むしろ応援に…小泉大臣は「お父さんに似て相談しない」野村元農水相の皮肉に国民苦笑!見えた親子宰相の道

自らを「コメ担当大臣」と呼ぶ自民党の小泉進次郎農林水産相の“株価”が急上昇している。昨年の自民党総裁選は急失速して勝利を逃し、直後の衆院選では自民党惨敗の責任をとる形で党役員からも退いた進次郎氏だが、今やニュースやワイドショーで取り上げられない日はないというほどの人気ぶりだ。経済アナリストの佐藤健太氏は「『小泉劇場第2章』と持ち上げられ、メディア露出増が高評価につながっている。『ポスト石破』の最有力候補だろう」と見る。はたして、父・小泉純一郎元首相に続く道は切り拓けるのか―。
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就任直後からの小泉農水相の動きは速い
「まだ十分に(価格は)下がっていない。スピードを緩める段階にはない」。小泉農水相は6月12日、無関税で輸入する「ミニマムアクセス米」の主食用コメの入札を6月末に実施すると発表した。備蓄米の追加放出を矢継ぎ早に表明し、高止まりするコメ価格を早期に低く抑えようとする動きは「小泉構文」と揶揄された数々の批判を忘れさせるほどに速い。
昨年の衆院選以降、目立った動きを見せなかった小泉農水相に転機が訪れたのは5月21日だ。江藤拓前農水相が「コメは買ったことがない」などと大放言を放ち、困窮する国民からの大ひんしゅくを受けて辞任。その後任として石破茂首相から抜擢され、今夏に参院選を控える中で「自民党の救世主」と持ち上げられている。
向けられる期待感を意識してか、就任直後からの小泉農水相の動きは速い。5月23日には備蓄米放出について「店頭には5キロ・2000円で並ぶ」と表明。従来の一般競争入札から随意契約に変更し、5月下旬から低価格に抑えられた「小泉米」といわれる備蓄米の店頭販売が始まった。
「ある卸は利益が500%。どういうことなんだろうと普通は思う」。小泉農水相は6月6日の記者会見で、流通過程や利益構造を検証する意向も表明した。その直後の6月9日に農水省が発表したコメ5キロあたりの平均価格(全国のスーパー、5月26~6月1日)は前週と比べ37円安い4223円と2週連続で値下がりした。コメの卸売業者間で銘柄米を取引する「スポット市場」も急落している。
もちろん、こうした小泉農水相の急激な動きには反発もある。
「お父さんに似て相談しない」
自民党の野村哲郎元農水相はこれまで「お父さん(小泉純一郎氏元総理)に似て相談することなく、自分で判断したものをマスコミに発表している」「ルールを覚えてもらわないといけない」などと牽制してきた。だが、小泉農水相は「緊急事態なのでじっくり議論しないと動けないなら、この結果は出せない」「1つ1つ党に諮らなければいけないならば、誰が大臣でも大胆な判断はできない」と反論。コメ価格の下落を待ち望む国民にとっては、野村氏の発言は自民党の”古い体質”そのものにも見え、小泉氏を逆に応援する形になった。また、コメ政策の転換を目指す石破首相も小泉氏をバックアップし、コメ安定供給に向けた関係閣僚会議を発足させた。
最近の小泉農水相の立ち居振る舞いは「内閣に反対する勢力は、すべて抵抗勢力だ」「変わらないなら自民党をぶっ壊す」と言い放ち、小泉旋風を巻き起こした父・純一郎元首相を彷彿とさせる。純一郎政権時代に厳しく追及したことで知られる立憲民主党の辻元清美代表代行は6月11日のBS-TBS「報道1930」で、「非常に鮮やかな対応をされたというふうには思う」と指摘。その上で「自民党政権の農政の失敗なのに、小泉さんが出てきたことで覆い隠すようなことは絶対にされたらあかん。小泉さんの独特のやり方でやっているからごまかされたらあかん」と警戒した。
「コメ担当大臣」の動向が政権の浮沈を左右
昨年の衆院選惨敗によって少数与党となり、低空飛行を続けてきた石破内閣も「小泉効果」で息を吹き返しつつある。NHKの世論調査(6月6日から3日間)によれば、石破内閣を「支持する」と答えた人は5月調査時から6ポイント上昇し、39%となった。政党支持率でも自民党は5.2ポイント増の31.6%で、特に60代では約9ポイント、女性の支持率も約6ポイント上昇している。オワコン化しつつあった石破政権にとって「救世主」であることは間違いない。随意契約による備蓄米売り渡しを進める小泉農水相の対応は「大いに評価する」が27%、「ある程度評価する」が47%で、7割超が肯定的に評価していることがわかる。
ANNの世論調査(6月7、8日実施)でも石破内閣の支持率は34.4%で前回から6.8ポイント上昇している。備蓄米を放出した3月以降のコメ価格が「高くなった」は39.6%、「変わらない」は42.1%であるものの、小泉農水相による備蓄米売り渡しを「評価する」は72.3%に達している。今夏の参院選で重視するテーマで最も高いのは「景気物価高対策」(69.2%)で、今や「コメ担当大臣」の動向が政権の浮沈を左右する状況だ。
自民党は思ったよりも議席を減らさないとの見方
支持率上昇に合わせるように石破政権も息を吹き返しつつある。野党が視野に入れる内閣不信任決議案が提出された場合、首相は衆院を解散する意向を周囲に伝えたとされる。これまで慎重だった国民一律の現金給付にも前向きに転じ、選挙対策に全力をあげる構えだ。頻繁に電話でやりとりしている「石破―小泉」のホットラインによって、「小泉劇場」は第2章に入っていると言って良いだろう。
では、「進次郎大臣」にはどのような未来が待っているのか。そして、近いうちに父子で内閣総理大臣を経験することはあり得るのだろうか。まず言えることは、6月13日告示の東京都議選と7月の参院選の結果次第ということだ。都議選は自民党の「政治とカネ」問題が直撃し、逆風を受け続けることになれば参院選にも暗雲が漂う。
ただ、直近の自民党が実施したとされる極秘調査によれば、参院選は野党の候補調整・一本化が思うように進まない影響もあって自民党は思ったよりも議席を減らさないとの見方が強い。非改選組を含め、自民党と公明党の連立与党が政権を維持する可能性は現時点で低いとは言えない状況にある。とはいえ、参院選で「勝利」すれば石破政権は継続するものの、仮に微減であっても「敗北」と受けとめられれば内閣総退陣という道が見える。
見通せなくなってきた政治動向
その場合、自民党は国民民主党や日本維新の会との連携を強化することを迫られるだろう。連立の枠組みを再構築し、閣内協力を求める可能性は低くない。そうなれば、石破首相に代わって新しい首相を選ぶことになる。国民民主党が連立入りを飲むならば玉木雄一郎代表が宰相ということも考えられるが、自公の議席数が参院で過半数を占めていれば第1党の自民党から内閣総理大臣を出すべきだとの声が強まるはずだ。
石破首相が参院選後に退陣する場合の問題は、次の自民党総裁を選ぶための総裁選を党員・党友票を含めたフルスペックで実施する時間的な余裕がない点にある。物価上昇、コメ価格高騰問題への対応に加え、米国のトランプ大統領が次々と突きつける関税などの問題を踏まえれば、すぐに国会を召集して日本が進むべき針路を国会で審議していかなければならない。
高市氏は麻生太郎・党最高顧問との距離を縮め「議員票争奪戦」に
このため、ポスト石破を決める総裁選は「フルスペック」とはいかず、国会議員のみ、あるいは都道府県連票を足した方式で選ぶ可能性が高い。その場合には、やはり「ポスト石破」の最有力候補は小泉農水相ということになるだろう。昨年9月の自民党総裁選を振り返ると、小泉氏は1回目の投票で国会議員票75票を獲得してトップだった。党員・党友票は61票で2位だったものの、最近の「コメ担当大臣」としての露出増がプラスに働くのは間違いない。
ただ、昨年の自民党総裁選で惜しくも石破氏に敗れた高市早苗元経済安全保障相も「次」に備えている。1回目の投票で高市氏は国会議員票が72票で、小泉氏に3票差まで迫った。党員・党友票の109票を加えれば合計は181票となり、堂々の1位につけている。さらに高市氏は麻生太郎・党最高顧問らとの距離を縮め、「議員票争奪戦」に備えているように映る。
活動を再開した自民党の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」は麻生氏が本部長を務め、本部長代理は高市氏だ。茂木敏充元幹事長が顧問に就き、石破首相と距離を置く議員を中心に約60人が参加している。ただ、高市氏は消費税の減税などをめぐって麻生氏の持論とは距離がある上、前回総裁選に出馬した小林鷹之元経済安保相と支持基盤が重なる。小林氏が「次」も出馬するならば、票が割れることは高市氏にとって痛撃となる。
全てを握るのはコメ
「ポスト石破」候補としては、林芳正官房長官の名もあがる。岸田文雄前首相が率いた派閥「宏池会」(岸田派)のナンバー2であり、その安定感や政策通ぶりには一部に期待する声もある。林官房長官が総裁選に名乗りをあげ、旧岸田派の多くが支援することになれば、「ポスト石破」をめぐる戦いは熾烈さを極めることになるだろう。
ただ、自民党内で誰がトップに就いたとしても衆院で少数与党である現状に変わりない。つまり、次の宰相は「選挙の顔」である必要がある。夏以降も自公政権が維持された場合、ポスト石破の「最重要課題」は早期の衆院解散・総選挙で自民党を勝利に導くことだ。それは小泉農水相であれ、高市氏や小林氏、林氏であれ、同じことを意味する。
今や「自民党の救世主」として奔走する小泉農水相。日本人が主食を思うように食べられなくなった今、この国の行方は「コメ」の動向が握っているといっても過言ではない。