまま、公の場でこうした軽薄な発言を連発した事実は、単なる失言の域を超えて、制度全体の腐敗と鈍感を象徴している。

 野村氏は、鹿児島県農協中央会常務理事などを務めたJA出身の自民党農水族だ。

 JA出身の野村氏は、備蓄米をスーパーで放出した小泉進次郎農相に対し、「党に相談がなかった」として苦言を呈した。党内根回しの不足を問題視する姿勢は、意思決定のスピードと透明性を求める現代の行政運営に逆行するものであり、既得権益層による統治慣行の復権を公言しているようなものだった。小泉農相の反論「すべて党に諮っていたら何もできない」は、形式主義に凝り固まった農政官僚的感覚へのまっとうな批判であり、国民目線で支持されるべき発言である。

 今回の備蓄米放出に関しては、民間側からも強い支持が寄せられている。ディスカウント大手のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(ドン・キホーテ)による意見書では、米流通における構造的な非効率性と価格高騰の背景が明確に指摘された。一次問屋がJAと特約的な関係で固定されており、新規参入が阻まれている現実。多重構造により五次問屋まで存在し、各段階でマージンが重ねられるため、消費者が払う価格は過度に高騰している。これを是正するには、中間構造を解体し、JAとの直接取引や透明な価格開示を前提とした競争導入が必要だとドンキは提言している。

野村元農相の発言は、もはや自己利益の擁護にしか聞こえない

 ドンキの提言は、店や消費者の視点から現場をとらえ、農協の仕組みを遠慮なく批判している点で評価できる。コメの流通で特定の相手としか取引できない状態や、古い慣行が新規参入を阻んでいる。これを守ろうとするJA出身の野村元農相の発言は、もはや自己利益の擁護にしか聞こえない。

 自民党農林族が農協を政治の支えにしている限り、制度の歪みは放置され、消費者も農家も損をする構造は変わらない。野村元農相の発言は、仲間内の利益で完結する農政のあり方をそのまま体現している。農協が政治に保護されてきた実態を、自分の言葉で証明しているようなものであろう。

「食料安全保障」の名のもとに、閉鎖的なコメ流通や古い制度を維持しようとする農協幹部の自己肯定感が、今のコメ高騰の背後にある。

 農協の非合理性は、複数の研究でも指摘されている。福田順の『農協(JA)組織のガバナンス改革の検討』(2017年、同志社大学)では、日本の農協が直面する制度的変化を、都道府県別のパネルデータを用いて数量的に分析し、「会社化」が進んだJAの方が、伝統的な協同組合型JAに比べて一貫して収益性が高くなる傾向を示している。この「会社化」とは、協同組合内部の一部機能を分社化・法人化し、子会社運営や経営管理委員会制度などを導入することにより、意思決定の迅速化、事業ごとの責任明確化、外部からの資本調達や運営の柔軟性を可能にする改革的な動きである。

「会社化」が進んだJAの方が、伝統的な協同組合型JAに比べて一貫して収益性が高くなる傾向

 福田氏は、会社化の進行度を3つの指標──理事会の構成、経営管理委員会の導入、准組合員の割合──で定義し、それぞれの項目がJA全体の粗利益率や経常利益にどのような影響を与えているかを分析している。結果として、協同組合の伝統的な運営スタイル(農家による直接的なガバナンスと相互扶助型の決定構造)よりも、企業的な統治構造を取り入れたJAの方が、明確に高い収益性と経営効率を達成していることが確認された。

 例えば、経営管理委員会制度を導入したJAでは、意思決定が理事会による多数決に依存せず、専門性の高い管理判断が可能となり、収益性にプラスの効果が出ている。また、子会社化によって購買・販売・金融などの事業が明確に切り分けられ、部門ごとの収益管理とコスト意識の徹底が促され、赤字体質から脱却できた例も複数報告されている。

「農民だけの互助組織」の維持は収益性を損ない、時代の要請に逆行する恐れ

 さらに、准組合員(非農業従事者)比率が高いJAの方が、地域密着型サービスを提供する上で柔軟かつ多様な需要に対応でき、結果として経営指標の改善に結びついていることもデータが裏付けている。

 福田氏はこうした結果を踏まえ、農協を「農民だけの互助組織」として固定的に維持することはむしろ収益性を損ない、時代の要請に逆行する恐れがあると警鐘を鳴らしている。農業の現場が多様化・商業化する中で、協同組合という枠組みに閉じたままではなく、企業的な要素を部分的に導入することで、持続可能性と効率性を両立できるJAのモデルが形成されつつある。

 すなわち、制度に守られて農家を囲い込むことを目的とする閉鎖的な農協ではなく、外部との競争にさらされながら、自ら選ばれる仕組みをつくることこそが、現代の農協に求められる転換点である。福田氏の研究はその実証的基礎を提供しており、改革派農協に対する明確なエビデンスとして高い価値を持つ。

コメ高騰のたび「お米は国の柱(=聖域)だ」という主張が繰り返されてきた

 宮部和幸の『農協部会組織の活性化に関する課題』(2004年、神戸大学)では、JA内部の部会組織が高齢化と活力低下に直面し、農家の脱退が進む中、離脱者には情報も補助金も届かなくなるという“暗黙の制裁”が確認されている。これは協同組合というよりも囲い込みに近い。

 購買、販売、金融などの機能が制度的に一体化し、地域で独占状態になっているJAから離れるには、金銭的な不利益だけでなく社会的なリスクも伴う。こうした現実を無視して「党に相談せよ」と制度防衛に終始する政治家がいる限り、改革は進まない。

 コメが高騰するたびに「お米は国の柱(=聖域)だ」という主張が繰り返されてきたが、流通の透明化や価格妥当性の検証は後回しにされてきた。備蓄米をスーパーで売るという小泉農相の判断は、形式的な役所手続きを飛び越えた政治判断だった。結果として、安価なコメが現場に届き、消費者は供給を実感できた。遅れた制度に対し、迅速な決断が一時的にせよ機能した事例だった。

 ドン・キホーテの意見書は、小売業の立場からコメ流通の問題を明確に提起している。JAと特約的な関係にある一次問屋と、その下に続く多重問屋構造が中間コストを膨らませている。これを是正するには、中間を減らし、JAとの直接取引を可能にし、価格を透明にして競争を促す仕組みが必要になる。

野村氏の姿勢からは、社会的責任や国民目線は感じられない

 市場原理に基づいた改革は、農家に利益をもたらすのだから、自民党農水族が率先して行うべき仕事だった。それを放棄し、「党に相談しろ」「勝手に発表するな」と発言する野村元農相は、形式主義と利権保護に凝り固まった旧体制の象徴でしかない。処理水を「汚染水」と発言し批判された際にも「悪いことを言ったつもりはない」と語った野村氏の姿勢からは、社会的責任や国民目線は感じられない。

 農政は、利権の温存装置であってはならない。農協制度の存在が悪なのではない。問題はその制度が農家にとって「選べない」ものになっており、政治がそれを守っている点にある。農協を通さなければ補助金も情報も得られない構造が温存されている。形式上の自由とは裏腹に、実質的には強制と依存が制度化されている。

 備蓄米の販売方法ではなく、流通を縛る制度そのものを見直すべきだ。野村元農相と農協の関係は、古い合意主義と支配構造の温存の象徴である。農業を強くするには、消費者の信頼、農家の選択の自由、小売業の参入機会を保障する開かれた制度が必要だ。

    この記事はいかがでしたか?
    感想を一言!

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

政治・経済カテゴリーの最新記事

その他金融商品・関連サイト

ご注意

【ご注意】『みんかぶ』における「買い」「売り」の情報はあくまでも投稿者の個人的見解によるものであり、情報の真偽、株式の評価に関する正確性・信頼性等については一切保証されておりません。 また、東京証券取引所、名古屋証券取引所、China Investment Information Services、NASDAQ OMX、CME Group Inc.、東京商品取引所、堂島取引所、 S&P Global、S&P Dow Jones Indices、Hang Seng Indexes、bitFlyer 、NTTデータエービック、ICE Data Services等から情報の提供を受けています。 日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。 『みんかぶ』に掲載されている情報は、投資判断の参考として投資一般に関する情報提供を目的とするものであり、投資の勧誘を目的とするものではありません。 これらの情報には将来的な業績や出来事に関する予想が含まれていることがありますが、それらの記述はあくまで予想であり、その内容の正確性、信頼性等を保証するものではありません。 これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、投稿者及び情報提供者は一切の責任を負いません。 投資に関するすべての決定は、利用者ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。 個別の投稿が金融商品取引法等に違反しているとご判断される場合には「証券取引等監視委員会への情報提供」から、同委員会へ情報の提供を行ってください。 また、『みんかぶ』において公開されている情報につきましては、営業に利用することはもちろん、第三者へ提供する目的で情報を転用、複製、販売、加工、再利用及び再配信することを固く禁じます。

みんなの売買予想、予想株価がわかる資産形成のための情報メディアです。株価・チャート・ニュース・株主優待・IPO情報等の企業情報に加えSNS機能も提供しています。『証券アナリストの予想』『株価診断』『個人投資家の売買予想』これらを総合的に算出した目標株価を掲載。SNS機能では『ブログ』や『掲示板』で個人投資家同士の意見交換や情報収集をしてみるのもオススメです!

関連リンク
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.