「独身税」が少子化を招く…反論する三原大臣に子ども家庭庁解体論噴出!「一方、東京は独自路線で20~30代人口当たり出生数増加」

「そのうち深刻になる」と見なされていた少子化が、いまや現実の危機として日本社会に重くのしかかっている。2023年の出生数は68万6061人と過去最少を更新し、ついに70万人を下回った。国立社会保障・人口問題研究所の推計を15年も前倒しするペースで、人口減少は進んでいる。こうしたなか、政府は独身税とネットで揶揄される「子ども・子育て支援金」制度などの新たな対策を打ち出しているが、肝心の政策効果を検証する仕組みは乏しい。巨額の予算が投じられる一方で、「この対策は本当に効くのか」という疑問は拭えないままだ。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏がこの問題に切り込むーー。
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出生率“1.15”の衝撃 加速する少子化に政策の手応えなし
驚くべきことに、こども家庭庁は、合計特殊出生率と個別施策の因果関係を示す資料を持ち合わせていない。これは、こども家庭庁自身が浜田聡参議院議員の質問に対して認めた事実である。
同庁は、こども大綱において数値目標や状況を把握するための指標を定めているものの、合計特殊出生率や出生数については、あくまで状況を把握するための指標の一つと位置付けている。特定の施策と直接結びつくものではなく、様々な施策や社会の状況などによって変動するものだと説明する。つまり、巨額の予算を投じる政策の費用対効果を、最も重要な指標である出生数との関連で検証する意思も能力もないと公言しているに等しい。政策の有効性を判断する根拠なきまま、国民に負担だけを強いる構図がここにある。
日本社会は、未曾有の人口減少の危機に瀕している。去年1年間に生まれた日本人の子どもの数は68万6061人となり、統計開始以来初めて70万人を割り込んだ。前年からの減少数は4万1227人にのぼり、9年連続の減少となった。国立社会保障・人口問題研究所が示した将来推計では、出生数が68万人台になるのは2039年と予測されていた。現実の少子化は、専門家の予測を15年も上回る速度で進行している。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.15と、これも過去最低を記録した。この危機的な数字は、全都道府県で出生数が減少するという深刻な実態を伴っている。
“独身税”に批判噴出…政府のズレた言い分
この国家存亡の危機に対し、政府が打ち出した増税が「子ども・子育て支援金」制度である。2025年4月から医療保険料に上乗せする形で徴収が始まるこの制度は、事実上の「独身税」だと多くの国民から批判されている。
政府は「全世代・全経済主体」で子育て世帯を支える仕組みだと説明するが、子育てと直接関係のない独身者や子のいない世帯にとっては、一方的な負担増に他ならない。こども家庭庁の試算では、2028年度には1人あたり平均で月額450円、年収400万円の会社員なら月額650円の負担となる。あらゆる物価が高騰し、実質賃金が低迷を続ける中で、政府は国民の生活に更なる追い打ちをかける。
国民からの批判に三原じゅん子こども政策担当大臣「独身税と言い換えることは間違い」と反論し、石破茂首相も「独身の方に限って課税なんかいたしません」と声を荒げた。が、そもそもそんなことは百も承知で揶揄しているのであり、こうした政府からの発信にネットからは「ズレている」という怒りの声があがる。
「子どもを持ちたくない」若者が多数派に 的外れな支援策が招く現実
そもそも、この政策で少子化が反転すると考えていること自体が、国民感覚から乖離している。日本大学の末冨芳教授らの調査では、15歳から39歳の男女の半数以上が「子どもは育てたくない」と回答した。特に年収が低い層ほどその傾向は強く、経済的な不安が若者の将来設計から「子どもを持つ」という選択肢を奪っている現状が浮き彫りになった。政府の対策は、既に子どもがいる世帯への支援、つまり「子育て支援」に偏重している。結婚すらままならない、あるいは結婚しても子どもを持つ経済的・精神的余裕がないという、より根本的な問題から目を背けている。
効果の検証もせず、的外れな政策に7兆円もの巨額予算を投じるこども家庭庁に対し、SNS上では「こども家庭庁解体」を求める声が上がるのも当然の帰結である。先述の三原大臣の発言に「まずは減税だろ」という声がSNSにはあがっている。
国全体が沈みゆく中で、対照的な動きを見せているのが東京都である。都内では、出生数の増加につながりうる客観的な兆候が現れている。2024年の都の婚姻数は前年から6%以上増加し、コロナ禍以降で最多を記録した。都内民間企業に勤める男性の育業取得率は54.8%に達し、男性の2人に1人以上が育業を取得する社会が現実のものとなりつつある。
東京一極集中批判に潜むズレ 実態は“全国規模の大都市集中”
こうした東京の動きに対し、一部の地方自治体の首長からは「東京一極集中が日本の少子化を招いている」という批判が繰り返される。島根県の丸山達也知事は、子育て世代が最も集積する東京の出生率が日本で一番低いことを挙げ、それが全体の出生率を引き下げていると断じた。これは、もはや数学以前の算数レベルの間違いである。データを見れば、この主張がいかに実態を無視したものであるかは明白だ。
まず「東京一極集中」という言葉自体が誤解を招く。東京都の資料によれば、人口移動の実態は「東京一極集中」ではなく、札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡といった各地域の中核都市に人口が流入する「大都市への人口集中」である。東京都の日本人の人口はここ数年ほぼ横ばいで推移しており、人口増の大部分は外国人によるものである。若者が就学や就職で東京に流入し、30代以降に子育てなどを機に近隣県へ転出するというダイナミックな人口移動が起きているだけだ。
東京の出生率「0.96」に騙されるな 数字に潜む“統計のカラクリ”
次に、東京の合計特殊出生率が0.96と全国で最も低い数字であることには、統計上の「カラクリ」が存在する。この指標は、分母に未婚女性を含むため、就学やキャリア形成のために単身で暮らす10代後半から20代の若い女性が全国から集まる東京では、必然的に数値が低く算出される。子を産む可能性のある既婚女性の割合が他の地域より低くなるため、見かけ上の出生率が押し下げられるのだ。実際の出産環境を示す他の指標を見れば、東京の実像は全く異なる。
住民1000人当たりの出生数を示す「普通出生率」は、東京が6.3%と、全国平均の5.7%や46道府県平均の5.6%を上回る。結婚している15歳から49歳の女性に絞った「有配偶出生率」も、東京は74.9%で全国平均の72.9%より高い。これらのデータは、東京が子どもを産みにくい場所ではなく、むしろ出会いの機会が多く、結婚したカップルが出産する割合も高い環境であることを示している。
地方は減り、東京は踏みとどまる…出生数で見る“少子化の新局面”
最も決定的なのは、出生数そのものの動向である。全国の出生数が2005年から2022年にかけて約3割も減少する中で、東京都の20代、30代の人口当たりの出生数は増加している。親となる中心世代が出産を選ぶ傾向が強まっているのだ。全体の出生数の減少ペースを見ても、全国や他の46道府県が下げ止まらない一方で、東京都の減少ペースには明確なブレーキがかかりつつある。この現象は、東京という巨大な経済圏が持つダイナミズムの結果として捉えるべきである。
効果の検証もできない国の抽象的な少子化対策と、データとして現れる東京のポジティブな結果。どちらが未来につながる道かは明らかである。問題の本質は、東京への人口集中ではない。自治体間のパイの奪い合いに終始し、国全体の活力を高めるという視点を欠いた、政府の無策こそが問題なのだ。東京で起きている現象は、都市の集積メリットが経済成長と人口問題の克服を両立させる鍵であることを示唆している。今求められるのは、根拠なき東京批判ではなく、国全体のパイを大きくするための本質的な議論と果断な実行である。