小泉大臣、お米買い溜め業者に「コメ抱えてる人いる。出してもらう」…戦え!「自民党農水族が守りたいのは農家ではなく利権だ」

日本の農業の未来のために、小泉進次郎農林水産大臣が打ち出した新たな政策が注目を集めている。長年続いてきた米の流通システムに疑問を投げかけ、透明性の確保を強く訴える小泉大臣。大手業者だけではなく、中小の米屋にも米が行き渡るように方針を転換し、消費者が自由に選べるような市場を作ることで、生産者にも消費にも良い影響を与えることを目指している。また、備蓄米が足りなくなった場合に、外国から米を輸入することも視野に入れているという柔軟な姿勢も見せている。その一方で、伝統的な農業のあり方を守ろうとする勢力も根強く存在する。JA(農業協同組合)関係者からは、既存の仕組みや価格を守りたいという意見が強く出ており、小泉大臣の改革案は実行に移される段階で骨抜きにされる可能性もある。そんな日本の農業における新しい動きと、それに反発する勢力を、経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が徹底解説する。今、一体日本で何が起きているのかーー。
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「営業利益はなんと対前年比500%くらいです」
日本の農業が将来にわたって力を持ち続け、日本人の食を支えていくためには、時代に合わせた新しい取り組みや、農家がより自由に活動できる環境づくりが欠かせない。近年の米価を巡る動きの中で、小泉進次郎農林水産大臣が6月5日に示した考え方は、農業が抱える根深い問題点に光を当て、新たな可能性を感じさせるものがあった。
進次郎大臣は国会において、一部の大手米卸売業者の「営業利益を見ますと、営業利益はなんと対前年比500%くらいです」という驚くべき実態を明らかにし、米の流通の仕組みが非常に複雑で、外からは見えにくい部分があると強く訴えた。また、YouTube番組では「この中で(コメを)抱えてるという人もいて、抱えている人は高く買っているので、安く出さないですよね。だからその人たちも出してもらうような、環境を作っていかないといけない」とも発言した。
これらの発言は、長らく当たり前とされてきた米の流通のあり方に疑問を投げかけ、もっと分かりやすく、公正なものに変えていこうという強い意志を示すものであった。農業に関わる情報が広く開かれ、誰もが納得できる形で取引が行われるようにすることは、特に中小規農家が元気になるための大切な一歩だ。
進次郎大臣は、備蓄米を市場に供給する際にも、これまでの画一的なやり方を見直し、話し合い(随意契約)によって大手スーパーだけでなく、町の中小の米屋さんにも米が行き渡るようにする方針転換を5月28日に示した。
政策の実行には一部、朝令暮改のような戸惑いも
政策の実行には一部、朝令暮改のような戸惑いも見られたが、最終的に、様々な品質や価格の米がお店に並び、消費者が自由に選べるようにしようとした点は評価できる。消費者が多くの選択肢の中から自分に合ったものを選べるようにし、それによってお店の間でより良い品をより安く提供しようとする動きを促すことは、結果として米を作る農家にとっても、米の品質を高めたり、新しい工夫をしたりするきっかけを与える。
もうひとつ、進次郎大臣の注目すべき発言が、6月6日の記者会見であった。備蓄米が足りなくなった場合に、外国から米を緊急に輸入することも考えるという発言は、国内の米だけに頼るのではなく、世界の食料事情も視野に入れて国民生活の安定を考えていくという柔軟な姿勢の表れである。農業経営を安定させるためにも、昔ながらの補助金に頼るだけでなく、農家の収入を保障する保険制度の活用を進めようとした考えも、農家が自らの力で経営の安定を図ることを重視した新しい試みであった。これらの発言は、農業をただ守る対象として囲い込むのではなく、社会の変化に対応しながら成長していく産業へと変えていこうとする意欲を感じさせる(ただし、自民党族議員とJAが、競争的な方向の改革を許すわけがないので、実行に移される段階で骨抜きにされるだろう)。
農家が自らの判断で生産や販売を行いやすい環境を整えることが、農業全体の成長につながる
農業分野における政策選択の重要性については、多くの研究がなされてきた。例えば、Valenzuelaらが2008年に発表した研究では、貿易の自由化や規制緩和といった、より農家や企業が自由に活動しやすくなるような政策転換を行った国・地域において、農業の付加価値が平均して4.9%増加したと報告されている。この研究は、農家が自らの判断で生産や販売を行いやすい環境を整えることが、農業全体の成長につながることを示している。
6月6日、スーパーアキダイの秋葉弘道社長は、進次郎大臣の備蓄米供給策を、上がりすぎていた米の値段を落ち着かせ、一般の人々の生活を守るものとして基本的に良い取り組みだと評価した。お店の現場からのこうした声は、農家や企業が創意工夫を凝らしやすい仕組みを作ることが、実際に人々の利益につながることを示している。
JAを通さない直接取引で米の値段が下がったという事実
イオンのような大手小売業者も、国の方針だけに頼らず、カリフォルニア産のカルローズ米と国産米を混ぜた新しい商品を開発・販売するなど、独自の工夫で人々の求めるものに応えようとしており、これもまた自由な活動の中で生まれる健全な動きと言える。JA(農業協同組合)を通さない個人間の直接取引で米の値段が下がったという事実は、既存の大きな組織を通じた流通よりも、個々の農家や業者が直接やり取りする方が、より柔軟で効率的な取引が行われやすいことを示している。
一方で、日本の農業が新しい時代に対応していくのを難しくしていると考えられる意見や姿勢も依然として根強く存在する。2023年8月にJA全中会長に就任した山野徹氏は、2025年6月5日の会見で、江藤拓前大臣の時代にJAグループが高い値段で落札した備蓄米について、進次郎大臣から国に返してほしいという要望があっても、既に全ての米が卸売業者との間で契約済みであり、応じることはできないという考えを示した。備蓄米が2ヶ月以上もの間、十分に人々の手元に届いていないという現実がありながら、一度手にした権利や契約を優先する硬直的な対応は、全体の需給バランスや消費者の利益よりも組織の都合を重視するJAの体質を浮き彫りにしている。
自由取引に対する警戒感と、保護的な仕組みへの強い依存
6月6日、元JA全中幹部の福間莞爾氏は、進次郎大臣が指摘した米流通の分かりにくさや一部業者の高い利益について、「JAが高い手数料を取っていることはない」「必要な経費は当然いただく必要がある」と、これまでの流通の仕組みを擁護した。しかし、一部大手卸の利益が大幅に増えているという事実との間には説明のつかない部分があり、現状を変えることには消極的な姿勢が感じられる。
5月28日、JA福井県の宮田幸一会長は、政府が目指す5キロ2000円台という備蓄米の販売価格について、「米を作る農家の収入に影響が出るのではないかと心配だ」「お米の適正な価格は5キロ3500円から3600円くらいではないか」と述べ、安い備蓄米が出回ることによる市場価格の下落への懸念を示した。この「適正価格」という考え方は、需要と供給で自然に決まる価格よりも、生産者側の都合を優先する発想につながりやすい。また、「JAを通すと米の値段が上がるという話があるが、JAが価格を調整しているわけではない」と反論している。しかし、JAグループが集荷や販売において大きな役割を担っていることを考えれば、価格決定に全く影響がないとは言えないだろう。全体としてJA関係者の発言からは、自由な取引に対する警戒感と、これまでの保護的な仕組みへの強い依存が感じられる。
誰が新しい農業の発展を妨げているのか
農業が新しい時代に向けて発展していくのを妨げているのは、変化をためらい、昔ながらの補助金、保護、規制に頼ろうとする考え方である。それは、JAのような大きな組織が長年培ってきた権利や仕組みであったり、それに頼る一部の政治家であったり、あるいは新しい挑戦の厳しさをなかなか受け入れられない一部の生産者自身であるのかもしれない。
進次郎氏が自民党農林部会長だった2015年頃に訴えた農協改革は、まだ道半ばである。日本の農業が本当に元気になり、意欲のある中小の農家が努力に見合うだけのものを得られるようにするためには、JAのあり方を根本から見直し、一部の農林族議員による分かりにくい政治的な影響力をなくし、そして農家一人ひとりが自分で考えて行動する経営者としての意識を持つことが不可欠である。
行政や農協が全てを決めるのではなく、農家の自主的な判断を尊重し、それを後押しするような環境を作ることこそ、政治が果たすべき役割である。JAが一般の会社と同じような経営の規律と社会の動きを見る目を持ち、組合員である農家の利益を第一に考える組織へと生まれ変わらなければ、日本農業の未来を明るくすることは難しい。