来年4月開始「独身税」子ども・子育て支援金制度!一人あたりの徴収料はいくらなのか…恩恵を受ける人はどんな恩恵うけられる?

皆さんは、来年4月に「独身税」がスタートすることをご存じだろうか。子ども・子育て支援金制度に基づくもので、1人あたり月額250~450円が医療保険に上乗せされる形で段階的に徴収される。政府は「全世代・全経済主体」が子育て世帯を支える連帯の仕組みと説明しているのだが、その恩恵は子育て世代に集中する。要は「独身貴族」にとっては実質的に単なる負担増となるのだ。経済アナリストの佐藤健太氏は「あらゆる物価が高騰する中で『実質増税』となれば、生活に余裕がない人は政府からの追撃で窮するのは間違いない」と見る。
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少子化対策のための特定財源
2024年6月に成立した改正子ども・子育て支援法は、「全世代・全経済主体が子育て世帯を支える新しい分かち合い・連帯の仕組み」をうたう。こども家庭庁の公式サイトを見ると、子ども・子育て支援金制度は、児童手当の抜本的拡充など3兆6000億円規模の給付拡充に向けて「経済政策と調和した財政枠組みとするとともに、若い世代の方々が将来に展望を持てるよう、責任を持って安定財源を確保する必要」があると説明。必要となる予算は「歳出改革や既定予算の活用を最大限図った上で、2026年度から2028年度にかけて段階的に構築する少子化対策のための特定財源です」とある。
急速に進む少子化、人口減少に歯止めをかけなければ、我が国の経済社会は縮小し、地域社会、年金・医療・介護などの社会保障制度を維持することが難しくなることは万人が理解するところだろう。岸田文雄前政権は2023年12月に「こども未来戦略」を策定し、①若者や子育て世代の所得を増やす②社会全体の構造や意識を変える③すべての子供と子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援する―の3点に重きを置いた施策を練り上げた。3兆6000億円規模の財源としては、1兆5000億円は既定予算を活用し、歳出改革で1兆1000億円を捻出。残る1兆円は「子ども・子育て支援金」制度を設けて社会保険料に上乗せする形で徴収する。
政府は、高齢者や企業を含む全世代・全経済主体から拠出することで、現役世代の拠出額を抑制できとした上で「支援金制度の創設によって社会保障負担率(国全体でみた国民所得に対する社会保険料負担の割合)が上昇しないようにします」と説明してきた。これから結婚・出産を控える人、子育て世帯を国全体で応援する仕組みと言える。
独身や出産・子育てと関係のない人々にとっては「実質増税」
主な支援策を見ると、児童手当は3歳未満の第1子と第2子は月額1万5000円、3歳以上高校生年代(18歳の年度末)までは月額1万円、第3子以降は全期間で3万円に拡充されることになった。これまで支給回数は年3回(4カ月分)だったが、昨年10月以降は年6回(2カ月分)に分けて支給されている。また、従来は主たる生計者の年収が960万円以上のケースなどは受給が制限されていたが、所得にかかわらず全額支給される。この他にも、妊婦のための支援金や出生後休業支援給付金、育休時の時短勤務給付などがある。
支援金制度の創設に伴い、子ども1人あたりの支援総額は0~18歳までの合計で約352万円になるという。現行の平均的な児童手当額である約206万円に新たな支援として約146万円が乗る計算だ。高齢者向けの社会保障給付が急増する中で、若者や現役世代に対する予算を大幅に増やすのは良いことだろう。少子化から反転する機会を見いだしたいとの狙いも理解できる。
ただ、子ども・子育て支援金が「イタい」のは、独身や出産・子育てと関係のない人々にとっては「実質増税」となる点だ。こども家庭庁が試算した医療保険加入者1人あたりの平均負担(月額)を見ると、2026年度は250円、2027年度は350円、2028年度は450円とある。年間で3000~5400円の負担増となる。年収などに応じて負担額は変動するため、それよりも多い人もいるだろう。ちなみに、年収400万円の被保険者のケースでは2028年度に月額650円(年7800円)の負担となる見込みだ。
「この程度の対策」で少子化からの反転できるのか
岸田首相(当時)が「待ったなしの課題」「少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」と危機感を募らせた少子化対策には、ネット上で子育て世帯から「よくやってくれた」「ありがとう」という声もあがる。企業にも労働力確保の観点から受益があると見ることもできるのはたしかだ。
だが、そもそも本当に政府の偉い人たちは「この程度の対策」で少子化からの反転を果たせると考えているのだろうか。たしかに、これまでの子育て支援策に比べれば拡充されているのは事実だ。それによって恩恵を得られる人々もいるだろう。しかし、最近の物価上昇の波を考えれば「国民の負担」は日に日に増えてきた。
これだけのメニューしか並べられないのは「イタい」としか…
総務省が5月30日発表した5月の東京都区部の消費者物価指数(2020年=100)を見ると、生鮮食品を除く総合は110.5と前年同月に比べ3.6%上昇。3カ月連続で伸び率が拡大し、2023年1月以来の水準となった。コメ類は93.7%も上昇している。
日々の生活に窮する人々がいる中、子育て世帯以外の大半が恩恵を得られない「支援金制度」をスタートさせることには疑問を持たざるを得ない。仮に、政府のお偉いさんが「経済面」だけで結婚や出産を人々が控えていると考えているのならば、なおさらのことだ。様々な角度から「待ったなしの課題」に向き合うのは良いが、「全世代・全経済主体」に負担増を強いておきながら、これだけのメニューしか並べられないのは「イタい」としか言いようがない。
そもそも岸田前首相は「増税メガネ」と揶揄されたように、様々な増税プランや社会保険料アップを机上に乗せてきた。子育て世代を中心にお金はバラまくものの、「あとは知らない」というのでは将来の生活を不安視する人が多いのではないか。年金受給額の減少や受給開始年齢の70歳への引き上げなどがささやかれる中、「今さえ良ければ構わない」と考える人は少ないはずだ。
国民に負担増をお願いするならば自分たちの足元をもう一度見つめ直せ
物価高騰というニュースが連日のようにニュースで流れる今、「年収103万円の壁」見直しも「ガソリン税の暫定税率廃止」にも本腰を入れない石破茂政権には国民の視線も厳しい。要は、少子化からの反転という「大義」は良いとしても、財源の狙いどころもタイミングも悪いと言えるのだ。
そもそも、少子化対策に集中的に取り組む「加速化プラン」において、歳出改革で1兆1000億円程度しか捻出できないというのは疑問でしかない。国家や国民のために真に必要な事業を除き、聖域なき事務事業の見直しを進めた形跡はみられない。何かと言えば、「財源ガー」「国債利回りガー」と政府は言うものの、国民に負担増をお願いするならば自分たちの足元をもう一度見つめ直すべきではないか。
石破首相が新人議員に「商品券10万円相当」を配っていたり、農林水産相が「コメを買ったことがない」と大放言を放って辞任したり、どうも今の政府は国民感覚とは離れている気がしてならない。
生活が脅かされている人にも目を向けるべき
後任の小泉進次郎農水相は備蓄米放出で随意契約に踏み切り、高止まりするコメ価格を下げようと汗をかいているが、これができるのならば昨年夏以降の高騰は何だったのかと言いたくなる。
このまま行けば、今夏の東京都議選や参院選で政権与党に厳しい審判が下される可能性もあるだろう。だが、誰が首相になっても国民感覚と離れているのでは困る。誤解を恐れずに言えば、物価高対策が十分ではない場合、来年4月からスタートされる「独身税」「実質増税」は延期してはどうか。子ども・子育てを支援するのも良いが、同時に日々の生活が脅かされている人にも目を向けるべきだ。